浮世鴉のパーフェクト配信

[これショタか? ショタだよな? そうだと言ってくれ]

[何気に儂口調初じゃん]

[幼女じゃないっぽいけど、ずっと儂口調のキャラ待ってた感謝しかない]

[一瞬でショタ判定するのなんなん?]

[五万人いくぞこれ]


 目の前の画面にはこれからの配信への期待や、今流れた動画に対するコメント、全部拾いたかったがこの量は流石の儂にも処理することは出来なかった。だけどそれは、それだけのコメントが流れるほどに注目を集めているという事。かなり久しい儂の妖怪としての本能を満たせるこの行為に興奮で叫びそうになるが、今は何より大事な初配信。叫ぶのはあとじゃ。


「改めて大妖怪、浮世鴉じゃ。今宵は儂のはいしん? に来てくれてとても嬉しいぞ!」


 配信画面に表示されたキャラクターがちゃんと動くように、出来るだけ表情を出してアバターを笑わせる。久しぶりにこういう風に大人数の前で喋るが、この調子なら問題なく喋り続ける事が出来るだろう。

 それに時間が用意されてたおかげで、昔の感覚に戻っている。思考も引っ張られるだろうから、余程の事がない限り今の素を出す事などない筈だ。


[まじで性別は何なんだ。ロリなのか?ショタなのか?]

[ショタロリ兄貴は落ち着いて]

[こんばんはー!]

[今は少年に近いけど、さっきの語りの部分的に……わかんね]

[性別:鴉でいいんじゃね?]

[それだ]

[羽ピコピコしてるの可愛い]

[めっちゃ欲望感じる絵だし、凄い可愛い]


「儂……一応、男のこおのこじゃぞ? 可愛いとは言われるのは恥ずかしいのじゃ」


 正直に言ってしまえば、このアバターは実際の俺の妖怪の姿とほぼ変わらないので、こうやって褒められると素直に照れてしまうのう。それに、アバターとはいえこの姿を大勢の人間達に見せたことなどなかったし、本当の姿を褒められるのは慣れてない。


[おーけー推すわ]

[顔を背けたら羽で少し顔を隠した?]

[相変わらずの妖ぷろクオリティ、七尾様も尻尾で顔隠してたしこの謎技術なんなんだ]

[よしショタ、俺の勝ち。なんで負けたか明日までに考えておいてください]

[誰もあんたと勝負してないぞ]

[こんばんはー! 今来ました!]

[これはなんだ? 本当に男なのか]

 

 母上は少年に対して並々ならぬ拘りがあるようなので、そこは否定しなければ。でなければ母上に合わせる顔がないというもの。


「どこをどうみたら儂が女の子めのこに見えるのじゃ? もしや人間というのは性の区別をつけられぬのか?」


 かろうじて残っている現代の素的に思うが、昔の俺はよく人を煽ってたなぁ……今思うと、結構な糞餓鬼だった気がするぞ? 今の言葉を思いながらしみじみとそう感じてしまう。

 今の煽りをネタと認識してくれればいいが五万人近くの人が居るのだ、どんな反応になるかは分からない。のでこれはちょっとした賭けだが、どのぐらいまでならセーフとなるかの確認は大事なので最初のうちに確認しておかなければ。



[おーけー喧嘩なら買うぞ?]

[この煽り顔どっかでみたことあるなぁ……そそるわ]

[相変わらずの妖ぷろクオリティ、煽るときの顔がどれも凄い]

[ショタ……ショタガキ? 分からせ――]

[↑それ以上はいけない]

[めっちゃ煽るじゃん]

[煽り顔可愛い、虐めたい]



 うん反応はいいというか……何というか、やばいコメント多くないかのう?

 もっと、煽りは良くないとかぁ、煽ってんじゃねぇとか……想像してたのじゃが、素直に怖いぞ? 目に映ったコメントが悪かったかもしれぬが、結構どれもこんな感じのようで……。


「の、のう主ら……煽ったのは悪かったから、ちょいと落ち着かないか?」


 自然とそんな風に震えた声が出てしまい、想定してた配信から早速逸れてしまった。

 想像の中では、儂状態の自分の威厳でどんどん視聴者を取り込む! みたいなのを考えてたのに。


[クソザコ鴉……]

[あまりにも、弱い]

[お労しや鴉殿]

[お、これはポンの気配を感じるぞ?]


「話が進まぬではないか! もうよい、自己紹介させて貰うのじゃ!」


 このままでは配信が進まないと思い、強引に流れを変えようとしたのだが、流れコメントが加速していき、自己紹介しようとするの偉いとか書かれる始末。

 儂を褒めるコメントでも拾って、悦に浸ろうと考えてたのに何故こんな扱いに……。


「儂は先程名乗ったとおり浮世鴉。昔は語り鴉とも呼ばれていたが、主らが思った名前で呼びたい名前で構わぬ、今の名も数ある名の一つしかないのでな」



[じゃあウッキーで!]


「それはやめい猿ではないか!?」


[天才がいる]


 それだけはいけない。

 何が何でも阻止しなければ、妖怪の威厳とかが地に落ちてしまう。だがそんな思考とは裏腹に、コメント欄は今のウッキーに賛同する声が多く、ツッコミたい気持ちを抑えることが出来なくなってきた。


「分かっておると思うが、ウッキーは絶対に止めるのじゃぞ? 儂泣くぞ?」


[めっちゃ困惑してて草]

[面白いけどやめとくか、本人嫌そうだし……じゃあ他の呼び方だと]

[総大将、胡瓜大戦、狂天狗、酒猫、ぽん童子、PP妖狐……ここから考えられるのは?]

[ショタだし……今の所は子鴉?]

[それでいいか? まあそれ呼びやすいしいいか」


「じゃあ、そうするかのう。儂について今後SNSで呟くときは#浮世鴉、それか#子鴉で呟いて欲しいのじゃ! それならば、主らの声を聞きやすいし、これからの配信の参考にさせて貰うぞい」


[大妖怪なのに子鴉とはこれいかに]

[まあ本人が嬉しそうだし、いいんじゃない?」

[どや顔と羽ピコ可愛い」


 元々コレに関しては視聴者に決めて貰う予定だったし、子鴉は大妖怪での自分的には首を傾げてしまうが、ウッキーよりは幾万倍かマシなので、一先ずこれでよいじゃろ。


「で次の話じゃ。ファンアートの件になるのじゃが、一般イラストは#浮世鴉の古神社……ないとは思うがあっち系のは#浮夜鴉といった感じじゃな!」


[ないとは思うね……俺達の事を舐めているのか?]

[その喧嘩……買ったよ?]

[覚悟しろよ?]

[雪椿:ふぅん、それは母に対する挑戦? もう沢山書いてるよ?]

[雪椿先生!?]

[何でこの方が!?]


 最初伝える予定だった事を伝え少しに達成感を感じながらコメントを見てみれば、結構有名な絵師の方や、自分のこの体を描いてくれた母上の名前がそこにはあった。


「母上!? 息子に対してそれは酷ではないか!? 愛しい息子ではないのか!?」


[雪椿:可愛い我が子ほど虐めたい気持ち……あるよね]

[流石ショタ物ばかり書く伝道者、発言に凄みがある!]

[既に四作も投稿されてて草]

[この女、一切迷いがねぇ……しょうがない後に続くぞお前達!]


「分かったぞ、この状況が混沌というものじゃな。総大将様の所でよく見てたのじゃが、いざ直面すると凄いのう!」


 少し混乱してしまうが、そういえばこの流れは儂の推しである奴良瓢鮎様……つまり総大将様の所でよくみていたな、VTuberになると決めたときこの流れを作ってみたいと思っていたし、ちょっと感動してしまうな。

 

[凄い笑顔だ]

[もしかして、総大将推しなのか?]

[浮世鴉は百鬼夜行に既に入っていただと]

[なんだ同士じゃないか、存分に大将について語り合おう]

[つまり私達は既に兄妹……母さん、私に妖怪の兄妹が出来たよ、願い叶ったよ]

[奴良様の義兄弟達が急に現れたぞ!]


「そうじゃぞ! 儂がこうやってVirtual界に参加した理由は総大将様がいたからじゃ! それで今の儂がいるのは総大将様がいたからと言ってもいい!」


 ちょっと興奮しすぎてしまったが、その名前が出たからにはこうなるのは仕方ない。だって今の俺があるのは彼女がいるからで、何よりこうやって同じ舞台に立っているのだ。こんなの興奮しない訳がない。


[三期生、妖ぷろ好きが多すぎる気がする]

[気がするじゃなくて実際そうだぞ、皆に推しがいて同士っぽい]

[奴良瓢鮎:お? つまりオレの百鬼に加わるって事だよな!]

[総大将!?]  

[奴良様だ!]


「――ッ!?!? くは、は、さっきまでのは嘘じゃよ? 儂ほどの大妖怪が簡単に誰かの下につく訳ないじゃろう?」


[奴良瓢鮎:……加わってくれないの?]


「あ、加わるのじゃ……いや加わらせて欲しいのじゃ!」


 今の言葉はずるい。

 だってこの言葉は、使われば確実に切り抜かれる程の破壊力を持っている最終兵器。普段のオレっ娘からは考えられないような可愛さを持っているその台詞は、例え文字だろうと耐えられる筈がなく、反射的にそんな事を言ってしまった。


[奴良瓢鮎:はい勝ちー]

[即堕ち鴉]

[何度も見たよこの光景]

[雪椿:儂口調のクソザコ即堕ちショタ鴉+オレッ娘ぬらりひょんね……閃いたよ」

[言い出しっぺの法則って知ってます?]

[雪椿:次売るのそれにするから欲しい人来てね?]


「母上!?」


 そんな魂からの叫びの後も続いていく配信。それはあっという間に一時間を経過させ、気がつけばあと五分で用意されていた時間がなくなるという所まで来てしまった。

 もう立てていた予定は、全部やり尽くしたし……思い残すこともない。


「じゃあそろそろ配信を終わらせようかのう、視聴者の人間様及び同胞よ今宵は儂の配信に来てくれてありがとうなのじゃー! 儂は妖怪じゃから問題ないが、皆様方は体調に気を付けてはやく寝るのじゃよ?」


[お疲れー!]

[鴉様もゆっくり休んでね]

[初配信良かった!]

[凄いぞ同接六万で登録者も四万!]

[これもう妖ぷろの伝説に残るだろ]

[見所沢山だったし切り抜き師頼むぞ!]

[あれ、忘れてるだけかもしれないが、俺らの呼び方決めてなくない?]


「のじゃ!?」


 だがそのコメントを見たのは少し遅く、儂がもう配信を閉じたあとに知って、そしてそんな間抜けな声と共に勢いよく立ち上がれば、そのせいで壁に貼ってあったチェック表が床に落ちてくる。


[OPを流す☑

[自己紹介☑

[儂の呼び名を決める☑

[FAタグ決め☑ 

[視聴者の呼び方決める□]


 

 壁から落ちてきたチェック表には見事に最後の部分に印が入っておらず、それに気付いてしまったことで昔の状態を維持するのを忘れてしまう。


「アァァァァァ! マジやっちまった! 馬鹿かよ、てか昔に引っ張られるとはいえこれは戻りすぎ!」


 さっきまで演じてた昔の自分を思い出し恥ずか死しそうになりながらも、とりあえず俺はSNSでどんなふうに思われているか確認してみることにした。

 確認するのは今日の配信の感想、軽く目を通してみれば好意的な物が多く安心できた……だけど次の行動がいけなかった。

 軽い好奇心で俺がやってしまったのは、今のトレンド確認。結構人も来ていたし、そこにのってるんじゃないか? とかいう軽い気持ちでそれを見れば、そこには予想もしない文字達が―――。

    

日本のトレンド

1.トレンド

#浮世鴉

2.トレンド

#即堕ち鴉

3.トレンド

#総大将大勝利

4.トレンド

#浮夜鴉

5.トレンド

#妖ぷろ三期生

6.トレンド

#ポンコツ鴉


 SNSのトレンドに入っていたのは全部自分に関係あるタグ。

 一つ目と五つ目は全然いいのだが、その他の四つがマジでツッコミどころしかない。配信前から想定していたトレンドとはあまりにもかけ離れたその惨状。

 だけど、これも妖ぷろかと思った俺は、少し痛くなってきた頭を休めるために今日は寝ることにした     

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