錬金術師と魔王刻印~転生したオレは錬金術で世界最強~
碧葉ゆう
プロローグ
#0 プロローグ
※この話は見なくてもストーリーに問題ありません
玲は自分が立っている道路の上に大きな影が出来ている事に気が付き足を止めた。
別に太陽が雲から顔を覗かせた訳でもないのにだんだんと濃く大きくなっていく影。
「なんだろう? 上?」
玲は不思議そうな顔をして顔を上げた。その瞬間玲の顔がさっと青ざめた。
そこからの動きは速かった。
「麗奈! そこをどけ!」
玲は力いっぱい隣を歩いていた美少女を影の下から押し飛ばす。衝撃で少女が手にしていたクレープが宙を舞った。
「先輩⁉」
少女の驚きと困惑の入り混じった声を耳にしながら、玲は頭上から落ちてくる鉄骨を見上げた。
そんな玲の見上げた視線の先を見て少女の顔から血の気が引いていく。
「先輩逃げて‼」
少女の絶叫を聞きながら、玲はバランスを崩し逃げることの出来ない体の力を抜いた。
落下してくる鉄骨を見ながら玲は思う。
どうしてこうなったのだろう……と。
◇◇◇
初夏の朝日が降り注ぐ日曜日。普通の男子高校生である雨宮玲は、買ったばかりのゲームを一日中すると言う予定を取りやめ、朝から本屋にいた。
なぜ玲が本屋にいたかと問われれば、前から発売を楽しみにしていた漫画を電子書籍で買えなかったから、と言う理由が主な理由だった。
買えなかったと言ってもお金がなかった訳ではない。
漫画を購入できるだけのお金はスマホに入っていたし、前にも購入した経験が何度と無くあるので手順を間違えたわけでも無かった。
しかしなぜか原因不明のエラーが多発して決済画面に進まなかった。──まるで漫画を購入出来ないように阻害されているように。
そして玲は電子書籍を買うことを諦めた。
それでもどうしても漫画が買いたかった玲は、半分意地になりながら直接本屋に向かい紙の漫画を買うことにしたのだった。
「よしっ。これこれ! これが買いたかったんだよなぁ。売り切れて無くて良かったぁ」
この漫画人気だから売り切れてるかと思った……。
そう思いながら玲は最後の一冊となった漫画の本を手に取り、レジに向かう。
「お会計六百円です」
店員の手慣れた手付きで行われる会計処理を眺めながら玲はお金を支払うと、ほくほく顔で本屋から退店した。
「ふぅ。ミッションコンプリート。家に帰ろう。その後は漫画を読んでゲームをやり込む! 完璧な予定だな」
欲しい漫画を手に入れて上機嫌な玲が鼻歌を歌いながら家に向かって歩く。暫く歩くと玲の視界にとある店が映り込んできた。
それはネオンの看板で彩られた大きめのゲームセンターだった。
「ゲームセンターか。久しぶりだし、少し寄ってみようかな」
欲しかった漫画は買えたとは言え、朝からフラストレーションが溜まっていた玲はストレス発散目的でゲームセンターに足を運び、施設内で数時間ほど様々なゲームを楽しんだ。
そして丁度昼時の時間になった頃、玲は満足げに背伸びをしながら店から出た。
「くあぁぁ。遊び尽くしたぁ。……時間を使っちゃったな。早く帰ってゲームをやりこまなくちゃ」
玲はスマホを取り出し時間を確認すると、早足でゲームセンタから離れようとした。
その瞬間、丁度ゲームセンターの前を通りかかった少女と玲の目がバッチリ合った。少女は口元に咥えた棒付きのキャンディーを口から離すと、玲の顔をマジマジと見つめる。
「あれ? 玲先輩じゃないですか。ゲーセンで何してたんですか? プリクラ撮影?」
少女はニンマリと口角を上げ、染めた茶色の髪の毛を揺らしながら玲の方に歩いてくる。
彼女は茶髪に色素の薄い瞳。整った目鼻立ちを持つ最近の女子高校生と言った感じの美少女で、名前は秋月麗奈という。
「ここのゲームセンターのプリクラエリアは男性立ち入り禁止だぞ。俺は男だ。女扱いするな」
「えっ。先輩って男だったんですか⁉ 初めて知りました。騙したんですね! 私、許せません‼」
麗奈は憤怒の表情を浮かべながら腕をブンブン振り回し、玲の男子にしては細身な肩をポカポカと叩く。
しかし玲が彼女の憤怒の表情と反応に驚くことは無かった。なぜならこの会話は既に何度も繰り返された玲と彼女の『あいさつ』のようなものだからだ。
「そのやり取り何回目だか知ってるか? これで五〇回目だ」
玲は何度と無く見た麗奈の反応を見て、雑に彼女の腕を払うと呆れた目で彼女を見つめ直す。
「えへへ。すみません。でも先輩の顔がすごく女っぽいのが駄目なんですよ。男にしては髪が長いし、肩幅も狭いし、しかも可愛い。その顔は詐欺ですよ。名前も女の子っぽいし」
「女顔じゃない。中性顔って言ってくれ。身長だって173センチはあるし、そこまで女の子っぽくないだろ。あと名前には触れないでくれ、これでも気にしてるんだからさ」
「ごめんなさーい」
全く反省した様子のない麗奈は、謝罪しながら玲の腕にしがみつくと、頬を緩ませ玲の顔を見上げてきた。
「せんぱーい。向こうに美味しいクレープ屋さんがあるんですよ。一緒に行きません?」
「人の話聞いてた? どうして今の流れでクレープ屋に誘うんだよ」
──全く異性として見られている気がしない。
「えぇ? そんなの今更じゃないですか。ほらっ。いきましょ先輩」
玲の心を読んだかのような返答をした麗奈は、玲の反応に聞く耳を持たずグイグイ腕を引っ張り、クレープ屋のある方向へ玲を誘拐していく。
しばらく歩き続けると二人は若い女子が複数人並んでいる店にたどり着いた。
「あの? 俺……周りから浮いてない?」
「そんな事ないですよ。馴染んでます。大丈夫です。完璧に女の子の一員として」
馴染んじゃだめなんだよなぁ。
玲は小さくため息をつくと、視線を店から逸し、騒音を奏でる建設中のビルの方を見上げた。
工事現場ではちょうど重そうな鉄骨をクレーンで建造中の上層階に運んでいた所だ。
あんな重そうなものよく持ち上がるなぁ。
玲はそんな事を考えながらいつの間にか列に並んで手招きしていた麗奈の方に視線を戻した。
「せんぱーい! そんな所見てないで私の会話相手になってくださいよ!」
「はいはい。分かったよ」
玲はコクリと頷くと麗奈の並んでいる列に並んだ。
すると麗奈は玲の手に握られたビニール袋に視線を向けた。
「そう言えば先輩、その手に持ってる袋なんですか?」
「ん? 漫画だけど?」
「えー? なんの漫画、読んでるんですか? 私も見てますよ。巨人のやつとか。生徒会のやつとか。映画やってたので」
どうやら麗奈は一時期流行ったアニメや漫画は嗜んでいるらしい。だが、それ以外のアニメや漫画は知らないだろう。
そう思った玲は少し恥ずかしくなってそっと本の入ったビニール袋を背中に隠した。
その瞬間、麗奈は面白いものを見つけたとニンマリ笑う。
「あ。分かっちゃいました。エッチな本でしょ。先輩だめですよー。女の子がそんなモノ持って出歩いたら」
「俺は男だ。それにそういうのは電子書籍で……ごほん。ともかく十八禁の本じゃない」
「あらら……。何か聞いちゃ駄目な内容でしたか?」
「いや。ただ麗奈が知らないタイトルだから言いたくなかっただけだぞ?」
玲は妙な誤解を解くために慌ててビニール袋を麗奈の方に突き出した。
「えっ。なんですか? 急に袋を突き出して。やめてください。そういうのに興味無いので」
急に冷たい声色で玲を拒絶をする麗奈。
「違うっ! 誤解を解くために見せるんだよ」
玲はそんな反応を見て一層ムキになると、ビニール袋から漫画を取り出し押し付ける。
「見ても良いんですか? エッチな本だったりしません?」
「エッチな本なら見せたりしない」
「そうですよね」
ほっと安心した顔を見せた麗奈は玲から漫画を受け取るとタイトルに目を通した。
「……あぁ。ライトノベルってやつですか。これと同じタイトルの作品見ました。クラスのオタク男子が読んでるヤツ……。先輩もこういうの見るんですね」
「幻滅したか?」
「いえ、先輩も男の子なんだなって実感しただけです。あっ。チョコレートバナナクレープいください」
話の途中で玲と麗奈の注文の順番が回ってきたので、麗奈はメニュー表を見ながらそう言った。
「先輩は何にします?」
「うーん。何が良いんだ?」
「じゃあアイスいちごバナナクレープにしてください。そして一口ください先輩」
麗奈はメニュー表に細い指を指すと玲の表情を伺いながらそう言った。
「……一番高いやつじゃん。高いのを俺に買わせて自分は安いクレープで済ませようとしやがって」
「てへっ」
麗奈は可愛らしく舌を出すと自らの頭に拳をぶつけた。
「ノリが古い。何年前の動きしてんだよ。あれか? 女子高生の姿をしてるだけで中身は実はおっさんだろ」
「うわっ。先輩酷いです。罰としてアイスいちごバナナクレープ買ってください。三口貰います」
「はいはい。分かりましたよ。お嬢様」
「なんですか? そのノリ。まぁお嬢様扱いされるのは悪い気はしないですね。そのまま続けてください」
そんな会話をクレープ屋の前で延々としていると、いつの間にかクレープ屋の店員に睨まれていることに玲は気がついた。
「あの……いい加減にしてくれませんか? 他のお客様も待っているので」
「「すみません」」
玲と麗奈はタイミングを合わせた様に頭を下げた。
しばらく後に店員に謝罪を終え会計を済ませた二人は店を離れ、近場にある公園に向かって歩く。途中、工事現場の真横を横切ったその瞬間麗奈が玲の肩を叩いた。
「先ぱ…く…さい」
麗奈が何かを言っているが丁度工事現場の近くにいるせいで麗奈の声がかき消される。
「なんだって? 臭い? 俺が? どうやら死にたいようだな。麗奈」
「ちが……。せ…輩のクレー…ダサい……」
「ダサい? さり気なく馬鹿にしてるよな。工事現場の騒音に紛れて俺をバカにするな!」
「だ・か・ら。先輩のクレープくださいってるんです‼」
あまりに玲が麗奈の言葉を聞き取らないことに痺れを切らしたのか、麗奈は玲の耳元で叫んだ。
「うるさっ!」
思わず玲は耳を抑え、顔を伏せた。
その瞬間違和感に気がついた。
玲の周りにはさんさんと日が降り注いでいるのにも関わらず、玲と麗奈が立っている場所はなぜか局所的に日影となっているのだ。
「なんだろう? 上?」
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