夏至

「店長。やっと落ち着きましたね」

アルバイト店員も大変だった。

「そうやなあ」

道の駅の店長は、随分と困ってしまった。

相変わらず売上が伸びない。

おまけに事件まで起こってしまった。

崖の下のキャンプ場は、まだ規制テープが張られたままになっている。


つい先日まで警察車両が道の駅の駐車場にまで駐車していた。


キャンプ場に客は、入れない。

だから、キャンプ場から来店する客もいない。

また、道の駅に立ち寄った客も、パトカーの数の多さに、恐れをなして、すぐに、立ち去る。

報道関係者は、何社か詰めかけていた。

客は、その報道関係者だけの状態だった。

まるで、商売にならなかった。

店を開けていても落ち着かない。

閉める訳にもいかず、弱ってしまった。


遺体が発見された当日、崖の下のキャンプ場の駐車場に何台ものパトカー、警察車両や救急車が来ていた。

三台のパトカーが道の駅の駐車場に停められている。

長い時間をかけて、鑑識課員が遺体の周辺を捜索していた。

待機していた救急隊員が、遺体を救急車に乗せてキャンプ場から搬送した。

刑事が店舗へやって来て、店長は事情聴取された。

以前、毎日のように道の駅に来ていた男の事を話した。

刑事は、店舗の防犯カメラの確認した。

何度も確認していた。


店長は、防犯ビデオの確認に立ち会った。

キャンプ場の駐車場で被害者の車両が特定され、身元が判明した。

「これやな」と呟いて、刑事は、何度もビデオを再生しては、静止画像を見ていた。

道の駅の前は、国道になっている。

防犯ビデオでは、横顔だけしか分からないが、どうやら、別人らしい。

店長は、事情聴取で話した男ではないと、刑事に伝えた。

「一人やなあ」さらに、刑事は何回か静止画像を見て、また呟いた。


店長にも、分かった。

誰かと一緒なら、その人物を探して事情聴取するのだろう。

しかし、被害者が一人でキャンプ場へ来たのなら、キャンプ場へ出入りした車両を全部、捜査して運転手と同乗者を特定する事になるのだろう。


防犯ビデオが必要だと云うので、ビデオコピーを提出した。

幸い、防犯カメラは、国道方面も、キャンプ場の駐車場の出入口付近も捉えている。

しかし、全ての車両を捜査するのは大変な作業だろうと思う。


翌日、被害者の遺族だろうか、六十歳代半ばの夫婦が見覚えのある刑事に連れられて、キャンプ場に立ち寄った。

そのまま刑事と一緒に車で走り去った。

遺体と対面するのだろうか。

それとも、遺体を引き取りに来たのだろうか。


やっと一段落ついたようだが、犯人は、まだ特定出来ないようだ。


被害者の身元や状況は、報道された。

遺体で発見される前日、被害者が借りていたアパートの部屋が火事になった。

盛んに元刑事の談として推理内容を解説している。


店長は、少し安堵していた。

被害者の車両は、あの男のものでは、なかった。

二月頃から、毎日のように、道の駅の駐車場へ来ていた。

トイレの出入口から七番目に駐車していた車の主では、なかった。


キャンプ客から男の遺体がある、と聞いた時は、あの男の事を思い浮かべた。

でも、また不安になった。

あの男が、犯人かもしれない。

そう思った時、苦笑いした。

そんな筈ないか。

「店長。ソフトクリーム四個、お願いします」

アルバイト店員から呼ばれた。


あの男の事は、もう随分と昔のような気がした。

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