差異勘定

真島 タカシ

立春

「店長。今日も来てますね。あそこ」両手に四本の幟を器用に抱えて若い店員が云った。

「ほんまやなぁ。時々、カメラ見とってな」店長は若い店員に頼んだ。

何か事件を起こされては困るからだ。

三十歳前後の男だ。二月に入って毎日来ている。

自殺なんかされても迷惑だ。


県境に、軽食と土産物売場を併設する小さな道の駅だ。

道の駅の前は、山間の川沿いで道幅は狭いが、国道が通っている。

道路沿いには桜が植えられていているが、葉が落ちて枝ばかりだ。

崖を一段降りると、公園とキャンプ場がある。その下には川が流れている。

大雨が降ると公園もキャンプ場も水没する。

自動車で立ち寄る県外ナンバーは多い。特に商用車は頻繁に出入りしている。

駐車場に入って来ても、トイレで用を足すとすぐに出て行く人ばかりだ。


店長も店員も朝十時半に出勤して開店の準備をし、夕方五時半に退勤する。

月曜日が店舗の定休日なので、防犯ビデオで確認すると、その男は来ていた。

いつもの乗用車で来ている。県外ナンバーだ。

今日も濃い紺色のジャンパーと深緑色の作業ズボンを穿いている。

見た目は生真面目な感じで、おとなしそうだ。

一度、誰かに話し掛けられていたが、微笑むというか、苦笑いして首を横に振るだけだった。

「リストラでもされたんやろか」店長が云った。

「家族に言えんで、ここで時間、潰っしょんですかねぇ」若い店員が苦い経験を思い出して、つい口を吐いて出た言葉かもしれない。

それにしては、会社員のような恰好をしていない。

もし、家族にリストラを悟られないようにするなら、今まで通りの服装で出掛けるだろう。

どこかで、着替えているのかもしれない。

勿論、あれが勤めていた頃の服装かもしれない。


土曜日と日曜日、祭日には来ていない。

朝九時前に、決まってトイレの建物の出入口から数えて七番目の駐車枠へ駐車している。

すぐに自動車から降りてトイレに入る。

トイレから出ると必ず灰皿を設置した喫煙場所まで歩き、そこで一本煙草を喫っている。

駐車場で煙草を喫って、そのまま吸い殻を捨てる人も多いのだが、その男は必ず喫煙場所で喫っている。吸い殻も確実に火が消えているのを確認してから灰皿へ捨てている。

煙草を喫ってすぐ車へ戻る。

何度か車を降りて、トイレから喫煙場所を経由し、車へ戻るという行動を繰り返すだけだ。

昼食を摂る事も無い。


その男が、自動車の中で何をしているのかは、分からない。

座席を倒して横になることもしない。

携帯をたまに見るだけだ。時間を確認しているらしい。

本を読むでもない。

誰かを待っている様子もない。

景色を眺めているだけなのだろうか。

冬枯れの寂しい景色を眺めているだけなのだろうか。


今日も夕方五時に、道の駅を県外のやって来た方向へ帰って行った。

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