1-7 森でキャンプをしてても上京したい
ぱちぱちぱちと、焚火が音を鳴らす。
気が付けば日が暮れだしていた。
「暗くなってきたし、今日はもうここで夜営しようか」
「そうだな……」
川でとったマスを火に掛けながら、そんなことを話してから、二人でテキパキとテントを組み立てる。
ただ、今あるのはテントだけで毛布も何もありゃしない。
「とりあえず寝る場所は確保できたけど、夜はまだ結構冷えるし多分そんなに眠れないと思うよ」
「寝床が揺れないだけありがてぇよ……」
「あなたの普段の寝床は揺れるの……?」
揺れる寝床なんてハンモックくらいしか想像できなかった。
後はときどき、本当にときどき起こる地震で地面が揺れるくらいか。
「俺は漁師の家系なんだよ。これでも親父ともう何度も親父と一緒に漁にも出てんだ」
「それって船の上で寝泊まりすることもあるってこと?」
「そういうこと」
「どんな感覚なの?」
「どんなっって、足元が揺れるくらいで正直そんなに変わらないと思うけど……、ああでも自分が重心をズラすと船にも影響が出ることがあるのは不便ちゃ不便だな。多分」
それは私が知らない世界の話だった。
一度くらいは、そういう体験もしてみたい。
にしても重心傾けると船も傾くのか……。
「つまり、船上ブレイクダンスで、船体ブレイクダウンってことだよね?」
「……、なんて?」
「肉体乱心、船体散乱、嵐の夜に、ナンパでこなっごなァっ、でしょ?」
「訳の分からないビート刻まんで欲しい……」
「都会じゃこういうのが流行ってるっておじいちゃんに聞いてたんだけど、違うの?」
「だからうちはここほどじゃないけどそれなりに田舎じゃい!!」
「おっ、そろそろマスが食べ頃かな。食べます食べます、マスマス食べますぅ。おぅいぇ」
適当に生木から切り落としてきた小枝で作った串に刺してあぶっていたマスを手に取って、一口食む。
魚肉の味がした。
魚肉の味しかしなかった。
ただ、腸だけはきれいに取り除かれていた。
「うんっ、おいしい。けど、塩が足りないっ!!」
「まあそれは、俺たち何にも調味料持ってないからな」
私が口にしたのを見てからエイド少年も串焼きのマスを口に含んだ。
もしかしてこれは俗にいう毒味というやつなのでは?
「……、実は警戒してた?」
「してない。ただ俺は魚の焼き加減が分からんから任せてただけだ。しいていうならば、他力本願」
「なるほろ」
そして二人で取った魚を粗方食べつくしてからテントに入った。
私は爆睡した。
とりもなおさず、爆睡した。
とても快い睡眠だった。
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