わらしべハウス②




紺之介視点



紺之介にとって一人暮らしは初めてだ。 目の前に立つ少年が大家であるということも知っている。


―――この人がここのオーナーか。

―――本当に俺より年下とかマジ?


「初めまして。 宙仁鋲斗です」


服装も今風であるが大人しめで、大家であるというのに頭を下げて第一印象で礼儀正しい人だなと思った。 


―――結構真面目そうで大人だなー。


もちろん立地含めてそこそこの物件の持ち主が未成年であるのは普通でない。 ただその事情を深く詮索するような気もなかった。


「よろしくお願いします! 荷物はどうなっていますか?」

「既に部屋まで運んであります。 部屋へ案内する前に少しだけ確認したいことがあるのですが」


そう言われ客室へと案内される。


―――まだ少ししか見ていないけど、既に家がデカいな・・・。

―――この家を貸してくれる理由は聞いている。

―――一人だけとか辛いよな・・・。


「電気代水道代ガス代。 全て込みで月7万円になります」


説明を聞きながら思った。


―――今日は俺以外にも人が来るんだよな?

―――ママに勝る人はいないけど、ママみたいに家庭的で温かそうな女性来ないかなー・・・。

―――俺は彼女作りを狙っているけど、このオーナーにも俺たちが親身になれるような居心地のよさを味わってもらいたいな。


「紺之介さんは18歳ですよね? 趣味は何ですか?」

「趣味ですか? 趣味はママと一緒に」

「ママ?」

「・・・あッ! いえ、間違えました!!」


―――しまったーッ!!


紺之介はここへ来るということで、秘密にしようと思っていたことがあった。 紺之介はこう見えても極度のマザコンなのだ。


「そ、そうですね。 趣味は近所の子供と一緒にままごとをすることかなぁ・・・」

「ままごとですか。 小さい子は好きなんですか?」

「まぁ、好きですね」


実際子供のことは嫌いではない。 近所の子供とままごとをするようなこともないが。


―――危ねーッ!

―――俺は彼女をGETしたくてここへ来たんだ。

―――マザコンだとバレたらもう俺の人生お仕舞いだよ・・・!

―――こんなにもイケイケで異性からモテる俺なんだ、そのイメージを壊したくない。

―――まぁ、毎晩ママには電話をするつもりだけどな?


それだけは譲れないし譲る気もなかった。 誰にも迷惑をかけなければ、プライベートは好きにしてもいいのだ。 一通り説明が終わると真っ黒なペンを渡された。


「これは?」

「ただのペンです。 とても書きやすいんですよ」

「・・・はぁ」

「わらしべ長者、って知っていますか? 物を交換するごとにいいものと交換できるというアレです」

「あぁ、はい」

「折角ルームシェアをするならみんなの仲を深めようと思い、プレゼント交換をしようと考えてみたんです。 自分の私物を交換していったら親しみやすくなるのではないかと思いまして。

 それで、僕からは無難ではありますがこのペンを。 あ、誤解しないでくださいね? 良いものがほしいとかそういう意味じゃなくて、このペンもそれなりに高価なものなので」

「ふぅん、なるほど・・・」


―――まぁ、オーナーの事情もあるからな。

―――確かにシェアハウスで住人の仲がいいっていうのは理想だ。

―――ママがいなくて夜寝られないかと思ったけど、人のぬくもりを感じられればよく眠れるかも。


そう思いペンを受け取った。


「できればわらしべ長者的にもらったものよりもいいものを渡していけたらなと思っています。 紺之介さんは何か代わりに渡せるものはありますか?」


そう言われ紺之介の自室へと案内された。


「あ、中は入らないでくださいね! 探してきますから!!」

「もちろんですよ」


荷物は運んでもらっていたため中は当然見られている。 ただ荷解きするとなると話は変わる。


―――おぉッ!

―――ママと寝ていた寝室よりも広いんじゃないか!?

―――ここに一人とか広々していていいけど、夜眠れるかな・・・。


この先のことを思い少々憂鬱になりつつ、鋲斗の言っていた渡せるものを探す。 荷解きをしペンよりも少しよさそうなもの。 だが持ってきたものは全て母に関するものだった。

というより、荷造りからほぼ全てをやってもらっている。 もちろん生活必需品に関してはこれから用意していく必要があるが、持ってきたものは買うことのできない想いの強いものばかりだ。


―――どれも渡せそうなものがない・・・。

―――どれもマザコンだとバレちまうようなものばかりだ・・・。

―――強いて言うならこれか・・・?


花柄でそれなりに無難なエコバッグを手に取って部屋を出た。


「エコバッグですか。 丁度いいですね。 今はレジ袋が有料化されてしまったので、実用性が高いと思います」

「はは、でしょう? いくらでもあるので渡しますよ」


―――いや、本当は渡したくないけどな!!


「にしても可愛らしいデザインのエコバッグですね」

「あぁ、それは元々妹のものでー・・・」


―――本当はママが俺のために縫ってくれた手作りのエコバッグだよ!!

―――雑に扱ったら許さないからな!?


話しているとチャイムが鳴った。


「次の入居者さんですね」

「じゃあ、俺は荷解きでもしています」

「分かりました。 では行ってきます」


そう言って自室へ戻ろうとするも、新しい共同生活者となると気になるもの。 せめてこれから一緒に暮らすのがどのような人なのかを見てから部屋へ戻ろうとした。

ちなみに紺之介はマザコンではあるが熟女趣味というわけではない。 紺之介の母親はまだ38と若く、チャンスがあるなら本気で結婚したいと思っているくらいには美人だ。

鋲斗がドアを開け、紺之介はその様子を後ろから見守っていた。


「祇耶瑠璃子(ギヤルリコ)です。 よろしくお願いします」


それは温厚でとても優しそうな女性だった。



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