第55話酒の販売を始めました




ダークレイ公爵の命を受けて、公爵の飛び地バーボンの港町にやって来ている。

この町を管理している貿易館のシーザ貿易官は、不思議そうに俺の設置作業を見ていた。

八木アンテナの配線を無線機に取り付け、同じようにソーラーパネルのコードもバッテリーに取り付けた。

無線機の前でシーザ貿易官に取り扱いについて、説明しながら質問に答えてゆく。

かれこれ1時間で納得したのか、電源をオンにして指示された周波数に合わせると話し出した。


「こちらは、バーボンのシーザ貿易官です。応答を願います」


「こちらは、バーボンのシーザ貿易官です。応答を願います」


「こちらは、ダークレイの無線担当ユーズです。御用件は何でしょう」


「無線のテスト中、無線のテスト中、そうだ!公爵にオルバの貿易が成立した事を連絡してくれ」


「無線担当ユーズです。オルバの貿易成立の件、了解しました」


俺の方を振向き、両肩を上げてどうなんだと疑問符を浮かべていた。


「これで今の連絡が伝わったのかね」


「心配でしたら、手紙で連絡して下さい。確認の手紙が届いてから本格的に使うのも悪くありません」


「そうだな、余りにもあっけなくて信用できないし、確認が必要だ。それでこれで終わりなのか?」


「そうですね、終わりです」


港には帆船が何隻も泊まっており、貿易が盛んだと分かる。

帆船から人によって担がれた荷物が、何台もある荷馬車に積み込まれている。

その担ぎ手も大勢居て、列をなして荷物を運んで疲れた様子もない。


大通りを歩き、店先を覗いては商品をチェックして、今後に備えて見て回る。

不思議な陶器を何点か購入して、酒類もお金を払って飲んでみたが美味い酒はなかった。

ある装飾店では、真珠を使った装飾品が高い値段で売られている。

そんな情報もメモ帳に書きながら、ぶらぶらと歩いていた。


お目当ての香辛料の店に入ると、香辛料の匂いが漂い、様々な香辛料が並べられていた。

やはり胡椒は破格の値段で売られていて、警護の人の眼が俺の動きを見続けている。

どうも見られている事に耐え切れず、店を出てしまったが粗方の値段は書き終えている。


ここでの依頼と俺の目的も終わった。

貿易館に行く為、歩いている途中で人が大勢集まり何か見て囁いている。

どうも気になったので覗くと、ガラの悪い男の5人組みが幼い子供に怒鳴っている。


「だから金を何時返すか聞いているんだろー。返せないならこの店を貰う」


「あと少し待って下さい。親が帰ってきたら返します」


「その言葉は聴き飽きたなー、今日返さないと出る所に出てきっちり決めてもらうしかないな」


どうやら金の返済で揉めているらしいが、相手の幼い子供を見ると金髪で耳の尖ったエルフだった。

初めて見る亜人で、興味がわき人を掻き分け前に出た。


「なんだお前は、コイツの変わりに金を払ってくれるのか?」


「ああ、払ってやる。金はいくらだ」


「聞いて驚くな、200000ドルカだ」


袋から金貨20枚を取り出し、相手に渡した。


「借用書は返して貰おうか」


この中のリーダーだろう男が懐から投げ捨てるように返した。

地面に落ちた借用書を拾い、子供にも見せて確認をすると男らの姿はなかった。

子供をあやしながら店に入って事情を聞いてみた。


亜人が珍しかったので、エルフついて聞いてみた。


何でも母親は、ボートで1人だけの生存者で漂流していたらしい。

航海中に黒海で魔物によって沈没させられた。

この港の帆船に助けられ、ここに住むことに成った。

黒海を越えて帰る船がここには存在しないことで、ここで生きる決心をして現地の男と結婚をした。


母親のバーミラには精霊魔法が使え、装飾品に付与魔法を与えその品々を販売していた。

それがこの装飾付与店[バーミラ]であった。

隣の領主より家宝の装飾に付与を与えて欲しいと、依頼がやってきて夫婦で向かったのが1ヶ月前。

商業ギルドを通して連絡したが、既に帰ったと連絡があり商業ギルドもどうしようもなかった。


1週間前からあの男がやって来て、脅しまがいに金の請求をしてきた。


長女のバーラーと弟のライトを伴ない、商業ギルドにやって来たのは確認の為だ。

相談窓口で借用書を見せて、本物かとたずねた。

返事は本物であると返され、親達についてたずねたが商業ギルドも、向こうの商業ギルドの伝手を頼ったが何も情報はなかったらしい。

しばらく考え、相談窓口の受付嬢に再度相談した。


「この子らに、私の商品を卸して商売を続けさせることは出来るでしょうか?」


「商品は何でしょう」


「酒です」


「販売はできますが、酒場のような事は出来ませんよ。しかし1年後にバーミラさんが戻らない場合は、再度商業ギルドに加入して頂きます」


「分かりました。その時はお願いします」


2人の手を繋いで店に帰ってきた。


「分かるな、2人で協力し合って親が帰ってくるまで・・・頑張るんだよ」


「弟の為にも頑張ります」


以前仕入れた、ウイスキーやウオッカを店内に並べて紙に[酒の販売を始めました]と書き表に貼っておいた。

俺は2人を連れて酒場にやって来た。

店主の恐い顔が睨んできた。


「ガキを連れてどうするつもりだ」


俺はウイスキーとウオッカをテーブルの中央に置いた。


「これは俺の国の酒で、この子らに卸すことに成ったので値段を決める為この酒場に来ました」


「異国の酒か美味しいのか? 」


「この2本はタダで上げます。値段の相談にのってくれますか?」


「まあ、タダなら相談ぐらいのってやるよ」


コップを出し、フタの開け方が分からないようすだったので、俺が開けて注ぐとグッと一口で飲んでむせていた。


「何だこの酒は、頭にガツンと来たぞ」


「ウオッカです、アルコール度数が高いので少量で酔います」


「何だアルコール度数、分からん言葉を言ってまあ良いか、600ドルカでどうだ」


「いいでしょう。店の名はバーミラです」


「わたしが店番をしてます。よろしくお願いします」


「良いてことよ」


次のウイスキーも飲んで、味に深みが有ると言って800ドルカになった。

この酒場は庶民の酒場だ、余り高い値暖だと売れないことは分かっていた。

水で薄めて飲ませば採算は取れるらしい。

スコッチウイスキー700ミリリットル1062円で国産のウイスキーだと3倍の値段になる。

ウォッカ750ミリリットル1445円


この子らに、スコッチウイスキーを400ドルカで卸して、200ドルカの収益になる。

スコッチウイスキーは、500ドルカで卸して、300ドルカの収益でなんとかなりそうだ。

この値段は酒場へ対して値段なので、店頭では少し上乗せしてもいい。



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