くちびる・夢うつゝのオッパイ

桐壺 艶太郎

第1編 「おパンチュの色」

 おふくろが肝臓ガンにおかされたと初めて親父に聞かされてから、少しでも両親を元気づけようと、京都の大学に通いながら大阪の実家まで、足繁あししげく顔見せをしていた。


 ガンが肺に転移して、いつ危篤きとく状態に陥つても不思議ではない状態になって数ヶ月が経った冬休みも実家に帰っていた。 

 年が明けて十数日が経った、今日中に下宿に戻ることに決めていた。



 そんな朝、スマホに意外な人からテキストが入った。


《今、大阪の実家に里帰り中です。お会いする時間は?》


 うれしいサプライズ、まさか彼女の誘いを受けるとは思っていなかった。

 会いたい。

 ただ、着のみ着のままの何とも貧相な格好が情けなかった。


《ボク、いろいろあって、汚いボロ服で頭もボサボサ、いつもめてるコンタクトレンズ持ってきてないし、メガネのフレーム曲がっちゃってて。

 どうしても今日じゃないとダメ? 近々こっちから岡山まで行くよ。》


 しばらくして、またメールが入った。

《いいじゃないですか。どんな格好でも艶太郎さんは艶太郎さんですよ。》


 ますます嬉しい。思い切って返信する。

《では喜んで。大阪の地理分かるよね。どこがいいかな。ボクは公園ウロウロするのが好き、鶴見緑地わかる?。昔、花博があった所なんだって。》


 間髪入れずに返信が入る。

《大丈夫、カーナビあるから。ちょっと遅いけど午後四時に待ち合わせでOK?》

 彼女が車の免許を取得済みなのは知ってはいたんだが。

 しかし交通量が多く荒っぽい運転を気取るアホどもの多い大阪市内を悠々ゆうゆうと運転できるとは知らなかった。


《OK!》と送信すると、即座に笑顔の絵文字が返ってきた。


 心を落ち着けて話のネタでも考えようと、早めに待ち合わせの場所に着いた。


 しばらくして

「艶太郎さ~ん!」という声とともに彼女が現れた。

 見た目も声も、少女のようなかわいらしさである。


「やあ。なんか照れるナ。迷わんかった?」

「大丈夫ですよ。駐車場を探すのにちょっとだけ迷ったけど。」

「そうか。もっとわかりやすいところがよかったかな。」などと、あいさつ代わりにどうでもいい話をしながら公園へと向かう。

 知的でイヤミのない受け答えにすっかり心を奪われていた。


すれずれに歩いてしばらくし、彼女から二歩ほど後を歩くようにした。

 ミニスカートを小刻みに揺らすお尻がなんとも可愛い。


 イタズラ心を起こし、彼女に訊いてみた。

「今日は何色の履いてるん?」

「さぁ、何色でしょうねぇ?当ててみてください。」

「えーっとぉ。薄いベージュ。」

「違いますよぉ。当たったら見せてあげようと思ったのに。」

「そんなことない。当たったんやろ。透けて見えてる。当たりや、見せてぇっ!」

「ダメです!ハズレやから。」

「そんなカタいこと云わず、ちょっと物陰で見せてくれたってええやないか~。」

「また今度、当たったときにね。」


 彼女は男のアホな話をさりげなく受け流すことを心得ていた。モテるんだろうな。

 そんな、ある種老獪な彼女がたまらなく可愛い。

 可愛くてたまらないからこそ、人の往来の真つ只中で強引に彼女にキスしてみよう。そう決めていた。


 ベンチに座る。とりとめのない話をして、

「オッパイは元気ですかぁ~?。」などとばかなことを言いながら彼女の肩に手を回した。彼女はほんの少し抗うように体をのけぞらせたが、すぐに何の抵抗もしなくなった。

 意図せずして、手がブラジャーのカップ上部にわずかに触れた。そのままんでも彼女は怒りはしなかったろうけど、ぐっとこらえて手を引っ込めた。

 余りに軽いエロ男と思われるのがイヤだったし、じっくり「長いお付き合い」をしたいと考えていた。


 彼女の上半身をこちらへと少々捻ひねって向き合う姿勢にし、彼女を強く抱きしめた。そして、行き交う者どもの視線委細構わず、彼女の瞳を覗き込んでから、思い切りキスをした。

 彼女は靜かに目を閉じていた。・・・あぁ、おいしい。


 いい歳して童貞のキミ、そこのキミだよ。分かるかい?

 可愛い女の子のくちびるや舌っておいしいんだヨ。


 くちびるだけではない。

 オッパイの先も、おヘソも脇の下も、/\*/\(下記注釈)も、全ておいしいのだ。


 今日中に下宿に帰るなんてすっかり頭から飛んでしまっていた。

 どこまでもおいしい思いをしなくては、こんなチャンスを逃してはならん。

 そんな妄想がくちびるに、更においしいスパイスを加えていた。


 余りに軽いエロ男と思われるのがイヤで、じっくり「長いお付き合い」をしたいと、ハテ? 考えてた、か、のう。昔の話だったかな?


 っていた。 まったく親不孝な股間だった。


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 親孝行したいときには親はなし(松尾芭蕉)  


 親孝行したいと思ふ我なれど 不幸をお許しください(小野道風)


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注釈 /\*/\ 中華人民共和国で使われる簡体字(俗字)で、(広東語でおまんこ)と読む。






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