突き進め!偽装ファミリー

7話:モデルファミリーとは?

 モデルファミリー制度。


 それは一時発展国として世界の最高峰を突っ走っていた日本が、目前に迫った大恐慌時代を乗り切るために打ち出した打開策。

 あらゆる面でマイナスダメージを受け続けていた日本が、なんとか水面下から浮上しようと苦心の末にあみだした制度なのだ。


 その中身は単純なもので、毎年日本全国からモデルとするべき理想の家族を1組選んで表彰しようというもの。

 制度ではなく、感覚としてはイベントに近いだろう。


 「理想の家族」の条件は、他人がうらやむ家庭、円満な家庭、幸せな家庭であることが重要。 


 もちろん何を持って理想とするかは人それぞれだ。多様性が重んじられる社会において、子供を産まないという選択肢もあるし、男性が主夫を担うこともある、仕事をセミリタイアして田舎暮らしもありだろう。

 

日本国民がこんな風に生きてみたい、この家族が素敵だ、そう感じたファミリーにインターネットを通じて投票を行う仕組みになっている。


 超高齢化社会の真っただ中にいることもあり、祖父母と同居している家族には高齢者の票が集まりやすく、子供がいる家庭には若年層の支持が集まりやすい傾向にある。


 そんな理由から、祖父母と同居する家庭が増え、子供を産むことに迷いがある女性の背中を押すきっかけにもなっている。


 制度には全方面の国民に納得してもらえるよう細々とした配慮が加えられているが、暗黙の了解として家族みんなが元気で生き生きしている家庭の方が多くの人から支持されやすいという傾向がある。

  

 モデルファミリーの頂点を目指す家族は常に周りからの視線を意識し、身を粉にして自分たちなりの<理想の家族>を築きあげる。


 最初に市町村単位、そして都道府県ときて、最終的に東北、関東、近畿といった大まかなブロックに分かれ、最終決戦を戦うことになる。


 今回、世良田一家は市・県と予選を勝ち抜き、関東地区のモデルファミリー代表に選ばれた。


 最終的な結果は年末に行われる国民投票により決定することになっている。

 優勝者には国民に支持された家族という輝かしい名誉と共に、副賞として7億円が贈呈される。

 

 こんな制度で日本の経済が上向くわけない、と思っていた政府関係者達。ところがどっこい、蓋を開けてみればこれが日本経済に思わぬ効果をもたらし始めたのだ。


 国民の目標はモデルファミリーとしての名誉よりも副賞の7億円に集中する。お金のために子供を育て、離婚を踏みとどまり、姑とも同居する。


 純粋な理由からではないにしろ、介護問題と出生率の低下は幾分か軽減されてきた。それに伴い、日本経済にも僅かばかりと回復の兆しが見え始めてきたのだ。

 

 たかだか年に7億円をばらまくだけで日本に活気が戻るなら、と日本政府は大喜び。大々的にキャンペーンを行った。


 これにテレビやメディアが乗っかり、数十年ほど前まで恒例だった年末の歌合戦はモデルファミリーの開票中継にとって変わられた。

 しかも、ここ数十年は平均視聴率60パーセント台と安定の結果を残している。


 元来祭り好きの日本人、国をあげての一大イベントには積極的である。

 どの家庭にもチャンスがあるとなれば、やる気も沸き、陰鬱だった日本のムードが徐々に明るくなってきたのだ。


 こうして、モデルファミリーは日本政府の思惑を遙かに凌ぐ地位を固め、日本国民の1年に1度の一大イベントとして、定着するに至った。

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