6話:すべては7億円のために
バン!!!!
「あんた達!!!!!!!」
「「「ハ、ハイッ」」」
うつらうつらあっちの世界へ逝き始めていたケンジとタキは、栄子の大声で飛び起きて心臓を押さえる。
<家族が健康で幸せに>を強調している割に、案外2人をショック死させるのは栄子なのかもしれない。
「あたしの言うことが納得できない人いる?」
もちろん誰も手を挙げない。
栄子は満足そうにみんなを見渡して、笑みを見せる。
「あと半年、あと半年我慢すればあたし達が今年度のモデルファミリー確定なのよ。先週出た下馬評でもダントツTOPだったんだから。いいこと? ――あと半年を乗り切れば……」
そこで一呼吸置いて、みんなの期待を一気に煽る。
「――7億円はあたし達のもの」
キラリ~ン♪
パソコン画面に釘づけの誠と、大金の価値が今いち飲み込めてない千秋と、2食きっちりエサさえもらえれば文句なしの犬を除いた面々の瞳が、ほんの一瞬キラリと光った。
ケンジとタキでさえも、とぼけた瞳の奥に野心が見え隠れする。
――7億円。
なんと甘美な響き。
お砂糖をたくさんまぶしたチョコより甘い。
「7億円かぁ」
「7億円じゃのぉ」
「7億。――悪くない」
口々に「7億」という名の呪文を唱えれば、あら不思議、みんなの気持ちが再びひとつになった。
「あと半年、完璧なモデルファミリーを演じきる。それがあたし達に与えられた使命」
声高々に、栄子が宣言する。
さっきまで引き気味だった面々も、7億円という魔法の言葉で感覚が鈍り始めていた。
栄子がさっと右腕を伸ばす。
すかさず、勇治がその上に自分の手を重ねる。次いで、美園。
夏美と千秋もその上に手を乗せ、揺りイスから重い腰をあげたケンジとタキもそれにならう。美園が目で合図すると、渋々といった表情で誠も立ち上がり、ひっくり返って昇天している犬のあんこを抱き上げ、円陣に加わる。
みんなの手の上に誠の小さな手と、ふわふわしたあんこの肉球が乗せられる。
それを確認した栄子は声を張り上げる。
「――全ては明るい未来のため!」
残りの面々がその言葉を復唱する。
「「「明るい未来のため!」」」
「――無限の可能性を手に入れるため!」
「「「可能性を手に入れるため!」」」
「――全ては……」
「「「――全ては」」」
「――7億円のため!」
「「「――7億円のためっっっ!」」」
ウォオォォオォォ!
世良田一家のモチベーションはてっぺんまで昇りつめていた。
そう、全てはモデルファミリーの頂点に立つため。
輝く未来を手に入れるため。
夢にまで見た――7億円を手に入れるため!!
今まさに世良田一家はかつてないほどの結束感を感じていた。
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OJ: Hi,リエ、元気かい?
リエ: ハイ、OJ。元気だよ
OJ: 実は近々そっちに遊びに行くことが決まったんだ
リエ: ほんとに? もしかして会える?
OJ: もちろんだよ
リエ: WOW! すごく楽しみだな
OJ: こっちこそ楽しみだよ。また近いうちに連絡するね
リエ: OK! 待ってる
OJ: じゃあまた!
リエ: また、近いうちに
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