新しい年と、新しい私

今福シノ

 大みそかだっていうのに、店内には絶えずお客さんがいた。


 まったく、ステイホームって言われてるんだから、家で大人しくしてればいいのに。時折、レジにやってくる人の対応をしながら、私はそんなことを思う。

 ……ま、こうしてバイトで外出してる私が言えたセリフでもないか。


 外はすっかり暗い。店の前の国道を時々車が通って、ライトが流れ星のように現れては消えていく。


「今年もあと数時間で終わりだな」


 ようやく客足が途絶えたところで、隣からしぶめの声がした。同じシフトで入っているバイトのセンパイの瀬戸崎せとざきさん。アラサー。最近ひげを無精ぶしょう気味。


「しっかし上埜うえのも働きものだな、こんな日までバイトとは」

「それを言ったらセンパイもじゃないっすか」

「俺はヒマだからな。それより実家には帰らなくてよかったのか? たしか山梨だろ?」

「帰りたくても帰れなかったんすよ」


 昨今のご時勢じせいが原因で、かけもちバイトをしているカラオケ店が休業。おかげで収入は激減。なのに学費も家賃も待ってはくれないときた。今のお財布事情では、いろいろと切りめなきゃいけない。結果、私は最初に年末年始の帰省に必要な交通費を選んだ。


「はー、大学生も楽じゃねえな」

「ほんとそうっすよ」


 まあ実家に帰ったところで特になにもせずにダラダラしてるだけだろうし、ある意味帰らずにバイトをしてる方が有意義かもしれない。大みそかは時給もいいし。


「実家に帰らないなら、彼氏と過ごしたりしないのか?」

「私にそんなのいないって知ってて訊いてますよね、それ」

「いやいや、俺の知らない間に彼氏ができててもおかしくはないだろ。ピチピチの女子大生なんだし」

「それ、セクハラっすよ」

「いでっ、いたた、上埜、足! 踏んでるって」

「わざっとっす」

「こえーなあ女子大生。退散、退散」


 笑いながらバックヤードに逃げていく姿を、私は半眼で見送る。それから、店内をぼんやりとながめる。


 客のいないコンビニというのはどこか殺風景さっぷうけいだ。聞こえてくるのは、暖房がききすぎて乾ききった空気の中を流れていく有線の音楽だけ。だけどそれはどこか遠い宇宙の先にあるようで、私の耳に届くころにはその輪郭はすっかりぼやけていた。

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