本編
ぼく、岸田貴司は神様のミスで突然死んでしまった。
「いや、ミスでそれはないよ!」
「いやいや、すまんね、なんとかはするよ」
というわけで、ぼくはこの異世界に転生したんだ。
今はタカシとして、ポメラニアという街で暮らしている。もちろん、ただの高校生だったぼくがいきなりチート級の能力を手に入れたわけではない。
この世界には魔法があるから、普通なら使えないようなスキルも使えるようになる。
例えば、「鑑定眼」とか「アイテムボックス」とかだ。
これらのスキルを持っていると、そのスキルに応じた職業につくことができるのだけれど……。
残念ながら、今のぼくはまだステータスをチェックできるほど強くなっていないし(なんせまだ5歳児だから)、ましてやダンジョンなんて怖くて潜れない! まあでも大丈夫さ。
そう簡単に死んだりしないってことは、元の世界で実証済みだしな!!
5歳の誕生日を迎えて1か月後。
朝起きて歯磨きをして顔を洗っているところに、父さん母さんの会話が聞こえてきた。どうやら今日は父さんが狩りに行くようだ。
ちなみに狩猟といってもイノシシじゃなくて、クマなんだよね……うちの父さん。それもグリズリーと呼ばれる種類らしいんだけど、よくそんな大物を相手にできるものだと思ったりする。
ぼくにも今度こそ「剣聖」の才能が現れますように。そしていつか冒険者になってみたりして?!……とか
想像していたところでふと思い出した。……そうだ! 剣術を教えてくれそうな人といえば、近所に住んでいるあのおじいさんしかいないじゃないか!!! 早速行ってみるとしよう。
「じーちゃんこんにちわっ!!」
鍛冶屋の裏にある自宅兼作業場に飛び込んでいくと、驚いた様子の父親がいた。
「あれ、タカシ?」
ああまずいな、邪魔してしまったかもしれないぞこれ……。
「ごめんなさいお父さん。えっと……」
謝ろうとしているところへ、奥の方から声がかかった。
「おお来たか坊主。こっち来んかい」
はぁ~助かったぜ〜。……お爺さんの名前はジャンと言って、若い頃はかなり腕の良い鍛冶師だったという。今でも時々武器防具なんかを作ってくれているけど、普段は近所の子供達相手に稽古をつけてあげてるみたいだ。
ぼくのような子供が来ることはほとんどないらしく、何事だろうかといった表情をしていた父さんだったが、それでも何も言わずに送り出してくれた。
やったーありがたい!!! 実は前から気になっていたことがあったんだよねぇ~♪
先日の出来事を思い出す―――
木刀を手にした老人に向かって突進していく少年の姿があった。彼は祖父に向かい大きく振りかぶった手を振り下ろすと叫んだ。『参る!!』
(うぉ!?ちょっと待ってくれ~)
内心慌てていたのは、そこに居た青年だった。しかし彼もまた真剣を手にしており、そのまま相手の打ち込みを受けるしかなかった。
ドンッ!!!ガキィィン…… 重い音とともに火花が激しく散ると、相手はそのまま地面に崩れ落ちた。……勝負あったようであった。だが青年はそれどころではなかった。なぜならそこには思い詰めた顔の少女が立ち尽くしていたからだ。少女の名はアメリアと言い、彼に思いを寄せる幼馴染でもあった。
一瞬目を見開いた彼女であったがすぐに駆け寄ってくると、心配げに話しかけてくる。
「大丈夫ですか?どこか痛めていませんか?」
幸いにして大した怪我もなかったようで、彼は笑顔で答えることができた。
「ああ大丈夫だよ。それにしてもなかなか良い太刀筋だったね」
それは本当のことだった。だからこそ彼は油断しなかったのだ。
その言葉を聞いてほっとしたのか、彼女は目に涙を浮かべながらも嬉しそうにしている。それを見ているだけで彼にとっては幸せな気分になることができたのである。……………… 道場へとやってきたところで足を止める。すると中からは掛け声と共に激しく打ち合う音が響いてきていた。
コン、カンという乾いた竹の音に合わせて二人の剣士が動いているようだ。
中では20人ほどの子供らが修行をしているはずなのだが、彼らの動きにはまるで乱れがない。
その中で一際目立つ存在が、この道場の師範代であり、彼の師匠でもある、ゴドフリー・ゴーソンという名の男性なのであるが……。
とにかく身体が大きい。身長では既に2メートルを超えているだろう。しかも全身を覆う筋肉も凄まじく、ひとたび怒ればまさに鬼と化す。
また、剣の腕前となれば超一流といっても過言ではない。
僕が5歳の時に初めて出会った時にも、まだ冒険者を引退して数年しか経っていなかったにも関わらず、全く敵わなかった。
あれ以来僕は何度か挑戦したりもしてきたが、未だに勝ったためしはない。……まあそもそも本気で戦ったことすらないのだが。
そして今日こそはその強敵を打ち負かすべく、こうしてやってきているわけなんだけど……。
入り口に立ってしばらく考え込んでいたものの、やがて意を決して中に踏み込んでいった。
「失礼します。……今日こそ勝たせてもらいますよ」
「おう!かかってこいや!!」
僕の挨拶に対して、楽しげに応じる師匠の姿を見て苦笑する。まあいつものことなのでもう慣れっこではあるんだけどさぁ。……よしっ、気合を入れていくか!
「じゃあいきます!!」
勢いよく飛びかかった。
「おーりゃっ!!」
「むぅ、まだまだ甘いぞ小僧!!」
「ぐわっ」
あっけなく弾き飛ばされてしまった。
「ふぬっ!」
「うわっ」「せいっ!!」
「ひぇっ?!……って、あ、あれ?」
その後も何度も立ち向かっていくものの、結果は同じ。
「だーっ!!」
「甘え!!」……結局一度も勝つことはできなかったのだった。
「……しかしあれだけやって息一つ切らさないんだもんなぁ〜」
はぁ〜流石は本物の化け物……っといけない危なかった。つい本音を漏らすとこだったぜ。
(ふー……そろそろいいか)
5回ほど転ばされてようやく立ち上がったところへ声がかかる。「どうだ、少し休んでいくか?」……え?いいんですかっ!!(ぱぁ〜♪)
はしゃいだ声で返事をしながら、そのまま床に大の字に転がってしまった。
ふう……やっぱり疲れるわこれ……でも何かこうやってみると気持ち良くなってるような気がしないでもないかも……うん!?これはまさか"瞑想状態に入る前兆"というものではないか!?(←違)
よしこのまま寝てしまえばきっと夢の中でリラックスできるに違いない!!
(ムニャァ)…… ---
「タカシ!?ちょっと大丈夫ですかあなたっ!!!」
(はっと目を覚ましたぼくは起き上がるなり叫んだ!!)……ん!?母さんの声……い、今のは一体何なんだ……!?
(嫌な予感がした僕は部屋から飛び出した。すると廊下の奥の方からバタバタッという大きな足音が迫ってきた!!?)
「おい坊主どこ行くんじゃあああっ!!!逃すかボケェッ!!」
げげ、あの人ったらいつの間に追い付いてきたんだよ? 必死で逃げようとしたけど、たちまち捕まって引き戻されてしまった。
「うげぇ……」
その後、散々しごかれたあげく、ぼろ雑巾のように倒れ伏した僕だった。…… その日の夜、自室でベッドに横になっていた僕は、昼間のことを思い出していた。
「それにしてもなんだったのかな、あれ?」
今になって考えてみれば、とてもリアルな体験だったような……。
その割には記憶があやふやで、細かいことは思い出せないのが残念だけど。
でもどこか懐かしかったというか……。
そんなことを考えながらいつの間に眠っていたようであった。
チュンチュン…… 朝になった。
窓から差し込む日の光とともに小鳥の鳴き声も聞こえてくる。
部屋の中を見渡せば既に起きた家族の姿がある。いつもどおりの光景である。……そう、何も変わりのない日々のはずだったのだが……。
その日、朝食の場で父が言った一言によって、僕の日常は大きく変化することになるとは思いもよらなかったのだった……。
「実は、お父さんの仕事の都合で引っ越すことになった。皆には明日から新しい学校に行ってもらうことになる。もちろん私も一緒にだがな。……まあ今までみたいに会う機会も減ってしまうかもしれないが、お前たちも仲良くやってくれ。以上。」
…………はいぃっ?!な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、なな、何を言って……!!!?
……そして翌日。今日はその引っ越し先の小学校へ登校する初日なのだけれども。
目の前にある巨大な門を見ながらため息を吐いていた僕がいた。……この先に待っているであろう運命に対して一抹どころではない不安を覚えずにはいられなかったからだ。
ある転生者の自伝(幼少期) 今村広樹 @yono
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