第25話 エピローグ
正社員として働かない、という選択肢を取ったハカドル。小説家を目指し、毎日、コツコツと執筆するのは、世間からしたら非常識かもしれない。しかし、本を読んで勉強したことは、世間体を気にせずに、自分の道を突き進め、ということだった。
死ぬ前に後悔することの一位は、冒険しなかったこと。
ハカドルは人生ずっと冒険し続けようと思った。人生は冒険だ。この名言も、あながち間違いではない。ずっと挑戦し続けることは、若々しく、寿命をのばすことにも繋がる。
だからハカドルは毎年、新しいことに挑戦する。30歳になっても40歳になっても。チャレンジし続ける。
小説家を目指す。投資家を目指す。イラストレーターを目指す。
五月。実家に戻り、B型作業所の仕事にも慣れ、クリップスタジオの基本的な使い方をマスターした季節。ハカドルはミサキに電話した。
「もしもし」
「もしもし、お久しぶりです」
「ミサキさん。僕の引きこもり救出作戦は終わったんですか?」
返答は予想通りの結果だった。ミサキから、
「はい、終わりました。あとはケアマネージャーと相談しつつ、月に一回のモニタリングに移ります」
経過観察というか何というか。東金沢での、毎日に及んだミサキとの授業は終わりを告げた。立派とは言い難いけれど、やっとこさ社会人デビューしたハカドルはもう更正プロジェクトを受ける必要がなくなった。
月一でミサキに会うことはできる。しかし、それでは本当に、それっきり。仕事だけの関係に終わる。このままじゃいけない、と踏んだハカドルは行動に出た。挑戦だ。
「約束……覚えていますか?」
「?」
無言のミサキに電話で言い寄るハカドル。
「兼六園でデートする。旅に出るって授業を、まだ終えていません」
「ああ、そうですね。忘れていました」
あの時、ハカドルは緊張からパチンコに逃げた。しかし、彼女持ちの今のハカドルならば、最愛の人とデートするのに多少は余裕が持てる。だから、攻撃に出た。ラスボスを倒す準備はできている。
「俺ともう一度、兼六園に行きませんか? ミサキさんとぜひ一緒に金沢で勉強したいです」
教師を、勉強を言い訳に連れ出すのは反則かもしれない。けれども数々の本を読んだハカドルならば、強引にでも女性を口説くすべを心得ている。引き際も。ミサキに迷惑をかけてまでアプローチするのは美学に反する。非モテコミットにならないように、あくまで冷静にデートに誘った。
ミサキからの返答は、
「いいですよ。兼六園に行きましょう」
快諾してくれた。しかし、あくまで生徒と教師の関係。これ以上、一歩進むには仲を深めるイベントが必要になってくる。
でも本で全部、予習済みだ。エロゲで鍛えたハカドルならばロマンティックを演出できる。自信があった。
「やったー!」
彼女持ちのハカドルが、別の女性の、ミサキを口説くと、三角関係に発展するかもしれない。常識的にはまずい。けれど、不倫は文化だ、と名言(迷言?)があるように人生は法律に触れず、人に迷惑をかけなければ、だいたい何をしてもOKなのだ。
ハカドルは死ぬときに後悔したくない。だから、今の彼女とも付き合うし、ミサキにアプローチもかける。常識に縛られない考えは、本で勉強した。
人生が次々に好転する。
魔法は存在する。ビジネス書、自己啓発書という魔導書があった。
自己啓発書やビジネス書を100冊読んでも何も変わらないかもしれない。しかし、200冊読めば、300冊読めば、もっとたくさん読めば、人生は変わる。絶対に楽しくなる。幸せになる。もっともっと成功する。
読書は最高の自己投資だ。ハカドルは本を読んで変われた。夢に向かって進み、株で300万円貯めれて彼女ができた。全部、本のおかげだ。あと、ミサキのおかげ。国のおかげ。
本を読み続ければ、夢が全部叶う気がした。
小説家になり、投資家になって1000万円貯めて、イラストレーターになれる気がした。もちろん努力は必要だ。もしかしたら、なれないかもしれない。しかし、人生が楽しい。すっごい楽しい。すぐに夢を叶えてはつまらないので、夢を叶える過程を楽しみたいと思った。
人生は冒険だ。
ハカドルは今日も本屋さんに行き、本を買った。
ジャンルはデート攻略法だった。
ミサキを落とすために全力で自分磨きをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます