#とあるタピオカ店の巻
木林春夫という伝説の男を知っていますか❓
たぶん誰も知らないと思います。
私もよく知りません。
はっきりしているのは、木林春夫が伝説の男だということだけ。
ですが「伝説」となっているからには、何かしら根拠となるエピソードがあるはずです。
これからお話しする出来事が、木林春夫をして、伝説の男たらしめたかどうかはわかりません。
判断は皆さんにおまかせします。
では、聞いてください。
【とあるタピオカ店の巻】
ある夜のことです。
ちょっとした用事で、とある町まで電車でやってきた木林春夫さん。
久しぶりの外出でうれしくなり、駅から離れ、つい遠くへ足を伸ばしてしまいました。
そのせいで、帰り道がわからなくなるというハプニングが発生。
辺りはかなり暗くなっています。
しかし、木林春夫さん自身は、迷子になったと思っていません。
なぜなら、「まず第一に、自分は子供ではないし、第二に、いざとなればタクシーに乗って帰るという方法を知っている」からです。
あいかわらず、ポジティブですね。
いずれにせよ、まだ人通りもありますし、誰かに助けを求めなければならない状況ではありません。
木林春夫さんは、気持ちのいい夜風を楽しみつつ、だいたいの見当をつけて歩き出します。
そして軒をつらねる商店街の一角に、大きなガラス窓の付いたお店を見つけました。
ただ、どうも様子が変。
お店の中に誰もいませんし、そもそも空っぽです。
時間も時間ですので、今日はもう閉店したのかもしれません。
ですが、それにしては、まるで泥棒がなにもかも盗んでいったのかと思うほど、がらんとしています。
まさか何か犯罪が行われたのでしょうか?
木林春夫さんの心臓の鼓動が早くなります。
警察に連絡した方がよいだろうか?
勘違いかもしれない。
単に店を閉めただけで、あなたの勘違いですよと、お巡りさんに言われるかもしれない。
でも、たとえ間違っていたとしても、自分が恥ずかしい思いをするだけだ、もし犯罪が起きていて、あのとき電話していればと悔やむよりは全然いい。
そういうふうに考えがまとまり、携帯を取り出した木林春夫さんの目に、張り紙に書かれた文字が飛びこんできました。
こう書かれていました。
テナント募集(タピオカ居抜き)、と。
そうです。つぶれたお店だったのです。
ホッと安心しましたが、木林春夫さんの胸は複雑でした。
確かに近頃のタピオカ店の多さは気になっていました。
でも、いったんはお店を開いたのだから、おいしいタピオカミルクティーを出していたに違いない。
通りかかったときにフラッと入って、一息つける、落ち着いたお店だったのかもしれない。
店長の気が向いたときには、店内のテレビにフランス映画が流れていたんじゃないだろうか。
空っぽのお店を前に、勝手な空想が、木林春夫さんの頭に広がります。
相談してくれれば、いろんなアイデアを出したのに。
つぶれてしまったタピオカ専門店を前に、とても残念に思う木林春夫さんでした。 .
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
教訓👉新しいお店がオープンしているのを見つけると、まず入ってみる。木林春夫さんのモットーらしいです。
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