サイトウさんの神様

神和住 そら

プロローグ

 差し出された色白な右手は、月光の下で異質なほどに浮かび上がっている。

 視線を上に向ければ、柔らかく上げられた口端。更にその上には、光を失った深青の双眸が、流水のような白髪の中で細められていた。


「――ずとも、大丈夫。――の手をとれ、――――よ」


 ノイズが入って、上手く声が聞き取れない。

 なに?と聞き返す私の声は、映画の中の相手に話しかけているように、届かなかった。


 しかし、体は私のものではないかのように勝手に動いていた。

 ゆっくりと手に手を重ねていく。


 そういえば、幼少期に祖母によく言われていた。


「あんたはどうやら人間じゃないモンとの縁が見えるなぁ。ちゃぁんと人間と一緒になるんだよぅ。幸せになるためにねぇ」


 思い出の中の祖母が、優しく私の左手を取り、撫でる。

 そしてすっと視線を横にずらしながら、ちょっぴり困ったような顔をした。


 あの顔はそういうことだったのだと、今更になってよく分かる。

 きっと祖母には見えていたのだ。


 今私の目の前にいる――この男が。

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