第56話 ●イ●ンマン

 新潟県と新ソ連ヤマガタとの境。


 そこには壁が崩れ去り、日本と新ソ連が陸続きで繋がっている唯一の地帯。


 しかし、国同士が介入することはなく壁は放置されたままであり、

 新ソ連もその壁から日本に進行することはない。


 だが、壁付近の人間はそうではなく

 いつ終わるかもわからない紛争が行われていた。


 それは、いつ。どちらから始めたかもわからないのに。



「ご覧にいただこう!

 これこそが私達を守護する新兵器です」


 ミヤケの背に並ぶのは、冷たい鉄の塊。

 規則正しく筒状のそれらは何十も重ねて山に向けられている。


 両手を上げて、ミヤケが合図をすると同時に

 その兵器は火を吹いて


「チェリボ」


 炸裂した火薬が絨毯爆撃のように山の形を変えていく。

 音と衝撃が幾ばくか遅れてやってきて

 風がミヤケたちを撫で髪が暴れる。


 新潟解放戦線の主導者である須藤が拍手しながらミヤケに近づいていく


「素晴らしい!! これは素晴らしいぞ!!

 さすがですね。MKsの技術は進んでいる」


「あ、決してむやみに使わないでくださいね。

 これ、守護兵器だから。ミサイル迎撃とかがメインだからね。

 攻撃兵器に使ったら、俺たち、見てるから」


「大丈夫です。

 少なくとも、今の戦力で拮抗しています。

 これは最終兵器として購入するだけですから」


 ミヤケはあまり気乗りしないまま、日本を護るために日夜MKsの作成した

 「トラベラーを超える兵器」というものを売り歩いていた。


 正直、守護兵器とか言いながら。

 人殺しの武器であることに変わりはない。


 それを売る。


 それでも、トモが戦うことが減る。それだけでミヤケはやる意味はあると思っていた。


「さあ。まずはここから戻って書面を交わしましょう!

 チェリボ。いくら買いましょうか」


「詳しい話は、担当の人がいるから、そっちとしてもらって」


「まぁまぁ。料理も準備していますから。

 新潟といえば、米。

 今は、外国に輸出する米がありあまりすぎて腐らせています。日本が半分になったところで、生産数は変わりませんからな!!」


 がははと笑う須藤。


 ここは、新潟解放戦線の影響からかなり離れた山中にある。


 理由は、「チェリボ」の実演のため。


 実際、新ソ連との国境のあやふやな部分であるため、ミヤケは内心早く国内、それも家に帰りたいと心細く思っていたところ。


「さぁこちらへ」


 と、防弾仕様の車に乗せられて


 そこにはミヤケの護衛として、新潟解放戦線の3人が乗り合わせていた。


 車が走り始めて少ししたとき


「あの!」


「なに?」


「ミヤケさんですよね」


「そうだけど」


 解放戦線の一人の男が興奮気味に俺に話しかけてきて


「写真、一緒にいいですか?」


「え? なんで?」


「あの、日本の守護者ミヤケさんと自分、会話してる」


 それでわかったが、この青年。トモと俺を勘違いしているらしい。


 だが、失望させるわけにはいかん。

 それに、トモなんて可憐な美少女を見せて恋されたらたまらない。

 影武者を演じてやろう。


「ええよ。じゃあ、みんなで撮ろうか!」


 なんて言って、すると、一緒になってソワソワしていた他のメンバーも乗る気で


「本当ですか?」


「ああ。

 行くよー。はい、ダイコン」


「「「なんで!?」」」


 掛け声に突っ込んで、少し和気あいあいとした、楽しい空間になって



 ーーーー瞬間


 回転する視界。

 真っ赤に染まる眼前と

 さっきまで一緒に笑っていた青年の、生気のない瞳


 銃弾が打ち込まれ、ぐちゃぐちゃになる車内。


 襲撃。新潟解放戦線のメンバーは全滅。他の車も同じような状況だろう。


 現実に引き戻されたのは、俺の直ぐ側の爆発。耳を塞ぐ。

 

 横転した車の中、虚ろな目で俺が最後に見た光景は


「日本人………?」










「気がついたか?」


 目を開く。しかし、暗闇の世界は変わらない。

 俺の頭に違和感があり、袋のような何かが被せられており

 視界が覆われていることがわかる。


「何が目的か?」


「おーこわいこわい。

 日本の英雄ミヤケ殿。

 自分たちの目的はただ一つ。

 チェリボの提供さ」


「なぜだ。俺をどうして拉致する?

 俺が作っているわけじゃないぞ」


「そんな謙遜をしないでもいいさ。

 あんたの才能が新技術や兵器を作っていることくらい調べてある。

 いくら、MKsなんてダミー会社を作っていたとしても

 自分らの組織には筒抜けさ」


 とんだ節穴組織じゃねえか。


「そう、我ら【チンリンクス】にはお見通しなのさ」


 何だそのバカみたいな名前は。


「き、聞いたことがあるぞ。その名前。

 最近活発に活動しているテロリスト!!?」


 どうやら俺以外にも捕まった人がいるらしい。

 視界がないので何人かはわからないが。


 手足も縛られているので、どうしようもない。

 と言いながら。

 実際縛られた紐くらい千切ることは可能で

 トラベラーとしてそこそこの実力のある俺は、一般人など相手にならない。


 だが、今チンリンクスが何人いて、トラベラーがいるかも知れない状況で

 更に、何人捕まっているかわからない状況で。

 一人だけ逃げるわけにはいかなかった。


「そうさ。有名になってたか?? 

 だが、一つ、訂正しておこう。我らはテロリストではない。

 【ペロリスト】である!!」


「さぁ。人質を解放してほしければ

 というか、お前さんも自由になりたければ、チェリボを作るんだな」



 薄暗い、洞窟を再利用した牢屋のような個室。

 俺たちはその中に放り込まれて


「い、いやぁ。災難ですな。

 まさかチンリンクスがここに居るなんて」


「で? あんた誰」


 ハゲ散らかした、大学教授のような風貌の男。


「わたし? そうですね。ここではロビンとでも名乗りましょう」


「いや、どうして?

 俺の名前、知ってるよね?」


「だからこそです。こんなペロリスト活動に巻き込まれたのですから、もう関わりたくないんです」


「あんたの胸が光ってるけど、どうしたの?」


「ああ、これですか。

 胸に爆弾の破片が刺さったので、電磁石で引き止めているんです」


「え?」


 聞いたことがある設定。 

 しかし、それは主人公の。


 俺は、もしかしてこのおじさんを脱出させるためにここで死ぬのか??


 しかし、一説には生きながらえて日本で活動しているらしいその男。


 あれ? ここは日本では!?


「さぁ、ここを抜け出すためには貴方がチェリボを作らないといけません。

 しかし、ペロリストに兵器を渡すわけには行きません」


 なんて独り言を言っている男なんて無視して


 ボロボロのベッドに横になって、天上を見ながら


「かいりちゃーん。たすけてー」


 ●


「まだか?」


 男たちが乗り込んできて


「え? まじで作らんと??」


「どこでリラックスしている? 快適か?

 帰りたくないのか?」


 二日目にしてクッションなど集めてベッドの上に巣を作って引きこもっている俺。

 大学教授風の男は机に向かって設計図のような線を引いているふりをしていて


「ここで殺してもいいんだがな」


「殺したら、チェリボはてにはいりませーん」


「今すぐ取りかかれ。

 本当に、殺してもいいんだからな」


 と、男が持っている銃を俺に向けて発泡。


 バァンとクッションが綿を撒き散らして爆散。


「こうなりたくなければな」


 銃弾くらい。実は食らっても無傷だ。



「もう飽きた。俺はここを出ていく」


 二日目の夜。


「作ってくれるのですか? ニートにはやってるふりはできても

 何かを生み出す力はありません」


「え? お前ニートなの?」


「そうです。ベーシックインカムに惹かれて新ソ連に亡命する途中のことーーー」


「お前助けんぞ」


「あ、嘘です。ミヤケさんがソ連嫌いということを忘れていました。

 助けてください。自分、無力で無職です」


「だまれ」


 部屋の中にあるミサイルの模型や、鉄板。

 それに火薬も少々。


「関節は、動きにくいし、いいか」


 俺は、ミサイルの中身を捨てて皮の円柱だけを使って

 手足にそれらを身に着けていく。


「なんですか? 何してるんスカ?」


 胴体には鉄板を軽く曲げて背中は紐で、無職野郎に縛ってもらって


「強化」


「お”! 才能ですか!!」


 久しぶりに使った、俺の強化能力。

 どのくらい上昇するかも忘れたその能力を使って、


 金属を両手両足と胴体に巻きつけただけの「鉄人」となる。


「俺には、悪い心なんてない! ペロリストなどに屈しない! 正義のために、日本のために!

 俺の精神は無毛でつるつるだ!」


「こ、これは!!

 ●イ●ンマン!!」



●●



 牢の扉を殴り開け


 銃弾の雨を全くの無傷でくぐり抜けて


 入口付近でペロリストたちが密になり俺に集団で襲いかかってくるが


 つるつるスーツに手も足も出ずに


 俺と、無職男は無事に脱出した。


「あつ」


 排熱機構、とか。そもそも素肌に鉄を巻いただけなので存在しない。


 ペリペリと剥がしてスーツを脱いで捨てた。


「さぁ、ここはどこだ」


「あ、地図がありますよ」


 それには、とても丁寧に現在地と周辺の街が描かれていて


 徒歩で移動することになったが、日付が変わる前には日本国内に戻ることができた。



「あ、ミヤケさん」


 国境付近で新潟解放戦線の須藤が兵士たちを集めて鼓舞していた。


「おつかれ」


「今から助けに行こうと思って」


「いやー。戻ってきた」


「そのようですね」


「あ、だんなー。生きてた」


「そりゃぁ、体内にGPSとかぁ、生体信号発振器とかぁ

 なんか色々埋め込んでてぇ、見つからないわけ無いでしょう?」


「寝てるうちに入れといて正解。

 というか、ペロリストは人を殺さない」


 そう言いつつ、カイリちゃんとトモと佐々木さんは最前線に来ていた。


「ん? ちょっとまって」


「かえるー」


「いやいやいやいや!!?」




 チンリクスのリーダーは気絶から覚めて

 ミヤケが逃げた先に歩く。


「これは」


 ミヤケが脱出の際に身に着けていた鉄の鎧を見つける。


「はははははは!!

 俺に運が廻ってきたな!!!

 がははははは!!!!」


 ペラッペラのその鉄の板。

 ミヤケの能力がないとただの鉄板だった。




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