第54話 SEPPUKU

 

 天守閣に集まったのは俺を含めて20人は居るだろう。


 かなりの権力者であるらしい。

 彼女談。


 ベールに包まれた彼女の顔はまだ見えない。

 ただ、言えることは、金髪縦ロールは彼女の従者だったということ。


 車の中から話しかけてきた楠財閥の当主である葉月は

 婚姻の儀で初めてその素顔を俺たちの晒した。


「これで、財閥も安泰ですな」


「そうですな。想像以上の利益が見込めましたな」


 老人たちの目線はカイリちゃんと佐々木さんに向けられていて


「果たして、この三宅とは、誰なのか」


「それは、もういいじゃありませんか。

 トモという人間兵器と魔法少女、魔女が我が家に入ったのだ。

 誰でもいいのですよ」


 小声で話しているのだろうが。

 実際、姫路城の天守閣は大きくないので、俺にも聞こえてくる。

 とても居心地が悪いどころか、

 もう帰りたくなってきた。


 トモを兵器と呼ぶ人間。

 それに、カイリちゃんたちを戦力としてしか見ていないような発言。


 少なくとも、俺はこの場の老人共を皆殺しにできる程度の力は持っているはずだ。


「申し訳ありません。貴方様。

 あれは本家ではありませんの。わたくしが本家の当主という立場であるので、分家の家主が出てきているのですわ。

 婚姻の儀が終わり次第、すべての権力を本家に集中させて追放させていただきますわ」


「いや、本家とか分家とかそれはどうでも良くて。

 そんな考えしかできない人間が要らないなと」


「まぁ。過激ですのね。

 それもいいですわ」


 よくわからん呪文と、よくわからんお酒を酌み交わして。

 そうして、ベールの向こうの楠葉月との対面。


 先の会話も聞こえていたのか、分家の主たちは口をつぐんでいて

 スムーズに儀式は進んでいった。


「最後に、口づけを」


 神主みたいな服装の進行役が言うと


 俺は彼女の顔を正面から見て


「お、お前は!?」


「あはぁ、気が付きました?」


 楠葉月。

 

 育成学校時代の同級。


 俺とカイトをからかって来たグループのリーダー。

 どうして、今まで名前を忘れていたのか


「とっても滑稽なお顔ですこと!」


 ニンマリと、その丹精な顔立ちに似合わないほど口角を釣り上げて


 俺をバカにしたように笑う、高飛車に見えて


 かなり可愛らしい、正直タイプの黒髪美少女。


「隠すのに必死でしたのよ。

 そのお顔。わたくし、満足ですわ!!」


 高笑いをして、

 

 俺と葉月の間に飛んで割り込んでくるカイリちゃん。


「あら、カイリ様。どうしましたの?」


「だんなーをばかにした」


「あら、そうかしら?

 昔から、話しかけるタイミングばかり図ってましたのよ。

 でも、いつも取り巻きが追い払ってしまうので。

 それに、わたくし家柄が特殊でしょう? だからこうやって釣り合うだけの力を持ってくれてとてもうれしく思っていますの」


「それは、どういう?」


「わたくし、最初から貴方様にほの字でしてよ!」


 ビシッと指さされて、

 真正面から宣言されて


 ドキッとした。


「だ、だんなーのいちばんはあげないしーー」


 ギュッと、カイリちゃんが俺を抱きしめてきて


「何番でもわたくしはよろしくてよ。

 貴方様の愛の一欠片がほしいのですわ」


「お、乙女」


「だ、だだだだだまされないで! だんなー。めをさまして!!」


 恥ずかしそうに口元を隠している葉月だが


 見えた彼女の唇はピクピクと釣り上がるのを抑えていた


「それはそれ。これはこれですわ。

 婚姻の儀はちゃんと取りなされましたわ。

 よって。わたくしと貴方様はこれで夫婦(めおと)。

 これから、この場の分家の者を粛清しますわ」


「は?」「ご乱心したか!?」「逃げろ!」

「お嬢のあの目はやるぞ!!」「早く出ろ!」「邪魔だ!!!」


 と、騒ぎ立てる老人たちがバタバタを立ち上がりよろめき倒れ。

 しかし、それはもう遅く


 狭い出口。

 天守閣に続く階段は一つ。


 そこから現れるのは、葉月の守護騎士たち。

 (育成学校からの取り巻きたちだった。)


「あいつら!!」


「大丈夫ですわ。少しはおとなになっていますもの」


「本当にそうかな」


 俺は鼻で笑って


 その間にも老人たちは紐で縛られていく。

 その中での一際元気な一人が懐から刀を取り出して


「これでもダンジョンに潜って!?」


 言い切らないままその刀は、腕ごと床に落ちた。

 しかし、血は出ない。


「才能!?」


「そうですわ。分離。

 視界に入る何もかもが対象で、バラバラにする能力ですわ。秘蔵っ子ですのよ」


「強すぎじゃん」


「でも、カイリ様やトモ様、佐々木様には効かないでしょう。レベル差がありますものね。でも、貴方様は対象ですわ」


「な!?」


「冗談ですわ。貴方様に手は出しませんわ」


「いや、出来るできないのはなしで。

 冗談と言っても、出来るじゃん」


「もっとレベルを上げていればよろしかったのではなくて?」


「う」


「それはそれ。これはこれですわ。

 今回は、粛清ですわ。分家の研究所もお金も権力もすべて一元管理しますわ。

 もう、最初から準備していたのですから」



 案内されたのは姫路城からでてすぐの大きな広場。


 そこから真正面からの姫路城を拝むことが出来る。


 その広場には膝をつく葉月の騎士たち。

 横に転がされている老人たち。


「こいつは殺しますわ」


 葉月がビシッと扇子で指したのは、一番最初にトモを人間兵器だのなんたら言ったヤツ。俺もこいつは気に入らなかった。


「武殿。いや、殿はもう要りませんわね」


「ま、待ってくれ。

 私が何をしたのだ? 私より悪いことをしている人間などごまんと居るだろう?

 私は、このあたりの大地主だぞ? お前の叔父だぞ!!?」


「それはどうでもいいのです。

 わたくしの旦那様に対しての無礼。

 それに、わたくしと同じ立場になるトモ様への暴言。

 見過ごすとお思いで?」


「そ、それはここに居る全員が同罪ではないか」


「最初は貴方でしょう?」


「ち、違う!!」


「SEPPUKU」


「や、やめて、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇえーーーーーー」


 カイリちゃんが飽きたようにあくびをして。

 佐々木さんとトモが興味なさげに騎士たちが準備した椅子と机でお茶会をしていた。あかねもそれに参加しようとして、なんかためらうような動作で右往左往。


 お家騒動はあまり俺も好きじゃないし。

 

 トモが手招きするので、あかねの手を引いて俺もお茶会に参加した。


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