第53話 到着

 病院にて


「問題ありませんよ」


「えっと、劣性とかですか?」


「至って正常です。何も心配することなんてありません」


 先生は、にっこりと笑いかけてくる。

 俺の深刻そうな顔を察してか


「大丈夫です。愛情が全てですから。

 それに、子供が全てではありません。

 愛を育んでください」


「いや、子供が欲しいんですが」


「それも愛です」


「愛、ですか」


「愛です」


 いいこと言った。みたいな顔でうんうん頷いている先生だが。

 俺にはちっとも響かない


 検査自体は厳格に行われていたようで、結果をもらってから俺は病院を出る。


 看護師からいい感じの体位を教えてもらったが


「そう言えば、俺は子供が欲しいと言いながら

 そんなことをした覚えがなかったな」


 なんて思い出した。


 やることしてないなら、できるわけないじゃないか。



「あかねー」


「どうしたのぉ??」


「あかねちゃん??」


 部屋は鍵が掛かっていて、カイリちゃんたちは前で立ち往生。


「い、今は放って置いてほしい」


「そんなわけにはいかない。

 めっちゃふるえてた。びょーいんにつれていく」


「ちょ、ま、いやーー」


 カイリちゃんの前に扉はあってないようなもので


 ゲシッと蹴り破られて


「鍵、付けなければよかった。

 修理はしないわ」


 トモがため息をついて、砕けた扉の端材を集めながら


 中には、布団にくるまって叫ぶあかねがいて

 カイリちゃんが無理やり引き剥がしていた。


「どうした? あかねー」


「ど、どうもしてないわよ!!

 びょ、病院ね! ど、どどどこの病院?」


 涙目になって、諦めたあかねがカイリちゃんに尋ねると


「しょーにか?」


「なんでよ!!」


「え? かぜひいたらそこって」


「子供用でしょ!」


「ダメよぉ、あかねちゃん。

 そういった決めつけがぁ、世界の価値観を狭めてしまうのよぉ」


「そんな話じゃないでしょ!

 だって、小児科よ! 子供よ! 児童よ!

 あたしって、もうそんな年齢じゃないんだけど!」


「え? じゃあどこ」


「産婦人科?」


「え?」


 トモの発言に絶句したあかね。




「え?」


 あかね、カイリちゃん、トモ、佐々木さんの四人は産婦人科の前にいた。


「え!」


 いつの間にか、あかねは寝台に寝かされていた。


「え……」


 その結果に口元を押さえて

 カイリちゃんは吐いた。

 トモは吐いた。

 佐々木さんは大笑いしていて


「え」


 あかねは妊娠していた。

 果たして、誰の。


「きもきもす。あかねーはかいめーした。

 もうくちきかない」


「裏切ったのね、あかねちゃん」


「え」


「もう、なにぃ!

 三宅さぁん、こんなに可愛い妻に手を出さないなんてぇ!!」


 めっちゃ笑っている佐々木さん。

 違う。

 

 本当は、違うのだと言いたいが、

 もう、遅い。


「ご、ごめんなさい」


 謝るしかなかったのだった。




「はぁ!?

 俺が? あかねと?」


「そうよぉ。ほらぁ、妊娠してるものぉ」


 と、検査証明書を俺に叩きつけて


「そんなわけない! 俺は誰ともヤッてない!!」


「…………」


「ほら! あかねも言ってくれ!」


「事実は、小説より奇なり」


「何を言ってるんだ!!」


「もんだいない。

 あとおいにんしん」


「旦那様。これは、もう仕方がないわ」




 次の日、俺たちは姫路にいた。


「案外早くついたな」


「そうね。

 新幹線で2時間と少し。

 最近ではもう少し短縮できるらしいわ」


「だんなー。あれー、しろ」


 姫路駅から姫路城まで開けた視界で見えた。

 姫路に着いて外に出た瞬間に県外なんだと実感できた。


「迎えがぁ、来るとかぁ言ってたわねぇ」


 と、佐々木さんが時計を見ながら


 すると、駅前の大きな道路にリムジンが停まった


「貴方様!! 迎えに来ましたわ!」


 金髪縦ロールが来た。

 

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