第18話 どっち

 ダンジョンというのは不思議なもので、30年前くらいに突如全世界に出現した。

 

 ダンジョンに入れば誰しも才能(タレント)と呼ばれる超能力を手に入れることができて、ステータスという人の肉体を数値で表示する能力も手に入る。


 それが、今現在までどういう仕組みなのか判明していない。


 ステータスを表示すればレベルやHPといったゲームでよく見るような数値が現れ、詳しく表示したいと思えばステータスの裏面(と呼ばれる)が現れる。

 そこには直近の戦闘データや、ランキング、どのダンジョンの何階層までクリアしたのかが表示されていたりする。


「つまり、ステータス画面をのぞくのはえっち」


「いや、不可抗力だって」


 佐々木さんのステータスを覗き見たのを見咎められた。

 

「私のはみていいよ」


 と、カイリちゃんは自身のステータスを表示してから顔を近づけてくる。


「ほらぁ」


カイリちゃん


ーーーーーー

Name: 三宅 海璃

Level: 215

ATK: 399

DF: 218

LACK: 19

SKLL: 魔法Lv.48

ーーーーーー


「やば」


「でしょぉ。これでもSランカーだからね。

 えっへん」


「ところで、カイリちゃんの苗字も三宅なんだね。

 俺と一緒だ」


「結婚したからいっしょにきまってるじゃん」


「って言ってるけど。結婚式とかそれ以前に役所に届け出とか出してないよね???」


「私がみとめれば、それは結婚」


「??」


「やくばやそんなシステムができる前。

 どうやって結婚していたと思う?」


「知らないけど」


「その場のみんながみとめればそれは結婚」


「??」


「ライブがおわって新しい家の私のへやで一人。

 だんなと結婚するっていったらステータスの表示が変わった」


「新発見!?」


「別にだからなにぃって感じよねぇ」


 佐々木さんが会話に参加してきて、「確かに」と俺も頷く。


「でも、これでめいじつ共にだんなの嫁は私」


「本当に俺でいいの?」


「もんだいない。

 あ、これ。私のドロップ品はだんなのもの」


「いや、そんなシステムはないけど」


 と、カイリちゃんが俺に手渡してきたのは80層付近で出現したユニークモンスターの眼球。

 ダンジョン内のモンスターは倒すとチリとなり消えてしまうが、ドロップ品は消えずに残るのだ。

 今回、このモンスターは眼球だけが消えずに残ったのだ。


「鑑定、しても効かない」


「そんなものもあるのか」


 【復活の薬】でさえトラベラーが全員使える鑑定で調べると効果が分かるのに、紺もモンスターからのドロップは【ーーーーー】と、表示が出るだけ。


「すててもいい?」


「呪われてないか?」


「ささきーー。解呪してーー」


 そういえば、佐々木さんは赤髪の魔女なんて言われてるが、実際、魔法の才能(タレント)は白魔術とあった。

 つまり、回復系統の魔法が得意だということだ。


 呪いの解呪などの心得はあるのだろう。


 すると、狂墨の才能の呪いには聞かなかったのか、それとも才能の呪いは解呪できないとか条件があるのだろうか?


「それねぇ、さっきから試してるんだけどぉ。

 無理ねぇ。

 そもそもぉ、呪いなんてないんじゃないかしらぁ」


 解呪ができたとしても、鑑定が効かないからその状態が分からない。

 つまり、呪われているのか呪われていないのか。それすらわからない。


「そんな時は!」


 俺はひらめいた。


 あの公務員を呼べばいいのだ。


 ダンジョン前のカフェで一休みしていた俺は、席を立って

「すぐに戻ってくるから」と店を出て走ってダンジョンの入り口に行く。


 そこにいるのは、確か先ほどいたはずのスタッフ。


 武器の状態を見ることができるから、そういった類の才能を持っているのだろうと睨んで。



 数分もかからずに目的地に到着した。


「あれ? 何か忘れものでもしましたか?」


「そんなわけじゃないけど。

 今暇?」


「仕事してるのがわかりません?」


 スタッフの手元には書類があって


「10分くらい抜けられません?」


 と、言ってみる。


「まぁ、暇ですけどね」

 

 と、手に持っていた紙の束を長机の上に置いてから「何ですか?」なんて言って立ち上がった。

 真っ先に目に入るのがスタッフが今置いた書類「もどき」。


「ああ。本当に暇なんですよ?

 こうやって見かけだけはしっかりしてないと」


 と笑っているが。

 その紙の束は真っ白で、何も書かれていない。


「正面から見たら何か作業しているようにしか見えないな。確かに」


「おお。それは成功です。

 特に何をしているわけでもないんですけどね」


 これが国家公務員というのだから、世も末である。


 ダンジョンから出て、カイリちゃんと佐々木さんが待っているカフェのほうへ歩きながら。


「それで、どうかしたんですか?

 10分といわず1時間でもいいんですけど」


「出入りする人を監視するのが本当の仕事じゃないの?」


「見ててもしょうがないですからね。

 確かに。自分の才能は「見る」ことに特化してはいますけど。

 見ただけで犯罪者かそうじゃないかとかわからないでしょう。」


「その才能とか、聞いていい?」


「別に。何もないですよ?

 みんなが使える鑑定が少しだけ強化されてて、思った説明文とか、鑑定結果を紙に表示することができるんです」


「そうすると、あの何も書いてなかった白い紙の束は」


「そうです。あれに印刷? するんです。

 それが仕事ですねぇ。ダンジョンに入る人の名前と大体のステータスを書いてる感じですかね」


「じゃあ、バッドステータスの人とか、呪われた武器とかそんなのもわかるの?」


「わかるときにはわかりますよ。

 人間のステータスはレベルが違えば見れないですね。

 それに、意図して見えなくしている人もいます」


「俺は?」


「バッチバチに見えますよ」


「やば。えっろ」


「なにが?」


 素で返答されてしまった。




「あ、かえってきた」


「さっきの人連れてきたけどぉ、なにぃ?」


 と、ケーキがホールで三つくらい増えているが

 俺は気にしない。


「この人が秘密兵器だ!

 何と、鑑定が使える!!」


「私もつかえるけどー」


 カイリちゃんが張り合うように言ってから


「俺のステータスとか、めっちゃ見えるらしい」


「え? とうさつ」


「数字の何がエロイんです?

 別にみても何も感じませんけど」


 俺とカイリちゃんを変な目で見るスタッフの目が痛い。

 

「そもそも、カイリさんも佐々木さんも見えませんからね?

 自分も結構レベルがあると思ってましたけど。まったく見える気配がないですね」


 スタッフのレベルを聞くのが怖い。

 じゃあ、聞かなくていいか。


「それでぇ、ステータスじゃなくてぇ。

 これ見えるのぉ?」


 と、察しの良い佐々木さんがモンスターの眼球を見せながら言って


「ウホッ」


 と、ゴリラが出現した。


「おほっ。

 これはエロスですわ」


 何と、スタッフの声音が変貌した。


「何かぁ、見えるのぉ?」


「そうですな。

 こうなってます」


 と、カフェの席にあった紙ナプキンに手を翳すと一瞬にして細かい文字が出現した。

 これがスタッフの才能(タレント)か。


「なにー。

 とうしのぎがん」


 透視の義眼。

 装備すると、任意のものが透けて見える。


 かなり文字が書かれていたが、要約するとこういうことらしい。


 かなり中二心をくすぐる文章で、難解に書かれていたが。

 実際それを見ることも読むことも俺は苦手としているので、スタッフに要約してもらいながら解読していった。


 なお、スタッフにはすべての鑑定結果がそのように見えているので、中二言語マスターになっていた。


 

「おっぱい見えるやつ?」


 カイリちゃんが尋ねると、

 スタッフは少しだけ鼻息を荒くしてから答える。


「そうです。これは全人類の悲願です」


「えー、きも。

 だんな、いる?」


「これを持っている人間をぶち殺したくなるから、俺が使うか、破壊したい」


「では、自分がもらいましょう」


「どうやってそうなるの?」


 と、佐々木さんが「うふふ」と笑いながら自身の手のひらにその眼球を握りこんでぶちゅり。


 えっと??


「あ、なくなっちゃったぁ」


「ダウトです。

 見てください。あの右目を」


 佐々木さんの瞳は色が変わり、六芒星が見えた。


「ふふっ、ちっちゃ」


 俺と、スタッフのどちらを見て言ったのだろう。

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