第17話 お宅はユニコーン

「なにしにきた?」


 カイリちゃんが訪ねるが、口をパクパクとさせながら固まっている。

 

 俺の家に二人もアイドルがいる。

 それも、日本を代表するような二人組ユニット。


 方や俺の腕の中におり、もう片方は赤面して俺を見つめているような気がする。


 そんなプレイ。どれだけのお金を支払っても足りなさそうである。

 

「そ、そうよ!! 勝手に引退するなんて!! 許さない!!」


「あかねーがそんなこと言ってもしらん。

 私はかってにする。くそバツイチ」


「結婚してねーーー。

 カモられただけだぁああああ」


「もっと悪い」


 目線で佐々木さんに説明を乞うと

 待ってました。と言わんばかりに説明を始めた


「彼女はぁ、去年イケメンといい感じになってぇかなりスキャンダル紙に素破抜かれたのは記憶に新しいと思うけどぉ。

 その意気消沈のぉ一か月の活動休止中に正体不明の男に口説かれてぇーーー」


「あーあーあーあーあーあー

 何も言わなくていいーーーー」


 いつの間にか解説役になってしまった佐々木さんが、アカネを見てほほえましい妹。みたいな感じで笑っていた。


「ほてるにつれ込まれて、いい雰囲気で乙女をすてた」


 なんて耳元でカイリちゃんがしてやったり。なんて得意げに言って。

 つまり、永遠のアイドルと思っていた片割れのアカネちゃんは男を知っているのか!?


「ちなみに。私はまだ処女。だんなのいくじなし」


「あーあーあーあーあーあー。

 そんなのどうでもいいもんねーーー。

 馬鹿な私は死にましたーー。今はアカネバージョン2だから。

 脱皮して処女膜復活したからーーー」


「語るに落ちるとはぁ、このことねぇ」


「な!? そう。私は別にそんなの知らない。

 キャピッ! きゃわわな聖騎士団所属のーアカネちゃんだゾーー!!」


「いまさらキャラを取り繕ってもむだ」


「性騎士団とはねぇ」


 ボロカスに言われている彼女はもう涙目で、さっきとは違う意味で顔を赤面させていた。

 ぷるぷると体を震わせている。


「ーーーー。

 そんなこと、どうでもいいもんねーー。

 って、今日は雑談しに来たんじゃないから。

 とりあえず、ちょうど博多座でライブしてたんだけど」


「博多座ってアイドルライブするんだ」


 ドームとかじゃないんだ。


「違うわよぉ。

 アイドル路線では少し雲行きが怪しくなっておじいちゃんたちに媚び始めたのよぉ」


 なんて、めっちゃ笑いながら佐々木さんが言った。

 顔を伏せながら、爆笑しているのがわかる。


「そうよ。

 今は仕方なく演劇を中心にやっているの。

 アイドルとしてステージに立つと、この前は卵を投げられたから」


「そう。私にもかかった。

 イカ臭いふくろ」


 そうか。アイドルファンはユニコーンが多かったか。

 しかし、こんなアカネとユニットを組んでいたといいつつ、カイリちゃんとの人気差は天と地ほどあるのはどうしてだろう。

 ソロ活動をしたほうがお互いのためになりそうだ。


 だが。そもそもこの一年近くはカイリちゃんは狂墨に連れられてダンジョン最前線にいたはずだ。


「?? あれ?

 私は何をしに来たのか、忘れたわ?

 引退する文句を言いに来たついでに」


 と、アカネはポケットからカンペを取り出して


「えーっと。

 字が汚くて、読めなっ」


「あかねーはあんまり頭よくないから。

 怒らないでね」


 カイリちゃんは俺のイライラを感じ取ったのか、俺の頭を撫でながらそう言って。

 するりと俺の抱擁から抜け出すと、アカネの方へ歩いていくと


「ふんっ!」


 と腹パンした。


「うげーーーー!!!」


 と叫びながらくの字に折れ曲がりながら。

 前屈するような感じで幾度か痙攣してそのまま動かなくなった。

 いや、ゆっくり上下しているので呼吸しているのだろうが。


「あかねー。うるさい」


 加害者が殴った右こぶしに「ふー」と息で冷やしながら、俺のもとに戻ってきた。


「聞こえてないわよぉ」


「知ってる。くちふうじ」


「どうするの?」


「この家は部屋がいっぱい。

 一つくらい開かなくなっても困らない?」


「まぁ、そうだけど。

 この文脈から行くと、監禁でもするのかな?」


「そうともいう」


「ほかの言い方してないけどね」


「誰も困らない」


「俺が困るけど」


「じゃあやめる」


 カイリちゃんは足でゲシゲシとアカネを蹴る。


「じゃまー」


「何しに来たんだろうねぇー」

 

 と、ノー天気な佐々木さん。

 


 何か、この一週間ぼーっとしていたからか、この激動の一日が辛くなってきた。

 何も進んでいない気がする。


「なにしようかな」


「でもね、ちょっとダンジョンに行きたいかも」


「あぁ。そうねぇ。

 それに、博多観光とかしてみたいわぁ」


「してたんじゃないんですか?」


「いいえぇ。ほとんどこの家にいたじゃなぁい」


「え?」


「この家には部屋がいっぱい。

 一つくらい無くなっても困らない?」


「つまり、この家に住んでいる。と?」


「ちょとぉ、カイリぃ?

 確認してくれるんじゃなかったのぉ?」


「いまかくにん」


「まあ、今まで気が付かなかったってことは。

 本当に一部屋なくても困ってないって証明だしなあ」


「だいじょうぶ」


「そうねぇ」


 納得。

 そうして、俺たちはとりあえず今から外出することになった。


「どこに行く?」


「天神ダンジョン」


「おっけー」


 とりあえず。俺は通販で買った俺が装備できそうな一番性能のよさそうな防具を身に着けて、長剣ザクーハを手にして。


 そういえば、しっかりした装備をするのもいつぶりだろうか。

 この【復活の薬】を手に入れる前までは、ほとんど上層しか潜っていなかった。


 それがブランクになってはいないだろうか。


 しかし、Sランカーが二人いるのだと考えれば、深層に行かない限りは心配はなさそうだが。

 俺だってCランクのトラベラーである。中層程度に行ける実力は持っているはずだ。






「なんか、久しぶりに来た気がする」


「はじめてみた。ここが<天神ダンジョン>の入り口」


 カイリちゃんは転移してきたときには生死のはざまを彷徨っていたのだから初見なのは納得。佐々木さんもあっけにとられていた。


 俺も<天神ダンジョン>以外のダンジョンは数えるほどしか行ったことはないが。

 ここは日本でも数少ないAランクダンジョンである。


 その入り口もかなり装飾されている。それも、ランクにふさわしく、力のないトラベラーが寄り付けない程度には恐怖と威圧感を与えている。


「とりあえず。きぶんてんかんに80層までぶっち!」


 走り出すカイリちゃん。

 そこまで全速力じゃなさそうだが、俺は全力の9割を出さないと付いて行けそうにない。ここまで地力の差があるのか!?



 何事もなく引き返してきてダンジョンの外に出た時にはすでに空は暗く。

 出入口に常駐している国家公務員トラベラーのスタッフが俺を見て


「あれ? 今日はレンタルじゃないみたいですね」


 と話しかけてくる。


「あ、ああ。今日は違うね。

 久しぶりに記録更新したよ」


「おお。おめでとうございます。

 ちなみにどこまで行きましたか?」


「80」


「えっ!?

 50層もクリアしてなかったですよね!?」


 驚くスタッフは、俺の後ろから出てきた魔法少女と赤紙の魔女を見てから「あー」と納得した。


「寄生はあまりお勧めしないですよ?」


「そんなんじゃないけど。いわれても仕方がない。反論ができない。

 実際60層を超えたら攻撃が通じなかった」


「レベル差があれば経験値も入らないですからね。

 何か、ドロップしましたか? 

 あ。そういえば、昨日新しい長剣が入荷したんですよ。

 紹介したかったんですけどね、その業物、なかなかですよね」


 俺の才能(タレント)で強化されている長剣ザクーハを見て真面目な顔になって


 なんだ? このスタッフの才能は鑑定なのか? この前も鞘から抜いてない剣が折れているのを見抜いたしな。


「まぁな。企業秘密ってことで。

 とりあえず、疲れたよ」


「お疲れ様です。

 またレンタル待ってますね」


 と、スタッフと別れて。

 会話が終わるのを待っていたのか、カイリちゃんと佐々木さんがダンジョン出口で立ち止まって二人して話していた。


「どうかした?」


「あ、だんなだ」


「そのねぇ。カイリの魔法力がぁかなり上がっててねぇ。

 もしかして死にかけて進化でもしたのかしらぁって話をねぇ」


 …………十中八九【復活の薬】の効果だろうが。


「えっへん」


 と、平たい胸を逸らしながら。

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