きつねは化ける夢を見る
江野ふう
2011
今年の3月――卒業式のあとには、豊かな自然以外に何もない田舎ともおさらばできるというのに、
それは隣で緑のたぬきをズルズルと音をたてて
結子は田舎を憎んでいた。
下校途中には、町唯一のコンビニ前に
今の自分は蛹なんだと、結子は思っていた。
東京に行けば、自分は蝶になれると信じている。
聡とは幼稚園の頃からの腐れ縁だ。家も近い。小中高と同じ学校に通っている。今日も下校の途中で向こうから話しかけてきたのだ。
聡は野球部も夏―─しかも県大会初戦敗退で即卒業したはずなのに、未だに五分刈りにしている。もはや冬だというのに、その頭では寒くないのかと思う。
「お前も食う?」
「え!?いいよ!てか、食べかけじゃん!!!」
おしゃれでかわいい、クラスの憧れの女子―─そんな風に同級生から思われている自分が、垢抜けない聡と一緒にいるところを見られたくないと、結子は思っていた。話を早く終わらせたかった。
「それに、どっちかってーと、私、きつね派なんだよね……てゆーか、話って何?」
「……いやさ、結子、J大
「お母さんから聞いたんだ……うん、ありがとう」
自分の預かり知らぬところで、自分のことをペラペラ喋る母親に少し苛立ったが、それは聡には関係のないことだ。結子は通り一遍に礼を言った。
「第一志望だったんだろ?」
「うん」
「東京へいくのか?」
「うん」
「……そっかぁ」
聡はいがぐり頭を左手で撫でて、俯いた。
「がんばれよ」
しばらくの沈黙の後、聡は力なく微笑んだ。
「……う、うん」
聡はいつも屈託なく笑うから、結子は聡の微笑みに戸惑った。このあと続くかもしれない沈黙も嫌だと思ったし、多分、今年こそ聡ともお別れだ。あと少しで会うこともないのだと思うと、素っ気なさすぎるのも悪い気がした。
「聡はどうするの?」
聡のことには興味がない。
だけど、自分のことを気にかけてくれた分ぐらいの気持ちは返すべきだと思う。
「オレはもう勉強したくないからさー。就職!来年から町役場で働く」
聡は歯を見せて笑った。
いつもの聡だった。
「じゃあな!気をつけて行ってこいよ」
聡は空になった緑のたぬきの容器を持って立ち上がった。
「立てる?」
聡が、左手を結子の方に差し出した。
「うん、ありがと」
結子は聡の手を掴む。
ゴミを捨てた後、聡は結子に自転車に乗っていかないかと誘ったが、結子は固辞した。
自分の半歩後ろを自転車をついて歩く聡が、寂しそうな顔をしていたのを、結子は知らない。
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