第6話


 いがぐり頭の子は、何も言わなかった。じっと、そのあとに啓介が何か言うのを待っているみたいだった。だけど、啓介が何か言うために口を開くことがなかったので、フンと鼻を鳴らしたあとに目を細めた。


「それで?」


 その子が聞いた。


「お前の爺さんは、お前がそう聞いたらなんと答えた?」


 あれと、啓介は首を傾げた——だって、同じことをじぃじに話したことを、その子に話したのかわからなくなっていた。啓介は首を傾げながらうーんと唸った。唸ってから口を開いた。


「じぃじはね、心配いらないって。きっとばぁばの思うところへ行くからって、そう言ったんだ」


 啓介が答えると、いがぐり頭の子はちくちく向けていた視線を穏やかにして、まるで完璧な正解だと花丸を付ける先生みたいな顔をした。そして立ち上がると、窓枠へひょいっと上がり、そこから地面へジャンプした。


 砂埃を巻き上げて少し足を開いてそこに立ったその子は、もう一度じっくりと啓介を眺めた。親指の場所が擦り切れたスニーカーから、じぃじの家の畳で滑って遊んで擦り切れた肘、汗をかいて額に貼り付いてそのまま乾いてしまった前髪まで——それから少しだけ口の端を持ち上げた。



「死は、本を閉じるように突然やって来る。十分に読了した余白の時、それだけではない。本を開いたとたん、魅入って夢中でページを捲っている時——お前の婆さんはその本で満足している。そして次の本を選びに行っただけだ」


 その子が早口で言うので、啓介は一生懸命聞くだけでその話の意味をほとんど理解できなかった。無意識に眉間に皺を寄せて口を尖らせる啓介に、その子は続けた。


「お前の選んだ本は他より少し薄い。いいか、それを誰よりも精読しろ。感じるままに笑い、怒り、泣いて、感嘆し、喚け——それができたのなら、その最期は私が迎えに行こう」


 ——迎えに?


 思うだけでそれが声に追いつかなくて、啓介は何もどうすることができないまま、ぽかんとしてその子と向き合っていた。脳みその中でガチャガチャと沢山のものがひっくり返され、混ざって、消えたり増えたりを繰り返し、やっと声に出て来た質問は、これだった。


「どうやって?」


 いがぐり頭の子は、にっこりと笑みを浮かべた。その容姿にはまるで不釣り合いな美しい笑顔で、まるで靴下を左右履き違えているような感じだった。なんだか落ち着かなくてもぞもぞするのに、おもしろくもある。


「こちらがわで私は、『死神』と呼ばれている」

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