再会した幼馴染は男の娘だった。
上本利猿
第1話 サイカイ
俺には、幼なじみがいた。
それこそ大昔からのつきあいで、朝から夕方までずーっと二人で遊ぶ仲。
カードゲームで遊んだり、他の友達と一緒にケイドロやったり、たまに幼馴染の家に泊まりに行った事もあったし、自転車で隣の街まで冒険したこともあった。
隣町なんて些細な距離かもしれないが、当時の俺たちにとっては大きな旅みたいなものだった。
だがそんな楽しい関係がいつまでも続く訳もなく、幼馴染は小学校最後の年に遠い何処かへ引っ越して行ってしまった。
隣町なんて比じゃないほど遠くに。
居るのが当たり前でいなくなる事なんて微塵も想像して無かった彼との別れは、
今でも鮮明に覚えている。
暫くは心に穴が空いたような気分だった。何をするにしても一緒だった彼の喪失。小学校を卒業して、春休みに入ったが、無気力で、何も出来ない気分だった。
無の春休みが明け、中学に入ってからは友達は出来たが、そこまで深く付き合うことはしなかった。
適度に遊び、適度に喋って。そんな適度な付き合いを徹底した。
友達が、親友が離れていくぐらいなら、作らない方がいいと思っていた。
それほどトラウマだった。
それから何年か経って、あの頃はまるで大人のように見えていた高校生に俺はなった。
市立美濃川高校。なんとなく偏差値が高めの高校に入ってみたが、これといった理由はない。
強いて言えば、自分の住む街より離れていたから。
地元から少し離れて、また少し違った自分になれるかもしれないから……だろうか。
春になると桜が舞い入学式に相応しいように校舎を彩る。
1年目を過ごす俺の教室の扉には、クラス名簿が貼られていた。
少し離れた高校に入学したものだから、もちろん見知った名前などないだろう。
これから覚えるものの名簿などまじまじと見る必要なんてない。
目を離そうとした瞬間、名簿に書かれたその見知った名前に、俺は衝撃を受けた。
奇跡かと思った。二度と会えないと思った。
二度三度名簿を見ても、その名前に変わりはない。
確かにいる。あの幼馴染が、
「瀬川 薫」の名前が。
「嘘だろ……!」
言葉が、口をこじ開けるように溢れる。
あいつが、この高校に……!それも同じクラスに!
教室に入り、俺は彼を探すが、まだ見当たらない。知らない顔ばかりだ
教師もそろそろくる頃合いというのにまだ来ていないのだろうか……。
「ねぇ、均くんだよね!」
肩を叩かれ振り向いた先には、美少女がいた。
それこそティーン向けの雑誌モデルのような顔立ちだったが…そもそもなぜ俺の名前を知っているんだ?この子。
「そうだけど……キミ、誰?」
淡い髪色に透き通るような目。人を惹きつける笑顔だった。
「嘘でしょー!? ボクだよボク!」
「瀬川 薫だよ!!」
「……は?」
世界がひっくり返ったような気分だった。この美少女が? あの薫?
確かによく見れば制服はズボンを履いているし、どことなく彼に似ないでもないが……。
「変わらないね。」
「……おまえ、変わりすぎだろ」
久しぶりの会話とは思えなかったけど……こんな言葉しか出てこない。
まさか、あの薫が、女の子顔負けの「男の娘」になって帰ってくるなんて……。
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