第55話 父上を誘拐した卑劣な魔族(勘違い)をドラゴンに乗って追いかける

「父上が、誘拐された……!?」


 僕は、ワイバーンが運ぶ檻に囚われた父上を見上げ、拳を握りしめることしかできなかった。


「おのれ、魔族め……!」


 父上は【剣聖】のギフトをもつ、王国騎士団の副団長を務める実力者だ。魔族に力づくで連れ去られたというのは考えにくい。


 きっと何か、さっきの魔王パラナッシュのように人質を取るなどの卑怯な手を使ったに違いない。


 おそらく、こんなやりとりがあったはずだ。


――――――――――――――――――


『ワッハッハッハ! 人質を取られては、流石の王国騎士団副団長といえど、手も足も出ないようだな! さぁザッハーク、この一般人の命が惜しければ大人しくその檻に入れ! 抵抗すればこの一般人の命はないぞ!』


『おのれ魔族、卑怯な! ……いいだろう。どこへでも連れて行くといい』


『何をおっしゃるのですザッハーク様! 私のような一般国民のために、あなたのような立派なかたが犠牲になるなど、あってはなりません』


『それは違う。王国騎士団は、国と一般国民を守護することこそが責務なのだ。国民1人を助けるためならば、たとえこの命であろうと喜んで投げ出そう』


『ザッハーク様、なんて立派なお方でしょう……! ありがとうございますザッハーク様! この恩は一生忘れません!』


『礼など無用だ。俺はただ、自分の責務を全うしただけなのだから』


『ワッハッハ! 敵ながら見上げた男だな、ザッハークよ。貴様ほどの実力者を捕らえたとあれば、魔王パラナッシュ陛下の犠牲も決して無駄ではなかった』


――――――――――――――――――


 こんなやりとりがあって、父上は誘拐されたに違いない。


 僕の腹の中で、魔族に対する怒りが燃え上がる。そしてそれ以上に、なんとしても父上を助け出したいという気持ちがある。


 父上。自分を犠牲にして一般人を救うその精神、お見事です。あなたは絶対に僕が救い出して見せます!


「ナスターシャ、いるか!?」


「はい、ここにいますぅ……」


 観客席の隅に隠れていたナスターシャが、僕に呼ばれて恐る恐る顔を出す。まだ魔王パラナッシュの恐怖で震えている。


「頼みがある。いま飛んで行ったあのワイバーンを追いかけてほしい」


「ええ!? せっかく戦いが終わったと思ったのに、また危ないところへ行くんですかぁ!?」


「相手の攻撃は、全部僕が防いでみせる」


「……わかりましたぁ、怖いですけどメルキス様の頼みであれば頑張ります!」


 ナスターシャがドラゴン形態になり、宙へ舞い上がる。僕はその背中に飛び乗った。


「では、いきます! 全速力で飛びますから、振り落とされないでくださいね!」


 虹色に輝くナスターシャの翼が空気を捉え、急加速する。


 空を舞台に、父上を誘拐した魔族と、僕が駆るナスターシャの追走劇が幕を開けた。


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