第53話 復活した魔王の、最高に無様な悪あがき
魔王パラナッシュは、人質が丸太と入れ替わっていることに気づいていない。
人質が丸太と入れ替わっていることに気付かれれば、魔王パラナッシュは逃亡を図るだろう。逃げられれば、弟のカストルは取り返せない。
確実に一撃で魔王パラナッシュを仕留めるため、僕はゆっくりと歩いて間合いを詰めていく。
『近づくな人間! この女がどうなってもいいのか!?』
「どうぞ」
だってそれただの丸太だし。
『何だと!? か弱い人間を思いやり、労わるのが貴様ら人間の美徳ではないのか?』
なぜ僕は人類を滅ぼそうとしている魔王に人間の美徳を説かれているのだろう。
『聞け、人間よ。この女だって、貴様と同じように生きているのだ。貴様と同じように、楽しいことがあれば笑い悲しいことがあれば泣く、血の通った人間なのだ』
なぜか魔王パラナッシュは、僕に人質の価値を説明し始めた。僕は聞き流しながら刺激しないようゆっくりと、しかし確実に間合いを詰めていく。
『この女にも、両親がいるのだ。兄妹もいるかも知れぬ。友人や恋人もいるだろう。この女が死ねば、たくさんの人が悲しむのだ。そのことをよく考えたうえで、もう一度聞くぞ? ……貴様は、この女を見殺しにするのか?』
「はい」
『即答だと!? この人でなしめ!』
まさか、魔王に人でなしと言われる日がくるとは思わなかった。
こうしている間にも、僕は静かに間合いを詰めていく。確実に仕留められる間合いまで、後3歩。
『待て、それ以上近づくな! この女の顔を見ろ! この死に怯える哀れな表情を!』
そこで魔王パラナッシュは、拳を開いて中の人質を僕に見せつけ――
『あっ』
ようやく、人質が丸太に入れ替わっていることに気づいた。
『なぜだ!? 我は一度も手を開いておらぬというのにどうして――』
魔王パラナッシュが混乱して隙が生まれる。
「今だ! ロードベルグ流剣術93式、”緋空一閃”!」
僕は間合いを詰めつつ剣を振り抜き、魔王パラナッシュの胴体を水平に両断する。
「そしてとどめ! ロードベルグ流剣術107式、”断魔滅龍閃光連斬”!」
ロードベルグ流剣術の中で最高威力を誇る技の1つ、”断魔滅龍閃光連斬”は17回の連続攻撃だ。
核になっているカストルを避けて、魔王パラナッシュの上半身を細切れにする。
『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
魔王パラナッシュは断末魔をあげ、黒いモヤになって消滅した。魔王パラナッシュが立っていた場所には、核になっていたカストルだけが残されていた。
「大丈夫か、カストル!? ……よかった、脈はある!」
僕は何度もカストルに回復魔法をかける。まだ意識は戻らないが、顔色は良くなってきた。
「これでカストルはもう安心だ。これで一件落着――」
“ゴウッ!”
その時、闘技場上空を何かが駆け抜けていった。ワイバーンだ。足では、何か金属の檻を掴んで運んでいる。
「檻の中にいるのは……父上!?」
見間違いではない。檻の中に囚われているのは、父上だ。
そしてワイバーンの上に乗っているのは、魔族だ。
「魔族め、父上を誘拐するというのか!!」
王国騎士団副団長である父上を誘拐すれば、王国の戦力はガタ落ちする。父上ほど立派な騎士など、他にいない。多額の身代金を要求するつもりなのかも知れない。
「おのれ魔族、よくも父上を!!」
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