第52話 復活した魔王を圧倒する

 地面に落ちた魔王パラナッシュの首が消えて、胴から新しい頭部が生えてくる。


『おのれぇ!!!! 人間風情が、よくもやってくれたなぁ!!!』


 魔王パラナッシュの地響きを起こすような怒号が響く。そして、怒りを込めた拳を振り下ろしてくる。


 だがそれは、僕の目にはあまりに遅く映る。拳を回避し、ついでに腕に斬撃を見舞う。斬られた魔王パラナッシュの腕が宙を舞った。


 そして、再び首を斬り落とす。


『おのれ、またしても!!』


 魔王パラナッシュの胸の灯りは、残り8個となる。魔王パラナッシュは、さっきまでとは打って変わって両腕でガードを固めた。


『首さえ斬らせなければ、貴様の攻撃速度より我が肉体の再生速度が勝る。貴様の身体能力強化魔法は魔力燃費が良いようだが、それでもいつかは魔力が切れる。フハハハハハ、貴様に勝ち目など初めからなかったのだ!』


 確かにその通りだ。僕はさっきのカストルとの戦いの最中掛けられた”マナドレイン”によって、魔力をほとんど奪われている。身体能力強化魔法を維持するだけでもあと10分、攻撃魔法は数回しか使えない程度の魔力しかない。


『哀れな人間よ。貴様に我が奥義を見せてやる』


 魔王パラナッシュは、ガードを固めたまま魔法を起動する。巨大な魔法陣が魔王パラナッシュの頭上に出現した。


『闘技場ごと吹き飛ばしてくれる。最上級暗黒魔法“ダークメテオ”!』


 魔法陣からは、確かに会場ごと破壊するだけの魔力を感じる。魔法が発動すれば、余波で会場付近の住民も数多く死ぬだろう。そんなことはさせない。


「魔法融合発動。植物魔法”グローアップ”と呪詛魔法”マナドレイン”を融合! ”拘束と吸精の仙樹”!」


 魔王パラナッシュの足元から樹木が飛び出し、急成長する。樹の幹が魔王パラナッシュの身体を飲み込み、締め上げていく。そして、樹木が魔力吸い取る。


『グアアアアアアアアァ!!』


 魔力がなくなったことで魔王パラナッシュが発動しようとしていた魔法陣が消滅した。魔王パラナッシュの胸の灯りがまた1つ消える。残るは7つ。


 仙樹の枝の1つに、小さな赤い果実が実って、落ちる。魔王パラナッシュから吸い上げた魔力を凝縮した実だ。


 キャッチしてかじると、僕の体に魔力が漲る。これで僕はまた魔法を使った戦闘ができるようになった。


『おのれ人間、我をここまで怒らせたのは貴様が初め――』


「魔法融合。火属性魔法“ファイアーボール”と暗黒魔法“ダークメテオ”を融合。“業火と夜闇の流星群”」


 辺りが闇に包まれ、天から眩い尾を引いて流星が飛来する。その数、およそ1000。轟音と共に、1発が大砲以上の破壊力を誇る流星が魔王パラナッシュに降り注いでいく。


『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!』


 魔法の効果が終了し、辺りに光が戻る。闘技場のステージは、もはや原型をとどめないほど崩壊して深い深い穴が開いていた。


『人間、なぜ貴様がこれほどまでに強大な力を……!?』


 地の底から、背中に羽を生やした魔王パラナッシュが飛び上がってくる。胸の灯りは、残り1つになっていた。何度か死んで、生き返るたびに流星群を食らって死んだのだろう。


『だが、頭の回転では我の方が一枚上手だったな!』


 魔王パラナッシュは崩壊を免れた客席に降り立つ。そして、逃げ遅れた若い女性を巨大な拳で捕まえる。


「キャアアアアァ!」


『さぁ攻撃してみろ。貴様が動いた瞬間、我はこの女を握り潰すぞ』


 魔王パラナッシュが口を歪めて笑う。


『300年前の戦いもそうだった。強い人間ほど、弱者をいたわり、庇い、死んでいく。愚かなことだ! さぁ人間、攻撃できるものならしてみるがいい。その瞬間この女の命はないぞ!』


 魔王パラナッシュは気づいていないが、実は魔王パラナッシュが今握っているのは女性ではない。丸太だ。


 僕は一部始終を見ていた。


 機転を利かせたカエデが、一般女性に変装してあえて観客席に残る。しかも、魔王パラナッシュの視界に入りやすい場所に。


 そして、魔王パラナッシュに掴まれた瞬間”忍法変わり身の術”で丸太と入れ替わり、拳から脱出。安全な場所へ退避していった。魔王パラナッシュの行動を縛る、見事なアシストだ。


 魔王パラナッシュは、人質が丸太と入れ替わっていることに気付いていない。


『フハハハハハ、さぁ人間。この女の命が惜しければさっさと剣を捨てて降伏するのだ!』


 魔王パラナッシュは、勝ち誇ったような顔をしている。

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