第20話 村を大改造する
大改造計画を終えて、村はとても快適で、住み良くなった。
まずは家。これまでは木造の古い小さな家に村人のみなさんは住んでいたが、今は大きなレンガ作りの家に全て建て替わっている。なんと、庭までついている。
そして家の建て直しに伴って、村のレイアウトも大きく変更している。これまでは曲がりくねった路地だったのが、広い大通りに置き換わった。
流石に村の規模に対して道が広すぎなんじゃないか? とも思ったが、プロであるマリエルによれば
『道はね、村や町を発展させる前に大きいのを通しておくのが大事なんだよ。村が発展してから大きい道を通そうとすると、お店や家にどいてもらわなきゃいけないからすっごい大変なんだよね。メルキスが治める村なんだから、これからもどんどん発展するに決まってるよね。だったら大きい道を通しておかなきゃ!』
とのことである。
そんなわけで、ドラゴン形態のナスターシャが余裕で通れるくらい広い道が完成したのだ。
「あらナスターシャちゃん、おはよう」
「あ、おはようございますぅ〜」
村の中年女性とドラゴン形態のナスターシャが挨拶しながらすれ違うのは、とても不思議な光景だ。この村以外では、きっとこんな光景は見られないだろう。
広い道に面してレンガ作りの大きな家が並ぶ街並みは、王都の富裕層が住む区画と比べても遜色ないくらい綺麗だ。食糧事情が改善して、村人の皆さんも健康的になって顔色が良い。
村の改造計画は、大成功だ。
……そう思っていたのだが。
「なんだろう、最近村人の皆さんの顔色がすぐれないような……?」
不健康になったとか、そういった雰囲気ではない。どちらかというと精神面的な、心配事があるような雰囲気だ。
「最近浮かない顔をしていますが、何か困りごとはありますか?」
と村人の皆さんに聞いて回ったのだが、全てはぐらかされてしまった。
「なんで誰も困りごとの原因を答えてくれないんだ? ……そうか、わかったぞ!」
––––これは、試練だ。
『メルキスよ。領主ならば、村人の困っていることくらい、聞かずともわかって当たり前と知れ。村人に直接聞くなど、領主として半人前以下だ!』という父上のメッセージなのだろう。
きっと僕が出かけている間に父上がこっそり村を訪れて、
『村人たちよ、頼む! 我が息子の試練に手を貸してくれ! 困りごとがあっても、息子には直接教えず、自分で考えさせて欲しいのだ。息子なら、きっと自力で答えへと辿り着き、問題を解決してみせる。どうか、どうか息子を信じてやってほしい……』
と、頼み込んでくれたのだろう。
なんと念入りな手回しだろうか。ずっと手間をかけて僕の成長を支えてくれている父上には、感謝するばかりだ。
そしてこの試練は、父上も村人も僕のことを信頼してくれないと行えない。その信頼に報いるために、僕は全力で村人の困りごとを突き止め、解決してみせる!
「さて、皆さんは一体何に困っているんだ……?」
僕は物陰に姿を隠し、村人の皆さんの様子を伺う。
「さて、畑に水やりにでも行くか。よいしょっと……!」
ある村人さんが、井戸から水を樽に汲んで、荷車に乗せて運んでいく。
……あれは、大変そうだ。
「なるほど、村人の困りごとは、水周りの不便さか……!」
考えてみれば、周りの森を開拓して村の面積を広くしたのはいいが、水源は村の真ん中にある井戸1つだけだ。
「水を運ぶ距離は増えているだろうし、朝夕は井戸の水を汲むのに列を作って待たなきゃいけない。これは不便だ……。よし、早速村に川をひこう」
僕は早速行動を起こす。治水と都市設計のプロであるマリエルにも相談しながら、村のどこにどう川を通すか決めた。
村から10キロほど離れたところには、湖がある。そこから村まで川を通すとなると、
工事を安全に行うためにあたりのモンスターを減らし、
(モンスターに警戒しながら)木を切り倒し、
(モンスターに警戒しながら)切り株を引っこ抜き、
(モンスターに警戒しながら)地面を掘り起こす
と言う途方もない労力が必要になる。
作業中は、作業する人をモンスターから守る護衛をつけないといけない。これがとても大変だ。普通にやったなら、数年かかるかもしれない大工事だ。
だけど僕には、この魔法がある。
「よし、湖はこっちの方向だな……。龍炎魔法“サファイアブルーフレア”、発動!」
巨大な魔法陣から、美しい蒼色の炎が迸る。炎は一直線に湖まで駆け抜け、木を一瞬で焼き尽くす。途中にいたモンスターは、まず間違いなく即死だろう。
こうして、湖までの一直線の道が開けた。
「じゃあ次。土属性魔法“ソイルウォール”発動!」
“ソイルウォール“は土を盛り上げて壁を作る魔法だ。そして、盛り上がった分、少しその周りの土は減る。
これを利用することで、土を盛り上げるだけでなく掘り下げることができるのだ。
例えば、少し離れて壁を2枚並行に作ったとする。すると、壁2枚の間の土地は土を持っていかれて、凹むのだ。
このテクニックで、僕は湖から村の中まで川を作った。
「––––と言うわけで、湖から川を引きました! これで皆さん、井戸に並ばなくてもいつでも新鮮な水が使えますし、畑の方にも川を引いているので水やりも楽になります! ぜひ使ってください!」
「え!? 昨日まで何もなかったところに川が流れてる!?」
村人の皆さんは、目を丸くしている。
「領主様、仕事が速すぎるぜ……!」
「普通なら数年かかる工事を、たったの半日で……? 前から領主様がすごいのは知っていたけど、思っていたよりもさらに凄かった……!!」
「これで、生活がさらに便利になるぞ! 領主様には感謝してもし切れねぇ!」
村人の皆さんが喜んでくれたようで、何よりだ。
しかしよく見ると、村人の皆さんの顔にはまだ何処か曇りがある。
「なるほど、浮かない顔をしていた原因は、水ではなかったのか……? だったら、もっと村人さんたちを観察して、困りごとを見つけるぞ!」
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