第14話 【実家SIDE】メルキスを追放した父、プライドを完全破壊される

「あちゃー、やっちまったぜ」


 メルキスの村の訓練場。


 その真ん中で、タイムロットが頭をかいていた。


 少し離れたところでは、鋼鉄製の斧の柄がぐにゃりと曲がっている


「タイムロットさーん、また練習用の斧曲げちまったんですか? コレで何回目っすか?」


 タイムロットに若い冒険者仲間の男が話しかける。


「わっはっは。面目ねぇ。領主様のおかげで力が強くなりすぎてな。加減がわからなくなっちまったぜ」


 鋼鉄製なんだから、すぐ壊れちゃうに決まってるじゃないですか。


 そういって、若い男が、柄が曲がった斧を軽々持ち上げて。


「よいしょっと」


 手で、まるで洗濯物を畳むかのような気楽さで柄をまっすぐに直す。


 そして、タイムロットに投げる。風をきり、常人では残像さえ捉えられないような速度で斧がタイムロットに向かって飛んでいく。


 それをタイムロットはよそ見しながら、片手で受け止める。そしてまた、斧の素振りの訓練に戻るのだった。


 これがこの村の、新しい日常の風景だった。


 メルキスの”刻印魔法”で村人全員が強化され、全員常識はずれのパラメータを持っている。


「俺もいつか、領主様みたいな、すごく強い男になるんだ!」


 タイムロットの隣で、子供が見よう見まねで剣の素振りをしている。


 訓練と言いつつ、半分遊び。フォームも何もなっていない。ただ剣を振り回しているだけだ。


 しかし、剣の速度が音速を超え、1振ごとに衝撃波が発生している。パワーとスピードが尋常ではないのだ。


 周りの誰も、それを気に留めない。村人全員が強くなったので、常識がおかしくなっているのだ。


「なんだ、随分見窄らしい訓練場だな」


 そういって現れたのは、メルキスの父ザッハークだ。


 盗賊の襲撃以降、門番が見張りを強化していた。しかしザッハークは、盗賊ではない観光客と判断されて通されたのだ。


「お前らは、この村の冒険者か。ちょうどいい、貴様らからだ」


 残忍な笑みを浮かべ、ザッハークは突然タイムロットに斬りかかった。ロードベルグ伯爵家に伝わる宝剣が、鮮やかな軌跡を描く。


 だが、タイムロットはそれをよそ見しながら指で挟んで止めていた。


「何!?」


 ザッハークは呼吸が止まるほど驚愕する。


「ダメだぜ、おっさん」


 ザッハークの視界から、タイムロットが消える。そして次の瞬間、ザッハークの真後ろに立っていた。


「練習するときは、ちゃんと練習用の武器を使わなきゃ。あぶねーじゃねーか」


「何!?」


 ザッハークの持っていた剣は、いつの間にか練習用の、布を巻き付けた剣にすり替わっていた。本物の剣は、ザッハークの腰の鞘に収まっている。


「い、今何をした?」


「何って、おっさんが瞬きしてる間に背後に回って剣を練習用のものと交換しただけだぜ? 相手の瞬きの間に間合いを詰めるなんて、普通のことだよな?」

「うんうん、普通だ」

「当たり前だよなそれくらい」


 ザッハークは、目の前の光景が信じられなかった。


「おっさんも剣の練習にきたんだろ? よその村からはるばるこんなところまで、熱心なこった。気に入ったぜ。俺が練習に付き合うぜぇ」


 そういってタイムロットは練習用の斧を構える。


 ――ザッハークは、さっきの一連の出来事が現実だと受け入れられていなかった。【剣聖】のギフトを持ち、王国騎士団の副団長であるザッハークは、自分の剣技に絶対の自信と誇りを持っていた。


「さっきのは何かの間違いだ! 行くぞ!」


 ロードベルグ流剣術、四式“瞬迅斬”。ザッハークの技の中で、最も速い一撃を繰り出す。この技を初見で防げたものは、王国騎士団の団長だけだ。


 だが、


“カキンッ”


 小気味良い音を立てて、タイムロットの斧が難なくザッハークの剣を受け止める。


「馬鹿な!?」


 ザッハークは目を見開く。


「なるほどこの速度、この威力……。おっさんの正体は……」


「ふふふ。今頃気づいたか。そう、俺こそが王国騎士団ふくだんちょ――」

「――おっさん、剣の素人だな?」

「は?」


 ザッハークは、何を言われたのか理解できていなかった。


「お、俺は剣の素人などでは!」


 ザッハークは凄まじい気迫で剣を打ち込む。しかしそれは、全てタイムロットに簡単に受けられたしまった。


「いい気迫だぞおっさん、その調子その調子。剣術はまず何よりも気合が大事なんだ。フォームだのなんだのは、そのあと学べばいいんだぜ! ガハハ!」


 笑いながらタイムロットが全ての攻撃を受ける。まるで、子供の練習に付き合ってアガているかのような調子だ。


「仕方ない。。。!人間相手に使うには、コレはあまりに危険だが見せてやる! ギフト発動!」


 ザッハークの剣が、黄金のオーラに包まれる。


「見るがいい! コレこそが最強の戦闘ギフト、けんせ――」

「おお、剣が光るギフトか! カッケーな!」

「は?」


 ザッハークは、また一瞬自分が何を言われたのか理解できなかった。


「だ、黙れええええぇ!」


 ザッハークが全力で斬りかかる。


“カキン“


「おお、少しだけど剣の威力も上がってるな」


 メルキスの“刻印魔法”でパラメータが上がっているタイムロットたちにとって、剣聖による威力アップは誤差のようなものでしかない。


「馬鹿な、馬鹿な馬鹿なー!」


 ザッハークが破れかぶれで猛攻を繰り出す。まるでそよ風でも浴びているかのように、タイムロットがそれを受け流す。


「あー、おっちゃんダメだよそんなんじゃ。剣を持つ手に力が入りすぎだ」


 若い冒険者が一瞬でザッハークの後ろに回り込む。そして、ザッハークが剣を握る手に優しく自分の手を添える。


「剣はな、もっと優しく握んなきゃダメだ。こんな感じでな……」


 そのまま、若い冒険者はザッハークに剣の基礎をイチから教え込むのだった。


「馬鹿な、俺は、俺は……!」


 もはや『俺は剣聖だ!』とザッハークはいい出せなくなっていた。


「おっさん、俺と勝負しようぜー!」


 となりで剣を振って遊んでいた子供がザッハークに勝負を挑んでくる。


「なんだと? ガキンチョが生意気に!」


 逆上したザッハークは、【剣聖】を発動したまま容赦なく子供に斬りかかる。だがそれも、子供に受け止められる。


“ギィン! ギンギン!”


 甲高い音を立てて、何度も2振の剣がぶつかり合う。剣聖のギフトを持つザッハークと、技術はゼロだがパラメータが圧倒的に高い子供。2人の実力はほぼ互角だった


「どうだおっさん、オレの剣技はすごいだろー! てやぁー!」


「何言ってんだ、手加減してくれてるに決まってるだろ! 子供相手に本気を出す大人がいるかよ。わっはっは」


 ザッハークは、全力だった。騎士団長と次に決闘するときにまで取っておこうと思った必殺の剣技まで繰り出したが、それでもメルキスの村の子供にさえ勝てない。


「ほらおっさん、もっと腰を落として。剣を握る手にまた力が入りすぎてるぜぇ」


 挙句、こんな田舎の冒険者に初心者扱いされて剣技を教えてもらう始末。


 ――剣士としてのザッハークのプライドは、完全に砕け散った。


「う、うわああああああああああああああああああああああああああぁー!」


 練習用の剣を投げ捨てて、ザッハークはその場を逃げ出した。目からは涙が溢れていた。


 村の冒険者たちと子供は、不思議そうにザッハークの背を見送る。


「どうしたんだ、急に? あ、わかった。タイムロットさんの教え方がキツ過ぎたんだ。あーあ、タイムロットさんが剣の初心者泣かせちゃった」


「えー? 俺は優しく丁寧に教えてつもりだったんだけどなぁ」


 タイムロットは首をかしげる。


「また俺なんかやっちまったかなぁ?」


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