第2話 プロローグ②キャラメイクするよ

「で、このヨーロッパではインド産のスパイスがめちゃくちゃ貴重で物凄く高額で取引されていたんだ。胡椒が同じ重さの金と交換されるぐらいね。それでこの胡椒を含めたスパイスを仕入れるために元々は中東経由の陸路が使われていたんだけど、中世時代にはこの中東から地中海の南側の北アフリカまでがイスラム教を奉じる国々の支配下になってしまって、イスラム教国と敵対していたヨーロッパの国々はスパイスを手に入れる手段を失っちゃったわけだね」


 マサムネの操作によって地図上のイスラム教国が赤く塗りつぶされる。


――ほうほう

――まだついていける

――地図あると分かりやすいね

――……


「それでもどうしてもインドのスパイスが欲しかったヨーロッパの国々は、アフリカ大陸の沿岸沿いを船でぐるっと大回りしてインドに直接スパイスを買い付けに行こうと考えたわけだ。大航海時代の始まりだね。そして、このインド航路開拓競争はポルトガルとスペインが競っていたんだけど、最終的にインド航路開拓に成功したのはポルトガルの方で、ポルトガルはアフリカ沿岸沿いから東南アジアまで広大な植民地を獲得した上にインドからのスパイスを独占販売できるようになったからめちゃくちゃ裕福な強国になったんだ」


 地図上の当時のポルトガル水上帝国の勢力圏が青く塗りつぶされる。


――頑張ったなポルトガル

――富国強兵

――スペインは泣いていい

――本国めっちゃ小さいのにな

――……


「そう、スペインとしては面白くないよね。でも、アフリカ沿岸がポルトガルの勢力圏にあるからアフリカ回りでインドに行きたくても補給できる場所がない。でもインドのスパイスは諦めたくない。それでスペインが思い至ったのが西回り航路の開拓なんだ」


――西回り? まさか……

――アフリカ回りが東回りだから逆は……

――いやいや途中にアメリカあるし

――無謀なことを

――……


「みんな気づいたみたいだね。そう、大西洋を西に進んでいけば反対側からインドに行けると当時のスペイン人たちは考えたんだ。それでその冒険航海に名乗りをあげた商人のクリストバル・コロン、一般的にはクリストファー・コロンブスとして知られている人物を支援して大西洋を西に向かわせたんだ。その当時はまだ南北アメリカの存在は知られていなかったから、西回りで直接インドに行けると思ってたんだ。まあ、結論としてはコロンの船団はカリブ海の島に到達しただけでインドまでは行けずじまいだったわけだけど」


――まだアメリカそのものが未発見だったのか

――コロンブスの名前だけは聞いたことある

――ほー。勉強になるわー

――……


「アメリカそのものが未発見だったから、コロンも最初はインドの東の方にある島に到達したと考えていたんだ。それで自分が見つけた島々をヨーロッパから見て西にあるインドの島々ということで【西インド諸島】と名付けたんだ」


――あー、そこに繋がるのか

――分かりやすい解説乙【投げ銭】

――西インド会社ってのは?

――……


「西インド会社っていうのはこのゲームでのオリジナル名称みたいだけど、史実ではEast India Company……東インド会社ってのはあったみたいだね。これは本国から遠く離れたインドと東南アジアの植民地における経済活動を総括する権利を国王から勅命で与えられた勅許会社で、本国への納税の義務はあったものの、植民地における総督権とか徴税権とか軍の編成権とか他国の植民地との交戦権とか、とにかく植民地支配のあらゆる権利をほぼフリーハンドで与えられたとんでもない会社だったらしいね」


――すげえな東インド会社

――ほぼ副王じゃん

――俺ならその権限でもって独立国にするわ

――利権の温床

――本国から遠すぎるからそれぐらいしないといけないか

――……


「ゲームには事前説明ないけど、西インド会社ってタイトルからしてカリブ海における勅許会社を目指すのが最終目標なんじゃないかな?」


 マサムネの爆弾発言に一瞬のタイムラグ後にチャット欄が大荒れする。


――ブフォッ!! ちょ、おまw

――うわぁ! マサムネまじぱねぇ!

――運営涙目www

――始める前からいきなりネタバレ乙w

――マサムネはこの技で実況界のエースになったんだ

――やってくれると信じてた【投げ銭】

――これだから地球古代史の専門ゲーマーは……

――ヘタな専門家よりヲタクの怖さよ

――それ、ゲーム始めて10年ぐらいして明らかになる情報じゃw

――確実にここチェックしてる運営が焦ってるぞ

――キタコレ!!

――運営ドンマイw

――……


「……というわけで、カリブ海における勅許会社に至ることを目標に経済活動をしてのしあがっていく、というサクセスストーリーが主軸になるんじゃないかな、と思ってるんだ。……じゃあ次は、初期設定とキャラクターメイキングに進んでいくよ。といっても一通り終わってるから公開ってことだけど」


――最初から目標が定まってるのがいいね

――キャラメイク楽しみぃ!!

――世界観気になる

――楽しみすぎる

――いきなり始めるよりちゃんと共通の土台据えてくれるマサムネ最高!

――さすがマサムネ!! さすムネ!!

――さすムネ♪

――……


「さて、じゃ早速キャラクターメイキングに進むよ。あ、そうそう、前回の天下布武もそうだったけど、この時代って男尊女卑がすごくてさ、女性アバターを選ぶとかなり不利になるんだよね。まあその代わりに初期資金とか身分とかである程度優遇することでバランスが取ってあるんだけどさ。……でも、最初だけバフかけてその後ずっとデバフかかりっぱなしになるから、ぶっちゃけ男性アバターの方が絶対楽なのは間違いないよね。それでも俺は女性アバターを選ぶわけだが!」


――わかってたw

――それでこそマサムネ!!

――女性アバターでバトルオブブリテンと戦国時代を勝ち抜いた奴が言うと重みが違う!!

――さすムネ!!

――やっぱり応援するなら可愛い女の子がいい

――さすムネ♪ 分かってるねぇ♪

――……


「というわけで、今回用意したアバターはこの子だ!!」


 直後、マサムネの姿が一瞬で変貌する。

 そこにいたのは、褐色の肌につり目がちの碧眼で気の強そうな表情を浮かべ、癖の強い赤髪を後頭部で結んでワイルドポニーにしている十代後半の美少女だった。

 男物のシャツの腕をまくり上げ、革のベストを身に付け、帆布の丈夫そうな膝丈の半ズボンと大きなバックルの付いた革の靴。

 腰に巻いた大きなベルトに斬り込み刀カトラスを吊り、装飾の施された前装式のピストルを差している。


「どうだい? これがアタシさ」


 女性にしてはやや低めながら力強さや艶っぽさのあるハスキーボイスにチャット欄が沸き立つ。


――マサムネコきたぁぁ!

――女海賊スタイルいいね!

――カッコイイ!! 可愛い!!

――推すわ【投げ銭】

――歴代マサムネコで一番タイプかも

――俺は先代推しだが嫌いじゃないぜ

――姐さんって呼びたい

――ワイルド系美女

――声も合ってる!!

――はい、最推し決定!

――……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る