咎人スキルの成り上がり~スキルを盗れるって反則じゃね?〜

デステ

エピローグ

 魔物、魔物、魔物─ ─

 見渡す全ての視界に魔物が入り込んでくる。

 ゴブリン、コボルトはもちろん、オークやオーガなどの中型の魔物も溢れている。

 少なく見積っても三千はくだらないだろう。



 対してこちらは騎士が約三百人に冒険者約二百人の五百人。数の差はざっと六倍。

 初心者の冒険者が大半を占めているから力の差はもっとあるとみていいだろう。



 勝てるわけがない─ ─

 そう、これは勝ち目が無いに等しいのだ。

 勝てないとわかっていても、背後にある街や家族を守りたい。死なせたくない。

 そう思っているから立ち向かおうとしているのだ。





 それでもやはり死の恐怖は隠せない。誰もが恐怖におののき、悲観に暮れている。

 ガタガタとなり続けて止まらない奥歯を無理やりに押さえつけ、誰から見ても恐怖に圧されているとしか思えない笑顔を無理やりにも浮かべる。神に祈り、バクバクとなり続ける心臓を何度も叩く。必死に自らを鼓舞し、逃げてしまおうという考えを絶とうとするが、絶望的な状況は一切の変わりも見せようとしない

 この地獄のような時間を、彼らは固唾を飲んで待ち続けていた。




 ─ ─たった二人を除いて。




 冒険者達の先頭にたち、瞳を閉じて、毅然とした態度を取り続ける、一人の青年がいた。

 平均より少し高めなその青年は、腕を組み、深緑色のコートを風になびかせている。

 その腰には、一振りの短剣。

 防具らしいものは何一つ付けていない。

 その隣には、朱色の長い髪を腰まで流した、青年の肩より少し高めの背の少女がいた。

 青年のとは違う種類の赤いコートを着こなし、その手の中には杖が収められている。

 横からちらりと見えたその美貌は、多くの男を虜にするだろう。

 魔法使いらしき少女ならまだしも、剣を扱うだろう青年が防具をつけていない姿は戦場では異常に見える。






 少し経って、魔物の集団の先頭が見えてきた。数多くのゴブリンやコボルト達が迫ってくる。

 彼我の差はわずか数百メートル。直ぐにやってくるだろう。凶悪な顔をした魔物が走り迫ってくるのを見て冒険者達は緊張を高めた。

 と、その時。

 先頭に居た青年と少女がくるりと振り返り、勇気の守護者たちを見渡す。白い髪に翡翠色の瞳の青年。そして、朱色の髪に青い瞳の少女 。

 彼らはどこか余裕のある笑顔を浮かべた。


「あー....皆さん。今のところ魔物の数は三千程だ。これからもどんどん増えていくとして、数の差は二十倍にもなるだろう。」


 その言葉を聞いて、恐怖の色を濃くしていく面々。現実を直視したくないと心が叫んでいる。


「まあ、大したことないな。ハッハッハ!!」


 瞬間、その場にいる全員の顔がバッといっせいに上がる。大したことがないと嘯くその言葉が、その度胸が、必死に燃え尽きまいとする心の炎に薪をくべたのだ。ほんの少しだけ芽生えてきた希望に縋り付くように青年を見つめる一同がいた。




「行くぞ、フラン。」

「うん!行こう!」


 そう言って青年と少女は歩き出す。

 一歩、ニ歩、三歩と魔物の軍勢へと進みながら魔術の詠唱を始める。

 無防備に前に進んでくる二人を見て、先頭にたつ魔物達はニタニタと下卑た笑いを浮かべるが、次の瞬間、その表情が凍った。


息絶える死の暴風デス・テンペスト!!」


 そこにはただ屍があるのみ。天に打ち上げられた死体が降り注ぎ、辺り一面には地獄絵図が広がった。体躯が細々に刻まれ、欠片も残さず塵になって消えていく。


「まだまだ行くよー!燃え尽きる生命の灯火カタス・アルカディア!!」


 煉獄の焔が視界を染める。地獄ゲヘナとはまさにこの事だろう。目がチカチカとなりっぱなしで痛くなる。皮膚が燃えるように熱くなる。

 それでも、この様を見届ければならないという使命感に駆られ、じっと見つめ続ける。やがて二つの終焉が混ざり会う。

 嵐に焔が絡みつき、辺りに勢いよく撒き散らされる。


 もはや地は見えない。紅蓮の炎が埋めつくしているから。


 もほや天は見えない。原型を留めている魔物の死体が宙を舞っているから。


  この光景を見た冒険者たちは心が震えるのを感じた。


 それは圧倒的な力に恐れ慄いたのか─ ─否


 はたまたこれなら勝てると歓喜したのか─ ─否


 それは純粋な憧れである

 その強さに、かっこよさに、ひたすらに憧れていたのである


 やがて二人が振り返ると─ ─


『さあ、俺ら(私たち)の力を見せつけてやろう!!』





☆☆☆





 ─ ─ 数日後


 世界を震撼させるニュースが流れた。

 それはある辺境の王国での大規模スタンピードでの戦闘の話だ。


 魔物の数は一万以上、それに対しこちら側の総数は約五百。

 絶望的な勢力差である状況をひっくりかえし、こちらの損害を限りなくゼロに近い数字にしたという馬鹿げた話だ。

 それもほぼだった二人のパーティーの功績によるものだという。


 これを聞き、ある者は驚愕し、あるものは恐怖し、ある者はそんな馬鹿なと笑い、ある者はその人物達を取り込もうと動きだし、ある者は利用しようとした。


 ただ一つだけ確かなのはその人物達が明らかだということだ。


 冒険者、 ロイバー・スペラリーと、フランメ・アンムート。


 片や家を追放された身。片や人攫いの犠牲者。



 ─ ─ 咎人スキル持ちと、古代魔術の使い手である

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