天使を名乗る美少年の話をとりあえず聞いてやろうと思う

爪木庸平

第1話

「というわけで、お姉さんにはデスゲームに参加してほしいです!」

「ごめん、あんま聞いてなかった」

 恵が注意力を欠くのも無理はない。恵にとって人生で最も美しい顔がテーブルを挟んだすぐ向こう側に輝いているのだ。年頃は十二歳程度に見える。第二次性徴直前の少年の丸みを帯びた中にも、男性としてのシャープな輪郭も少し認められる。完全に中性的という訳ではない。

「どこからもう一度話せばいいですか?」

「店に入ったあたりからお願い」

 店に入る前の恵はまだ話を聞いていた。幼い身体つき、その線の細さ、頼りなさに多少心を動かされはしたが、顔を正面から直視はしていなかったので、歩きながら話をすることができた。

 確か自分のことを天から遣わされた純粋なるものだと言っていた。親御さんはこのことを知っているのだろうか? 学校はどうしているのだろう。恵は色々なことを心配する。ふと気づいた。少年の案内するまま、この一般的なハンバーガー店まで着いてきたが、この場面を通報されると私の方が社会的に危ないのでは、と。この子の心配をする前に自分の心配をしなければ──。

「あなたがたよりも天に近い場所では、いま大変なことが起きています。やれセッしないと出られない部屋だ、やれ奴隷を買って優しく接するだのテンプレートな設定があまりにも巷に溢れすぎていると」

「かなり偏った範囲の話だね」

「あるある展開やお決まりのパロディ、インターネットミームはいっとき人の心を満たしますが、やがてまたすぐに人の心を飢えさせます。その心の隙間を狙って悪い魔たちがよりバズって商業化しそうな方向へと人の心を導くのです」

「悪い魔って出版社の編集かなにか」

「天にまします我らの高貴な方は大変危惧しておられます。このままだと人が辿るべき平穏な運命からどんどん炎上マーケとかに近づいてしまうと」

「そうかな……」

「そういった訳なので、最近Twitterで漫画をバズらせた百人の絵師を一つの建物に閉じ込めてあるゲームに参加してもらいます。そして生き残った一人の作品を次の千年間にわたって人々が信仰すべき聖典として認定いたします」

「そんな……私のブラック企業エッセイが……そんな……」

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天使を名乗る美少年の話をとりあえず聞いてやろうと思う 爪木庸平 @tumaki_yohei

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