第37話

「彼女の問題を解決するのには大きな障壁が2つあるわ」

私は『解決』の言葉を聞いてようやく光が見えたような気がした。アムリタがそういうのならば道筋があるに違いないと思えたのだ。

「早く教えてくれ!!」

「そう焦らないで」


そう言ってアムリタは私の方にまた近づいてきた。砂混じりの地面に図を書きながら説明する。


「まず、あのエラそうなシャーキよ。あいつは何かしらサーティーに対して恨みを持っている。そんなことは見て取れたことだけれど、核心的な問題はサーティーの今の状況を利用しようとしているその姿勢よ」

「シャーキがサーティーを嫌っているのは俺にも分かったさ。でも利用しようとしているっていうのはどういう事だ?」

「彼女の立場の問題ね。巫女長という立場である以上、シャーキはサーティーの監督者なの。でも同時にサーティーの行動に責任を持つということも言えるわ。つまり、サーティーの業の大きさを利用して、一枚取ろうという考えがスケスケなのよ」

「どのあたりがどうスケスケなのか、俺にはさっぱり理解できないのだが……」


「えーとね、まずこれまで問題を放置してきたところね。彼女の手で解決できないにせよ、頼るべきところはたくさんあったはずよ。それこそ神官ブラハマンに頼めば一発で解決する問題よ」

「神官ってやっぱりすごいのか?その、的な意味で、、、」

「なわけないじゃない。業に干渉できる人間なんてほんの一握り、さらにサーティーのレベルとなると、本来一人もいないはずよ。」

「じゃあ、どうやって神官は解決するんだ?」

「そんなの処刑に決まってるじゃない。巫女達はそんなことする権限ないもの」


予想だにしない回答に驚きを隠せなかった。

それと同時にやけに官巫院サンガラマの内情に詳しいアムリタに感心していた。そんな彼女は地面に描いたシャーキの似顔絵に何度もバツを書き加えている。


「シャーキについては大体わかった。それで?第二の障壁は?」

「サーティー自身よ。」


アムリタはサーティーの似顔絵を描き始めた。


「彼女の業の力は確かに強い。それもコントロールの外側にある。見たところ、それが開放される条件は1つだけね。祈祷、まさにその行為が引き金になっているのよ」

「話が見えないんだが。祈祷をしなければ、その力が出てこないっていう解釈で良いのか?」

「それじゃあ、根本的な解決につながらないわ。彼女に祈祷をさせない、それは彼女が巫女として生きる道を捨てることに外ならないもの」

「なら、どうすればいいっていうんだよ」

「それ自体が障壁ということよ。彼女がこの業に干渉する力を持ってそれをコントロール下に置けない以上、この問題は絶対に解決しないの」


「お前はそれに対しての解決策を持っているのか?」

「無いことはないわ。でも使うのには条件を満たさないとダメなの。それまでは様子見ね」


気がつけば、さっきまであんなに強く降っていた雨はずっと静かになっていた。

「お前の話をまとめると、まずサーティーを助けるにはシャーキの邪魔を潜り抜ける必要がある。そしてサーティーの業に干渉する力を抑え込むには条件を満たす必要がある。こんな所か?」

「ええ、大丈夫よ。ちなみに、参考までに私達はその無意識に業に干渉する力を『思業』と呼んでるわ。それより、条件の中身について聞かないの?卿が聞かない限り、私は教えないわよ」

「......ああ、突っ込むと一番長そうだったから最後にとっておいた。じゃあ、その条件を教えてくれ」


私の質問を聞いてアムリタは地面に描いた絵をすべて消した。

そして新たな図を描き出した。


「まず絶対条件としてサーティーの思業が発現している状態であること。具体的に言うなら祈祷の時間がベストね。そこ以外で開放している状態のサーティーを見たことが無いから、多分そこが一番の狙い所よ」

「それが時間の条件だな」

「2つめは彼女の状態の条件よ。できるだけ、放心状態であるのが望ましいわ。瞑想状態でも構わない。とにかく無心であれば何でも良いわ」

「どうして無心の状態がいいんだ?」

「彼女の力が意識下で働くとすれば、それはまた思業とはまた別の力ということになってしまうでしょう。百歩譲ってそんなことは無いだろうけど、別のことに集中している中で、完全に無意識な自分が暴走してその力が発現している場合、私達はサーティーの思考により干渉しづらくなるの。私達とサーティーの精神的距離が遠ければ遠いほど、この方法は成功しにくくなるわ」


「わかった、それで?3つ目は?」

「その、卿みたいな煩悩僧の前でこんな事言うのは悪いけど、、」

「へ?」

「サーティーが裸であればそれに越したことはないわ」


プッ


思わず吹き出してしまった。

(くそっ、こいつの中の俺はスケベで浸透してるのかよ)

「......わかった。もう好きにしてくれ」



私はその方法自体、聞く気になれなかった。どうせ聞いても理解できないと思ったのだろうか。


私達は話に一段落をつけて官巫院サンガラマの侍女の迎えを待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る