第35話

「さあ、卿様。貴方様のお力添えでどうかサーティーを救ってやって下さい」


雨の音がする屋根の下、私はシャーキの言葉を反芻した。

そこは官巫院サンガラマの内部の人が雨宿りに使うような休憩所だった。大理石の床もここにはない。

(シャーキにどうしてそんな力が?『業』とはなんだ?外のこの雨はいつになったら止むんだ?)

祈祷の時間は約2時間。その間、この雨はずっと降り続けている。


「私もうそろそろ、卿に話してもいい頃合いかなって思ってたんだ」

(何を?)

「私にまつわる秘密でもないし、卿が体得してしまえば、私にとっても心強いだろうし」

(何の話なんだ?)

「ねえ、さっきからなんでずっと黙ってるのよ!」


急に詰め寄るアムリタ。

話す気力もない私は彼女を無視していた。


「ねえ、気になるんでしょ?『業』とは何かっていう話」

「、、今はそれどころじゃないんだ。放っておいてくれ」

今は彼女と話せない。サーティーのことが気にかかって仕方がなかったのだ。

今日初めて会って、午前中一緒にいただけだった。それでも私はサーティーのことが心配でたまらない。


彼女の作ったあの顔、顔、顔。

彼女を睨むあの眼、眼、眼。


2つの矛盾が頭の中を駆けずり回る。


「いい加減にしなさいよ!」

私はアムリタを見上げた。

「今日あったくらいの女一人のことを考えて何クヨクヨしてんのよ!悩んでないで解決策を見つける努力をしなさいよ」

「解決策がないから悩んでるんだろ!」

私は我にもなく声を荒げた。


アムリタも怒声を聞いて身を少し引く。

「優柔不断。それに尽きるわ。目の前に広がることの数が多すぎて、処理しきれていない。それが卿、あなたの現実よ」

「分かってる。1週間前からずっとこうなんだ。お前だってそうだ。新しいことが多すぎるんだ。新しい悩みが多すぎるんだ。どんどん何もわからなくなってくるんだ、、、」


「それなら」

優しい声。

「それなら、一つずつ解決していけばいいのよ」

女神の声。

「分からないことがあるなら、すぐに言ってよ。答えられる範囲で答えるわ。その、この前は意地悪してごめんなさい。私には答えられる質問と、答えられない質問がある。それは誰だってそう。卿にそれを仕分けさせることはとても荷が重いことだったってことは分かっていたわ。謝らせて」


(突然、こう礼儀正しくされても困る。)



私は彼女に聞くべき最初の質問を思い出した。

「じゃあ、1つ目の質問だ」

「どんどん来なさい!」

「まず、お前の住むカラッダっていうのは、どうして聖域の奥にあるんだ?」


「...ごめん卿。パスで」


(これだからアムリタは信用できなかった。)

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