第24話
小さな部屋だった。
豪華絢爛とも酒池肉林とも違う、全く新しい豪勢さ。
静謐、森厳、奇怪、そんな言葉が似つかわしい。
部屋の中心部にある
鬱陶しい光もなければ、臭気もない、ただ静けさだけがそこにあった。
「नमस्ते तपाई को हुनुहुन्छ」
扉の前にいた小さな男が話しかけてきた。
それが透き通った発音だったということは手に取るようにわかったが、やはり私のわかる言語ではない。
私は試しに中央の言葉で返してみた。
「すみません。私達は旅のものでして」
細い目の男はハッとして私の前に一礼をした。詫びの印だろうか。
「ああ、、、失礼します。こちら言葉は話されないですね」
明らかに間違った文章だったが、文脈から推察すると、意図は簡単に読めた。
細目の男は話続ける。
「私の言葉、変。ごめんさいな」
私は何度も謝る男に返事をした。
「いえいえ、あなた様がお謝りになられることではありませんよ」
「ああ、本当もうメッソございません」
謝り続ける男に痺れを切らしたアムリタが言い放った。
「ちょっと!私達の話を聞いてよね!」
私は男にゆっくりと私達の身の上を説明した。私が僧であること。アムリタが家、カラッダに帰ろうとしていること。その帰路の上にこの村があったということ。そして、ここからどこへ行けばいいのか分からないということ。男は全て聞き終えた後、自己紹介を始め出した。
「私の名前エガです。エーガー。ここで巫女様方のお世話してます」
中年の男、エガの拙い説明に耳を傾ける。
「すみますん。私そのカラダ、てとこドコわからん。多分ブラマンさん知ってる」
私は『ブラマン』の4文字をハッキリと聞き取ることができた。おそらく
「そのブラハマンさんに会わせてもらえないだろうか?」
「無理だんね!!」
エガが急に力強い口調になって私は身じろぎした。
(心臓に悪いぞ。)
「すません。すません。でもエガもブラマンさん、会えない。あんたちも会えないね」
「そこを何とかしてよ。エガちゃん!」
(アムリタ、雰囲気で勝手にちゃん付けするな。)
エガの口元が一瞬緩む。しかしすぐさま引き締めた。
「だめよ!帰な!」
その時だった。
「एगा (エガ)!」
前方から女の声が聞こえた。それも耳に突き刺さるような刺々しい声だった。
発音から意味はすぐ取れた。エガを呼んだのだろう。
奥の部屋から女はのっそり出てきた。
その女の髪は漆黒。真紅と白での二色で彩られた制服。身長は私よりも少し小さいぐらいだろうか。少なくともアムリタよりも大分大きく見えた。このあたりの人間にしては珍しく長身だった。
顔はその半分をマスクで覆われている。隙間から鋭い、大きな目が覗いている。
「पाहुना आउँदा सुरुमा मलाई कल गर्नुहोस्। (お客様がおられるのなら、先ず私に教えなさい。)!!」
その口調から私は言っていることを大まかに理解した。
私の顔は明るくなっていたことだろう。カラッダへ到達する道へ一歩近づいたような気がしたのだ。
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