第18話
昼休憩の昼食中、机を互いに引っ付けながら給食を二人は食べる。
今日のメニューは白ご飯に、鯖の煮付け、海藻サラダに、うどん、デザートのフルーツヨーグルトに毎度お馴染みの牛乳というもの。
その中でも浅利は好物の海藻サラダからまず口に運び出した。
甘辛いドレッシングが口に広がり浅利の表情が自然と綻ぶ中、恵子は話を切り出した。
「ねぇ、浅利、今度の夏休み予定空いてる?」
「うん?そりゃ、空いてるけど」
「ならさ、遊ばない。場所は海なんだけど」
「海か」
その単語を聞いたとたん浅利の顔色は曇る。
恵子もそれは見逃さない。
「あっ、やっぱり何か用事でもあった?」
「いや、そういったわけじゃないんだけど・・・」
「けど?」
そこで浅利の言葉は詰まる。
浅利が海に行きたくない理由は実に簡単なもので、単に人が多い場所が嫌いなのと人前でで素肌を晒すのに抵抗を感じていたからだった。
内気な彼女らしい答え、けれど内気ゆえにそのことをどのように恵子に説明すればいいのかが分からなかったのだ。
下手のことを言えば恵子の機嫌を損ねるかも、そんな不安が喉を塞いだ。
「けど、なに?」
いつまでも口を開こうとしない彼女に嫌気がさしたのか恵子は少し苛立たしげに尋ねる。
その言葉に浅利はショックを受けながらもなんとか答えた。
「は、恥ずかしくて」
「そんな事気にしてたらいつまでたっても自分が楽しめないじゃん」
「それはそうだけど」
「それに、今回はアンタにも得なことがあるんだよ」
「得?」
訳が分からず首をかしげるあさりに恵子はニヤリと笑う。
「うん。浅利さ、胡桃宮女子中学わかるでしょ?」
「うん、あれだよね、制服が可愛い。お姫様たちが通うような学校」
「そう。実はさ、あそこに私の幼馴染が通っていてさ、今回の海水浴もその子と行くつもりだったんだ」
「えっ、しらない人も来るの」
「うん。って、そんな嫌そうな顔しないでよ。とてもいい子なんだから」
「ごめんなさい」
「で、その話、修のやつに聞かれちゃってさ。アイツも来るって言い出したんだよね」
「そっか、恵子ちゃんって桐村くんとも幼馴染だったもんね」
「そう。それでアイツ自分から来るって言い出したのに男子が自分一人は嫌だなんて言い出してさ。ふふ、ホント馬鹿。で、アイツ慶介を連れて来るって言ってたよ」
「えっ!?」
浅利の驚きと換気の入り混じったような声を聞き恵子は笑顔になる。
「どう、来る気になった?」
「う、それは」
「せっかくのチャンスじゃん、頑張ろうよ。それともずっと片思いのままでいいの?」
「それは、嫌だよ!」
「なら、決まりじゃん」
その言葉を待っていましたかのような言いようだった。
そうして、先週末に二人で水着を買いに行き今に至るというわけであった。
「女子たちどんな水着できてるかな?」
海辺にある更衣室、そこで水着へと着替えていた中、不破成久は唐突にそう切り出してきた。
「そこはもち、ビキニを期待する」
フルチン姿で即答するのは修、その決断力と恥のなさは流石だと成久は感じた。
「ビキニってまたひねりがないね」
「なんでだよいいじゃんビキニ!何より、あの肌の露出がさ!しかも、知り合いの女子の生肌なんてマジヤベーしょ!」
「修よ、それかなり変態っぽいぞ」
「へん、男なんてみんな変態よ!なぁ、慶介」
「さぁ、どうかな。人それぞれだと思うけど。変態もいれば、そうじゃないやつも、女好きもいれば男好きもいる。わかんないよ」
興奮気味の自分たちとはうって変わっての冷静すぎる大人っぽい口調に修は少しだけ嫉妬心を覚えこんな質問をしてみた。
「なら、慶介。今日来た女の子達の中で一番気になる子は誰なんだよ?お前だって女が嫌いなわけじゃないだろ」
「別に気になる女なんていないさ」
「じゃあ、一番水着を見てみたいやつ」
「そうだな、じゃあ白岩さんかな?」
「お前、あの子と知り合い?」
「いいや、知り合いじゃないから、興味があるだろう」
「「お前も変態だな」」
慶介の答えにふたりは揃ってそうなじった。
「てかマジで女子たちどんな水着だろうなぁー」
着替えが終わり海辺に戻ってきた修たちは再び先ほどの話題に戻る。
「そんなもん、もうすぐ分かんじゃん」
「いや、楽しみすぎてさ。気持ちと一緒に股間まで高ぶりそうなのよ」
「バカ」
下ネタを交えながらはしゃぐ修、けれどこのテンションの高さは単に海に来て女子たちの水着姿が拝めるというだけではなかった。
「おまたせー!!」
ちょうどその時、待ちに待った女子たちがその姿を現した。
「うぉ」
成久は反射的にそんな声を漏らし、修はその場で雷にでも打たれたかのように硬直する。
唯一まともに動けたのは慶介だけだった。
「随分遅かったね」
「ごめんね、凪沙の着替えが意外と時間かかちゃって」
そう言い笑う百合はピンクのフリル付きのビキニを身にまとっていた。
中学生ながらビキニがおかしく見えないほどには女性らしい体型をしている。
そして百合に指摘された凪沙の姿は。
「すごいね」
「でしょ」
そう言いながら百合の笑顔が次は苦笑いに変わる。
凪沙の身につける水着、それは百合と同じようにビキニタイプのものなのだが百合のものと比べるとその面積が極端に狭く、その中学生とは思えないほどに成長したその胸をこれまでかというほどにアピールしている。
「なんでまたあんな水着を?」
「はは、それが凪沙ちゃんあれで結構自己アピールが激しくて。多分あれもその一つかな?」
「ふーん」
「てか、アンタら見すぎだから。目つきエロイから」
その二人の会話に割って入ってくる恵子は、水色のワンピースを着ている。
「それより慶介!浅利の水着どう?」
「うん、可愛いと思うけど」
「かっ!」
恵子のその唐突に質問に即答する慶介、そのあまりの対応の早さに恵子は驚き浅利は可愛いという言葉に反応し赤面した。
「随分はっきり言うじゃん」
「事実だからな」
「キザったらしーな」
そんなみんなの会話を修は呆然と見つめている、いやその目に映るのはただ一人百合の姿だけ。
先程まであれだけ水着水着と言っていたがほかの女子のことなどはまるで眼中に無く、すぐさま百合に食らいつく。
「か、金城!!」
「は、はい」
「み、水着、似合ってるぜ」
「あ、ありがとう」
百合の引き気味のお礼、それに修は心底嬉しそうな顔を見せる。
「おう!」
そんな二人のやり取りを見ていた成久がそっと慶介に話しかける。
「なぁ、あれどうゆうこと?何か修いつもに増したから回ってるけど」
「しょうがないさ、修は昔っから百合の前だとああだからな。本人は隠しているみたいだけど、あれじゃ修が百合のことが好きなんて事は誰の目から見ても丸分かりで、もちろん百合にもバレている。けど、あんな態度じゃ百合の方もどういった対応をすればいいのか分からなくてダラダラ五年間あんな調子さ」
「うひ~。五年って知らなかった。修って意外と一途なんだな。でもわからなくわないかもな。金城さんだっけ?あんな可愛い子俺だって初めて見たし」
「なんだ、成久も百合に惚れたのか?」
「いや、流石にそれはないけどよ。まぁ、あんな可愛い子は俺も初めて見たからな興味はあるよ。慶介はなんとも思わないのかよ、なら病気だぜ、男として」
「ずっと一緒だったからな。そんなことはあんまり考えたことがなかった」
「ふーん。やっぱ近くにいすぎるとそんな風になるなかね。なら俺は今日あえて幸運だな」
「はぁ?」
「だって金城さんの魅力にはお前より俺の方が早く気づけたんだから」
成久は百合を見つめながらそう笑う。
「ふん、そうかい」
「えっ!浅利ちゃん慶介くんのことが好きなの?」
そう驚きの声上げつつ百合はまじまじと浅利を見る。
「そうそう、だから百合も協力してよ」
「け、恵子ちゃん」
イキイキの恵子と比べ早くも秘密を暴露された浅利は羞恥心で、顔を引きつらせる。
「協力といっても私みんなとは違う学校だから大したことはできないと思うけど」
「それでいいよ。いやさ、浅利がどうも押しが足らなくて、なかなか距離が縮まらないの、今回もそのために海に連れてきたのに、あのバカ男子ども」
そう毒づく恵子の視線の先にはミャアミャアと鳴くウミネコたちが飛び回る空の下、戯れる男共の姿がそこにあった。
成久は沖の方で全力のクロールをし、修と慶介は砂浜でサザナミの音をその全身で聴きながら談笑をしていた。
ただ、修だけはちょくちょく女子たちの方を盗み見ているが。
「あはは、何か変に距離が空いちゃったね。なんか、全然こっちに絡んでこないし」
「しょうがないんじゃなーい。みんな、私たちを意識しすぎてるのよ」
「凪紗そうゆうこと言って恥ずかしくないの?」
百合のそのツッコミに凪沙はなんで?と、目を丸くする。
「だってどう見てもそうだし、それに意識してもらえるなんて光栄じゃない。そもそも百合はそういったことに無頓着すぎよ。せっかくモテるのに彼氏も全然作んないし」
「いや、まだそういうのは早いかなって。それにこうしてみんなと遊ぶほうが楽しいし」
「はぁーもったいないな。せっかくそんなに可愛いのに」
「あはは。まぁ、価値観は人それぞれだから」
「その余裕なところが、またムカつくんだけど。私なんてこんな格好までしてるのに誰も声かけてくんないし。こっちは男子との絡みが欲しいのにー!!」
「あはは、その水着のせいで逆にみんな引いてるみたいだけど。そんなに絡みたいなら私が誘ってこようか?ほら、みんなと遊ぼうと思って私、ボール持ってきたんだよ。これで遊ぼうよ」
そう言って百合は自前のバッグの中からバレーボールを取り出す。
それを見て真っ先に反応するのは遊び好きの恵子だ。
「ヘェー用意いいじゃん。買ってきたの?」
「違うよ、これ学校の。いっぱいあったからひとつだけ拝借してきちゃった」
「百合って意外と手癖悪いよね。小学校の時も教科書忘れたとき違うクラスの子の勝手にとってきてたし」
「あはは、懐かしい話だね」
「全く反省してないね。まぁ、いいや。遊ぶなら男子呼びに行かなきゃ」
「あっ!じゃあ私が行くよ」
そう、まっさきに挙手し凪紗は男子どもの方へと向かう。
そんな彼女の積極性の一割でも浅利が持っていればと恵子は思うのであった。
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