第6話
この刑事はあまり信用できない。
それが京香が出した結論だった。
いくら事件解決のためとはいえ子供たちからも話を聞くなんて、気が進まなかった。
何よりこの子達は・・・。
だから止めるべきだったのかもしれないけど、相手は警察で何より院長がなんで死んだかが知りたかった、そう思うとどうして止めることが出来なかった。
そして気付けば、子供たちからの聴取は始まっていた。
初めに入ってきたのは青渕栄絵ちゃん。
現在、中学2年生で施設では二番目に年長の子だ。
「話って何?」
茶髪の姫カットのロングの髪をかき上げながらきつい目線をこちらへ向けてくる。
華奢で骨っぽいその体はまるで魔女のようで14歳というのが信じれれないほどどすのきいた声を発してくる。
そのあまりの迫力は京香さえたじろくほどだ。
そんな彼女に岸野刑事は全く臆することなくにこやかに話しかけた。
「いや、こんにちは。初めまして私はこの町で刑事をしている岸野と申します。えっと君は・・・」
「青渕栄絵よ」
「そう、栄絵ちゃんね。いいね、将来店でも持つと繁盛しそうだ栄絵だけにね」
「・・・それで話って何?」
岸野の寒いギャグもスルーの彼女、クスリもしないし愛想笑いもない、どうやら扱いにくい子のようだ。
若干の憂鬱感がアップした状態で岸野刑事は話を続ける。
「うん、院長のことなんだけどね」
「知ってる。死んだんでしょ、あのお婆さん」
それはまるで、だから何?と、聞き返すような口ぶりだった。
「うん?どうして知ってるのかな?」
これは、彼女なりの挑発なのかもしれない。
そう思い、岸野はさらに穏やかな口調で語りかける。
「さっき、大口が喋っていたから」
「じゃあ、ほかの皆もこのことを?」
「ええ、知ってるわ」
「なんてこと!?」
京香は口を押え驚く。
「そうか、じゃあ質問を続けるよ」
「いいえ、私はそれしか知らない。だからこれ以上効いても無駄。ただ、」
「ただ?」
「院長の話が出たとき近衛と響の様子が変だった」
「変ってどうゆう風に?」
そこで、彼女は楽しそうに口元を歪めた。
「なんて言えばいいかな?妙にそわそわしてそれが目についた」
「そうか、ありがとう」
彼女との会話はここで終了、これ以上の追及は無駄だと判断された。
二人目に現れたのは小学二年生の浅見雄一郎。
この施設、最年少のそばかすとギョロリトした魚のような目が特徴的な少年だった。
その表情は先ほどの少女とうってかわり不安で満ちていた。
「君が、浅見雄一郎君だね?」
「う、うん」
「院長先生のこと知ってるよね?」
「う、うん」
泣きそうな顔になる。
「つらかったね。それでその院長のことで何か気づいたことってあるかな?怪しい人を見たとか?」
「わかんない。・・・わかんないよぉー!!」
不安の余り錯乱したのか浅見雄一郎はそのまま頭を抱え込み泣き出してしまった。
けっきょく本題に入ることもできず、浅見雄一郎はそのまま退室となった。
三番目と四番目は続けて同い年、小学四年生の女の子だった。
三番目の子はなんとも綺麗な子だった。
子供ながらの可愛さと生まれ持った美しさを持った女の子。
人形のように綺麗な子という表現があるが、岸野は今までその表現はぴんと来なかったがこの子にはそれがぴったりな気がした。
名前を金城百合といった。
四番目の子は、素朴ではあるが目に強い意志のようなものを感じられた子だった。
名前は林田恵子といった。
質問にもはっきりと答えてたあたり芯の強い子なのだろう、ただ、時折見せる不安げな表情が印象に残った。
結局、二人からはこれといった情報を得ることは出来ず、五番目の子に移った。
そして五番目に現れた子は先ほど私たちの話を立ち聞きしていた少年、大口大介だった。
ニキビずらが少し目立つ、陰険とした雰囲気を漂わせる少年だ。
第一印象は根暗といった感じだった。
そして何よりその瞳には明らかに脅えが見えていた。
「君が大口大介君か。立ち聞きしてたのは君かい?」
「あ、はい」
「みんなに事件のことをしゃべったのも君?」
「すみません」
こちらの顔色を窺うように謝罪してくる少年、それは己の軽率な行動を悔いての懺悔ではなく少しでも自分のことを悪く思われないための自己保身からの謝罪だと岸野は思った。
「いいよ、いいよ。君も動揺してただろうしね。ところで、君はこの男を知ってるかい?」
そう言いながら岸野は懐から早川泰三氏の写真を取り出す。
「あ、えっと。院長の子供です、よね?」
「うん、実はこの人もなくなったんだよ」
「えっ?」
「怖がらせるつもりはないんだ唯何か知っていることがあったら教えてくれないかな?」
岸野の言葉に大介は一言、
「わかりません」
とだけ答えた。
六番目の子は小学四年生の男子、道長慶介という少年だった。
おとなしいというよりは落ち着いた、少し大人びた雰囲気を持つ少年だった。
「君も事件のことは知っているね?」
「はい」
少年は一切の乱れがない声でそう答えた。
「その割にはなんだか落ち着いてるね、君は」
「そうですか?そんなつもりはなかったのですけど」
小学四年生にしては異常に落ち着きのある声、それが耳に残る。
「何か知ってることは?」
それには首を横に振るだけだった。
近衛大志、それが七番目に現れた子の名だった。
「誰が!誰が院長先生を殺したんだぁー!!」
そのあまりの威勢にまず驚いた。
おそらく控えていた早川京子が彼を押さえつけていなければ俺にとびかかってきていただろう。
まったく、俺は犯人じゃないというのに。
「近衛君、やめなさい!落ち着いて!!」
結局彼からはそのあと名も何も聞けず退出ということになった。
そして八番目の子が近衛大志の親友である響司という少年だった。
彼と話して分かったことは三つだけ。
一つは彼が内気な性格だということ。
これは早川京香からも事前に聞いていたことなので間違いはないだろう。
二つ目は院長の死に対しては深く悲しんでいる様子だった。
そして最後の三つめが、その息子泰三のことを快く思っていなかっただろうという点だ。
「じゃあ、君は泰三さんのことを?」
「僕はあの人が嫌い。院長虐めて、いなくなればいいと思った」
この言葉から間違いはないだろう。
子供の吐くたわごとだが、あの増悪に満ちた目が岸野の心に不穏な予感を残していった。
そして九人目と十人目の子、桐村修と実沢深志はついに姿を見せなかった。
二人ともショックが大きいらしくてとても話を聞けるような状態ではないという判断かららしい。
「結局大きな情報は無しか」
「ですね、自分の方もこれといっておかしな証言は上げられませんでした。ということはやはり」
「このまま被疑者死亡で片付くだろうな」
「不満そうですね」
岸野の声に影のようなものを感じた澄乃はそう聞く。
「まぁな。長年この仕事をしているとたまにあるんだよこういったことが。俺も感のようなものだからうまく言えないんだが、なんだかな嫌な予感がするんだよ」
「いやな予感ですか?」
「ああ、何事も起こらなければいいが」
納得できたわけじゃないがこの事件はもう終わったもの岸野は結局この施設に訪れることはもうなかった。
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