第6話 再会と書いて絶望と読む
「なら、終わらせるつもりはないですね」
大和の答えを聞いた華が交渉決裂と判断し素早く動く。
それを見た大和は空間魔法を使い百メートル先の場所に空間転移をする。
転移後、確認の意味を込めて大和が先程までいた場所を見ると華の剣は大和が先ほどまでいた場所に突き刺さっていた。
「あ、あぶねぇ……殺す気満々じゃねぇか……」
正に間一髪だったと大和は心の中で安堵する。
「何故ですか? 貴方は何故いつも私の思いを踏みにじるのですか?」
「いつも?」
「あの時も私が貴方の戦場に行かなければ間違いなく貴方の部隊も魔獣に滅ぼされいた。そして貴方も殺されていた。だからあの時私の部隊に戻れと命令したのにも関わらず、今回はどこでも言いなんて言って断わったのですか? 勿論私の部下と仲違いしていたことは知っていましたが命と比べれば安いはずでした。貴方は今回も私の提案を全て断ろうとしている。何故ですか?」
感情がこもった言葉は何かを訴えるようだ。
「俺は俺自身が思った事をするだけだ。それ以上の理由は家族を失った日に全部捨てたさ」
「そうですか。なら覚悟してください」
今まで後手だった華が大和に向かって突撃する。大和負けじと華に突撃し剣の攻防戦になる。国家戦闘員による剣の勝負。普通の人には早すぎて目で追うのが精一杯だろう。洗練され無駄のない動きと切れのある剣筋は日々の鍛錬があっての代物。そんな一級品とも呼べる剣と剣がぶつかる音が幾多に聞こえ戦場に木霊する。魔力を使い推進力をあげ高速戦闘中でも相手の隙を見て詠唱はされる。
「聖母よ愛するものを守る為に私に光の加護をお恵みください」
華が詠唱した魔法はある一定回復量までの自動回復。
Aランクの回復魔法であり、多くのダメージ量を回復してくれる。
大和は手数を増やすことで対抗し、回復魔法を使う華に臆せず攻める。
「魔装の力よ。闇の力を開放し目の前の敵を貫き殺せ。暗殺魔術ダークスピア」
手加減など微塵もない容赦のない追加詠唱をする大和は本気だ。
「魔装生成終了、複製終了、汝の敵を自動追尾しその命を貫け」
一本の槍が五本、十本、十五本、二十本、と数を増やした槍が華の心臓を目掛け勢いよく発射される。
それを華は落ち着いて剣劇と一緒に飛んでくる槍全てを的確に捌いていく。
「そろそろ反撃といきましょう」
華が先ほど展開した魔法陣が明るく輝きだす。
大和がそれを認識するとほぼ同じタイミングで勢いよく光のレーザーが発射される。大和の魔力のオーラが自動防御するも数秒後には貫通される。先程の詠唱時に魔法陣にSランク魔法を仕込んでいた華に抜け目はなかった。華の反撃はこれだけでは終わらない。今度は五本の光のレーザーを発射し追撃。
それを見た大和はダークスピア十本を自分の前に並べて展開することで盾として光のレーザーを遮る。光のレーザを受け止めた十本の槍は負荷限界を超え消滅していく。その光景の裏では大和の額に汗が見え始めた。大和は残り十本の槍の軌道を華に集中させ、その隙に光のレーザを放つ魔法陣を奪うことを決意する。
「汝の主を変更する。前主を汝の敵、前汝の敵を主と再定義。魔法詠唱は光に招かざる者、その闇の罪を受けよ。全てを焼き付くせ聖なる光。汝が敵は我の行く末を阻む者。ならば焼き尽くして構わない」
魔法陣の所有権奪取は相手の詠唱内容が分かり魔力の波長を合わせることが出来れば可能だ。幾ら魔法と言っても所詮はプログラムのようなものでハッキング能力があればそれを実行することができる。魔力の波長合わせは魔力のオーラに全て任せた大和は「よし」と小さく喜ぶ。魔力の波長合わせはかなり難しく、大和としてはできるかできないは魔力のオーラ次第だったわけだが賭けに勝てたからだ。
後は魔力の波長が一致すると同時に所有権が変わり五本の光のレーザが今度は華を襲う。十本の槍と五本のレーザこれには流石の華でも焦る。剣を盾にして光のレーザを防げば槍が身体を貫き、槍を剣で撃ち落とせば光のレーザが華の身体に風穴をあける。この勝負大和の勝ちだ。少なくとも華が本当に本気で来ていたら、大和は死んでいたに違いない。油断して何だかんだ手加減していてくれたからこそ勝てた相手だった。
――。
――。
その時、凄まじい衝撃波が大和を襲う。大和が辛うじて目を開けてなにが起きたか確認すると槍は全て消え光のレーザが大和を目掛けて飛んできていることに気付く。
「まじか!? ここで!?」
あの一瞬で槍を切り裂き、光のレーザを剣で反射させた華の剣裁きは超一流と呼べる。
対して大和にはもう防御の手段がない。魔力のオーラが大和を守るが次々と貫通して身体を貫く。その一本が運悪く心臓を貫いたことで魔力のオーラの制御に支障が起き消滅してしまう。激痛に耐え何とか身体を微調整し致命傷を避けるように努力した大和だったが残り四本の槍にも身体を貫かれ地面に倒れてしまう。
「うあああああああああ!!!!」
死を覚悟した大和は静かに目を瞑り家族のことを思い出す。
(父さん、母さん、姉さん今からそっちにいくよ)
心の中で再会の言葉を先に伝えた大和の意識が薄れていく。
最後は心の中で「やはり国家戦闘員でも数名しかなれない軍隊長に勝てるわけがないよな、俺」と頑張った自分を褒める大和。
――。
――――。
「大和! 大和! 大和!」
「……そ、ら、みみ?」
「空耳じゃないわよ馬鹿。なんで最後空間魔法使わなかったのよ!」
「あぁ、なんだ銀幕か。実はお前の魔法陣奪うのに魔力全部使ってしまってな。一応保険として魔力のオーラにある程度予備を蓄えてたが心臓を貫かれた瞬間に……」
口から血が溢れてきたことで、大和の言葉が途中で終わってしまう。
「聖母よ愛するものを守る為に私に光の加護を与えて下さい」
華の回復魔法が大和を優しく包み込む。この時、華が何故泣いているのか、その理由が大和には分からなかった。殺すつもりで来たのなら死んでも何とも思わない、それが国家戦闘員にとっては普通。国家戦闘員はいつも死と隣り合わせの存在。だから誰がどこでいつ死んでも可笑しくない。だからこそ意味が分からなかった。
「ごめんなさい。本気で殺すつもりはなかったの」
大和は頬から落ちる華の涙を手で拭く。
何故このような行動をとったのかは大和自身でも分からなかった。
「……なんで泣いてる?」
「家族を失って心をなくした貴方には分からないことよ」
「そうか。勝負には負けた。学年代表と副会長候補の件は受けよう」
「いいの? 私貴方を殺しかけたのよ? それでも貴方は私を慕ってくれるの?」
「何を今さら。元々俺は銀幕の部下だ。なら、いつもどおり命令すればいいさ」
「……どの口が言うのよ、ばか。それに面倒くさがり屋にしては珍しいセリフね。気でも変わった?」
「そうかも……しれないな」
会話とは別に複数の足音が二人の耳に聞こえてくる。
生徒会メンバーとクラス代表たちのものだ。
「生徒会長! 赤城さんの様子は?」
「今回復魔法をかけていますので後十分もしたら動けるようになりますよ、たぶん」
生徒会メンバー全員、死人が出なくて良かったと安堵した表情をしている。
普段の生徒会活動って……。
そう思わずにはいられない一同は誰のそのことには触れない。
なんとなく触れてはいけない気がしたからだ。
「クラス代表の人たちに生徒会長として聞きます。貴方達はこれでもファ……赤城君が学年代表としては力不足と言えますか?」
五人が静まりかえる。無理もないだろう。異論を言うには実力がかけ離れ過ぎている。この学園は実力主義で成り立っていることは皆が知っている。だからこそ生徒会長の言葉に反論は基本的に許されない。
「異論はないみたいですね。生徒会メンバーも今日は疲れたでしょうから皆さん今日は帰って大丈夫ですよ。私は赤城君が復活したら帰りますので」
「ではお先に失礼します」
皆が一斉に帰りだす。
それを見た大和は心の中で思う。
(なんでこんなにも皆が皆生徒会長の言葉には素直なんだ? 正直……容姿は美人だが、口を開けば可愛さなんて一欠けらもないような女に皆従順すぎるだろ? まぁ力による支配をされたらそうなるか普通は。たしか別の隊長たちからは色々と言われていたことも昔あったが、不思議なことに腹黒女と悪口を言っている奴ほど華に裏で告白している。ほんと俺が今こうして生きていることと言い、世の中はよくわからないことだらけだな)
「赤城君ちょっと聞いてもいいかしら? 私の勘が当たってればいいんだけど、今私の悪口を心の中で思ったでしょ?」
「えっ……そ、そんなこと……あるわけないじゃないですか……あはは……」
「私ね、色々な人の視線を気にして生きてきたから、そこらへんは何となくだけどわかるの。それよりさっきの質問当たっていたかしら?」
「何故笑顔なんですか?」
大和は思う。
これぞまさに恐怖政治だと。
なにより笑顔なのにその後ろに見える殺意が恐ろしいと。
ここで大和は理解した。
皆が従順な理由の一部を。
「私の質問に答えなさい。ファントム?」
「当たってます」
「死ぬ前に言い残す事はあるかしら?」
「まだ死にたくないです」
ゴクリと息を吞み込んだ大和の顔は青ざめ、華の顔は満面の笑みが咲き誇っている。大和の生殺与奪権は華次第となった。
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