第3話 レッツ盗み聞き

福田未来の朝は早い…わけではない。

ひとまず持ち物の確認をしよう。財布でしょ?ロープでしょ?催涙スプレーでしょ?

…私はスカイブルーのリュックに、万が一に備えた神器の数々を詰め込んだ。

こんなに可愛らしいリュックであれば、いちいち職務質問を受ける恐れもあるまい。

スマホの充電はもちろんマックス。

さあ、サイクリングの時間だ。


雲ひとつない青空。なんと心地の良い日であろう…


「さっき見たわよ!あんたのLINE!」

「なに人のLINE見てんだよ!どんな神経してんだてめぇは!」

「どんな神経してんだはこっちのセリフよ!」


雲ひとつない青空。なんと騒がしいことであろう…

信号待ちをしていたところ、痴話喧嘩をしているアベックに遭遇した。

人目につく路上で、よくもまあ2人して猿山を再現できるものだ…


「あんた私の他にも女がいるんでしょ!」

「いねぇって!俺の女はお前だけだ!」

「今さら信じられないわよ!」


信号はいま青になったところだが、この2人の行く末が気になるところでもある。

もう少しだけ聞いてみようか?


「じゃあ誰よ!『ミサちゃん』って!」

「ミサちゃんはー…あれだよ、ただの職場の後輩だよ」

「ただの後輩ねぇ…ただの後輩にしちゃ随分と仲がいいのね?『月曜にホテル予約するほど』に!」

「あっ…お前それ…あー…」


おやおや、そいつはいけませんぜ若旦那よ。

言葉に詰まるということは、いよいよ反論の余地なしってことか?


「でも俺の女は本当にお前だけだ!」

「てかさっきから何なのよ!俺の女は俺の女はって!妙に引っかかる何その言い方!」


「男なんだよミサちゃんは!」




…はにゃ?今なんと…?


「…は?男?」

「そう。ミサトっていうんだけど、向こうから告白されたっていうか…」

「いやあんた…いくら相手が男でも私は許せな…許せないっていうかなんかその…」


我らが女サイドは完全に混乱している。

横断歩道の信号機、赤青関係なしに止まったままの私。これ以上動かずにいれば違和感丸出しだ。何より遅刻してしまう。しかし…


「いやでも、ご飯は何回か行ったけど、キスとか体の関係はまだないからさ…月曜日に初めて…その…『そういうこと』をする運び… だったといいますか…」


彼氏の方は、いつの間にやら敬語へとシフトチェンジしている。


「あんた…両刀使いだったの…」

「ミサトに好かれてるって分かってからは、7対3ぐらいで男寄りになったっていうか」

「男に傾きつつあるじゃない…」


ダメだ…どんな寸劇よりも見応えがあるぞ…

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不幸・不幸・不幸 サムライ・ビジョン @Samurai_Vision

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