滾るが燃えて
夢狐さつき
第1話
教室には数人の男女が、ふたつの机を迎えあわせてカードゲームをしている。トランプにしては枚数が多くて、流行りのTCGなのか盛り上がっていのだが、妙な会話が繰り返される。
「占い師なのかな?鳴いているから、この局が終われば占えるね」
「そう言う君もリーチじゃないの、霊能者っぽいよ」
なんだか相手を伺うみたいな、それでいて楽しそうなだ。
「同時に卓は、ふたつ欲しいね」
「そうね、6人村なら対局の中で下位2名を入れ替わらなければダメだし」
騒々しい教室のドアが急に開き、ジャージ姿の体格の大きな男性が口を開く。
「遊んでないで、早く帰らんか」
「すいません。同窓会の打ち合わせでして」
嘘くさい言い訳に聞こえたのか、学生の1人が背中を向けたまま話している側を通り過ぎる。
「近頃は、学校に学生が遅くまでいる事が……」
ジャージ男が、机に近づいて一枚のカードを掴むと言った。
「なんだ、麻雀か⁉︎」
驚いているジャージ男に向かって誰かが言った。
「そうですが、我々は発足したばかりの同窓会で」
利発そうな女子が声を揃えるように言った。
「人狼麻雀部(仮)です」
————————————————————
俺
パソコンを必死に操作している。窓から見える空は灰色、雲もいつもより気持ち低く感じられる。季節でいえば桜の花も見頃のはずなのに今年はすでに散り始め、生憎の雨もあってか肌寒さすら感じた。
雨粒は街灯を覆い、樹木は葉を揺らしていた。
「畜生……」
暗闇の部屋の中で、残念だが至福の刻に身を捩らせてた俺は、読みかけの本と脱ぎ捨てのられたTシャツに挟まれたスナック菓子を見る。
「もう時間がない。必ず勝ってやる」
机に置かれたモニターには、いまどきの美少女の絵が映し出される。
「ご
彼女のくちびるが微かに動き頬は淡く桃色に染まる。
3Dの美少女こそ、ゲームだとしてもTシャツに貼りついたカエルやUMAと同じぐらい現実に存在してほしい。
コンティニューの 文字がゲームの終了を告げる。
リアルな女の子と縁のない俺は、パソコンのギャルゲーム真っ只中。
「また挑戦するのですの?……」
幾度となく繰り返される対戦は、新鮮さもなく無機質で習慣化している。
幼少の頃は、今のようなオタク予備軍ではなかった。
授業が終わるとサバンナのチーターがインパナを探し狩りをするように、好奇心と欲望のニンジンを鼻面にぶら下げたまま架空ではない街中を遊びまわった。
テレビを観たり漫画を立ち読みするぐらいで十分楽しかった。
携帯のゲーム機が出始めた頃に友人から一緒に遊ばないかと誘われたが、興味が無かったのと貧乏学生だったために断り続けた。
義務教育が順繰りに作り出す量産型ともいえる俺たちは、大海を知らないカエルのように高校という養殖場で新しい生活を始めた。
深夜のアニメに同人誌と、フィギュアなどが好きな俺を両親は
財布の苦しい身の上ではアルバイトなしでは何も出来なかった。
勉強と金策は両立出来ないためか、親への信頼は成績と共に階段を転げ落ちるように無くなり。
親から逃げるのと自分でも行ける大学を求めて、祖母のいる地方の高校へ編入したのは3ヶ月前だった。
まだ高校二年……これからだ。
『ただの絵合わせなのに、勝てないのか?』
誰にも頼らない我流が結果を出せないまま連敗を続けている。
目の前のモニターには、さっきと違いハイ○ュウより少し大きい数字の書いて塊たちが並ぶ。
向正面の対戦相手にも数字の塊があり、さながら合戦絵巻を想像させる。
トランプのゲームにも(セブンブリッジ)というのがあるが、スケールはこっちが断然に大きい。 テーブルゲーム『ポ○ジャン』の親戚なんじゃないかと思われるかもしれないが、言うなればこちらが本家で世界中に麻雀として楽しまれている奴だ。
俺は、麻雀が
「早く寝なさいね。転任の初日に弟が遅刻では、教師としての威厳が保てないわ。ヒック」
受話器からは酒の匂いはしないのだが、年の離れた姉の声は上機嫌だった。
「治、
間髪を容れず捲りたてる、その後も姉は酔い潰れるまで話し続ける。
『クラスのみんなとは、上手くやってね』
話に疲れたのかゲームに疲れたのか
徐々に受話器からの姉の声は小さくなり、目の前は暗くなっていった。
ゲームのBGMが鳴り続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます