forget-me-not

青海啓輔

第1話 青空

 何かに悩むと、僕は必ずこの小さな消しゴムを見る。

 幅5センチくらいの小さなイチゴの香りがする消しゴム。

 可愛いイチゴの絵が書いてある。

 僕にとって、何よりも宝物。

 小学校1年生の時、ある女の子に貰ったものだ。

 これをポケットに入れていると、どんな困難も乗り越えれる気がするし、道を外れそうになったときも、この消しゴムを眺めることで、思いとどまることができた。

 僕はまた辛いことがあると、必ず空をみる。

 空は青空だけではない。

 曇り空、雨空、雷が鳴ることすらある。

 でも、僕はそんな時でも雲の上にある青空を想像する。

 きっとこの空はどこかで君につながっている。

 君は僕のことを覚えていないかもね。

 そして幼い頃交わした、君との淡い約束。

 でもね、僕は君のお陰でこうして生きている。

 いつの日か君に会えると信じて。


 僕が物心ついたとき、父親は既にいなかった。

 僕の父親はアメリカ人であり、沖縄に赴任していたときに、僕の母親と出会い、恋に落ち、僕が産まれた。

 父親は任期が終わると同時に、アメリカに帰り、音信不通になった。

 どうやら、向こうにも家族がいたらしい。

 母親は半ばそれが分かっていたが、それでも僕を妊娠した時、迷わず産むことにしたそうだ。

 沖縄にいた時は、父親も僕を可愛がってくれたらしい。

 何枚か写真がある。

 産まれたばかりの僕と、母親、そしてアメリカ人の父親。

 彫りの深い顔に、緑がかった瞳。そして金髪。かなりのイケメンだった。


 また写真の母親は子供の僕が見ても美人だった。

 黒いまつげに大きな瞳。瓜実型の小さな顔に、黒い長い髪。

 僕は容姿という点だけは、両親に感謝している。


 母親は子供を育てる能力が無い人で、僕は幼い頃、ネグレクトと言えるような生活を送り、小学校2年生になる頃、祖母に引き取られた。

 年金暮らしの祖母との生活は貧しかったが、三食食べられることは有り難かった。

 もっともそのために君と遠く離れてしまったわけだが。

 

 どうだろう。

 今の僕なら君に会う資格はあるかな。

 僕が唯一持っている君の写真。

 小学校1年生の秋の遠足の時の集合写真に映る君に話しかけた。

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