絶世の美少女、天童美愛の裏垢と僕の創作垢が相互フォローだ、ヤバい。
爪木庸平
第1話
「天童美愛(てんどうみあ)」が「てーむ」だという証拠を掴んだ。てーむのネットリテラシーは極めて高く、身バレするようなツイートは全くしていなかった。自撮りを上げる時も必ず真っ白な壁をバックに自分の一部しか写していない。アクセサリーなどを身につけていることもあるが、おそらく自撮り用に購入した物で、天童の関係者は全く見たことがないものだろう。
俺は天童とてーむのそれぞれに恋をしていた。天童に対してアプローチをしたことはないが、クラス内の噂話に聞き耳を立て、近況などの情報収集に務めていた。家を特定するなどの具体的な行為に走ったことはないが、精神的には半分ストーカーのようなものだった。
逆にてーむに対しては日々リプライを送っていた。てーむからの返信は多くがそっけないものだったが俺の日常ツイートには時々いいねをつけてくれるなど、決して疎遠ではない、と思う。
天童がてーむであったら、なんてことは考えたことがない。天童とてーむは似ても似つかない人間だ。そもそもてーむは大学生だ、と思う。
しかし、今朝の通学バスですべてが変わった。この地方には珍しく雨が降り、普段自転車通学をしている生徒たちがこぞって通学バスを利用した。バス後方の座席に座っていた俺の隣に座ってきたのが天童だ。すごい。天童が隣にいる。この二年間で一番近い距離に。
天童のくりっとした大きな目。吸い込まれるような黒の髪。淡く優しい色合いの唇。少し変わった形の耳。を、見ることができない。視線なんか向けられる訳がない。黙って自分のスマホを見る。
創作用のTLが表示されている。昨日の夜のツイートを遡っていくと、てーむのゲーム実況ツイートがあった。視聴者数からいって、見ているのは俺と数人のフォロワーだけだろう。
てーむのツイートにいいねをつける。
「あっ」
隣の席の天童が声を漏らす。
(あれっ)
思わず天童の手元に視線を向けてしまう。ほとんど自分の意思とは無関係に、反射的に。
Twitterが表示されていた。TLの一番上に見覚えのあるツイートがある。あれ、俺じゃん。
通知タブに一件新着がある。
まさか?
天童は、おそらく反射的に、通知タブをタップした。
そこにはてーむがいた。
視線を感じ、天童の顔の方を見やると、彼女は少し困ったように、愛想笑いしてきた。
この笑い方は自分の身を守るための戦術だ。やめてね、とほとんど話したことのないクラスメイトに諭す。
さすがに顔を逸らし、窓の方へと向ける。曇った窓ガラスには天童のスマホの光が映り込んでいるが、何が表示されているかまでは見えない。
心臓が動く。ドキドキと叫んでいる。てーむ? 天童? どういうこと?
天童美愛がてーむだという証拠を掴んだ、のか? マジで?
絶世の美少女、天童美愛の裏垢と僕の創作垢が相互フォローだ、ヤバい。 爪木庸平 @tumaki_yohei
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