競パンの男の子を口説くのは難しい~壮絶!競パンヒーローアクアマンの大活躍

らぶか

第1話 幼馴染は競パンスーパーヒーロー…、だけどすぐにやられちゃう

競パンの男の子を口説くのは難しい。


直樹は毎日通っているカフェで物思いにふけっている。


競パンの男の子というのは、世界の平和のために戦うスーパーヒーローのことだ。

宇宙人の侵略が始まったのが半年前で、それと同時に地球を守るヒーローも現れたのだ。


彼らはビキニ型の水着を身に着けた男の人たちだ。

誰が呼び始めたかは不明だが、彼らは競パン戦士と呼ばれるようになった。


彼らの名前は本来はアクアマンという。

地球侵略を始めた怪物は、雨のなかにやってくるので、戦うヒーローたちも水着を着用しているわけだ。


だからといって競パン戦士という呼称はあまりにもひどい。

直樹は少しばかり憮然とする。

彼がヒーローのことでなぜこんなに怒るのかというとヒーローのメンバーのなかに幼馴染で同じ高校に通っている祐介がいるからだった。


アクアマンは来るべき宇宙人の侵略に備えて、世界各国が一丸となって準備をしていた組織らしかった。

その実態は謎に包まれており、所属する構成員の正体もトップシークレットになっている。

そのため、競パン戦士が誰かわからないような特殊な仕掛けがなされている。

顔の周りに特殊な光学的な加工がされているのか、はたまた集団催眠的なものか、直樹は知らない。

だが、確かに競パン戦士の顔を見ても顔の造作はわかるものの、誰かに似ているという感覚が一切湧かなかった。


それにもかかわらず、直樹は祐介の顔だけは見分けることができた。

生中継のテレビの向こうで異星人と戦う祐介を見て、直樹は心の底から驚いた。


幼馴染がスーパーヒーローという事実もさることながら、何よりも祐介が水着という無防備な姿で戦っているのが心配で仕方なかった。

幸いなことに祐介は毎回異星人を見事に倒すことができていた。

直樹はいつも祐介が無傷で戦闘を終えていることに深く安堵した。


生中継の戦闘を見ている際は、目を背けつつ恐る恐る映像を見る直樹だったが、不思議なことにユーチューブにログとしてアップされた祐介と異星人との戦いを結衣は何度も見てしまうのだ。

戦っている祐介は直樹がいつも知っている祐介とは少し違っていた。

いつも優しくて少しおっとりしていた祐介だが、戦う時はすごく真剣な顔をしていてかっこよかったのである。


「祐介…」


直樹はカフェにいるにもかかわらず思わず幼馴染の名前を声に出してしまった。

誰かに聞こえていないか結衣はきょろきょろと辺りを見回す。


幸いカフェは空いていた。

誰にも聞こえていないと思って安心した直樹だが、突然後ろから「何?」という声がした。

後ろに立っていたのは祐介で、直樹はびっくりしてしまう。

一人でいるときに思わず相手の名前を口走ってしまうなんて、まるで恋する乙女ではないか。

もちろん、自分が祐介に恋愛に近しい感情を抱いているのは間違いないのだけれど、それを祐介には悟られたくはなかった。


「何?」


祐介はもう一度言う。

どうやら祐介は直樹がひとり言で自分の名前を言ったのではなく、本当に呼ばれたと思ったのだろう。

ちょっとしたラッキーに感謝しつつ「何でもない」と直樹は言った。

「そう」と言った後に祐介は呆けたように立っているので、結衣は「座って」と自分の隣の席を指さした。


「あぁ」とそこで祐介は自分が初めてカフェにいることに気づいたかのようにつぶやいて、慌てて注文をしにカウンターへと向かっていった。

祐介は子供の頃からどことなく抜けたところがある。

今だってカフェに来たというのに部屋にいるようなスウェットだ。

彼が地球の平和のために戦う競パン戦士だとは全く信じられなかった。


「直樹。雨の日に外を出歩いたら危ないよ。異星人は雨の日に活動するんだから」


祐介はひどく心配そうだ。


「そんなの気にしすぎだよ。それより僕は受験の方が大事なんだ。異星人がどうのこうのって言ってて勉強をおろそかにしてたら、きっと将来後悔するよ。何より僕たちのことを競パン戦士が守ってくれるんだからね」


直樹は祐介に探りを入れてみた。

祐介が競パン戦士という言葉を耳にして動揺するのか確認しておきたかったのである。


しかし、祐介はまた呆けたような表情をしている。

その目線は結衣を突き抜けて、窓の外を見ているようだった。


直樹は眉根を寄せて、祐介の不思議な表情を見つめる。

そんな直樹の耳に少しずつ外の喧騒が聞こえてきた。


最初は人が足早に通り過ぎていく足音で、次第にそこに悲鳴のようなものが混じる。

それに加えて地面の振動も感じ始めた。


直樹は思わず振り返る。

「何か」が起こっているのは間違いなかった。


外の通りでは人々が駆け出していた。

雨だというのに傘を放りだして、みんな必死に走っている。

地面には開いたまま打ち捨てられた色とりどりの傘が散らばっていた。


「ちょっと祐介、これ…」


そう結衣が言い終える前に、カフェのガラス窓が全て飛び散った。

悲鳴をあげる直樹に祐介は覆いかぶさる。


「だめ!祐介!傷だらけになっちゃうよ」


直樹はそう叫ぶが成す術がなく、ただただ祐介に身を預けるしかなかった。

かたく目をつぶる直樹は、次第に祐介の体が熱を帯びるのを感じていた。

目を閉じていてもその瞳が微かに光を感じ始める。

危機的な状況のはずなのに、直樹はなぜだかすっかり安心し始めていた。

祐介がとても頼もしく感じた。


「直樹。大丈夫だよ。目を開けて」


祐介の声はいつものように優しかったが、少し大人びて感じる。

直樹はおずおずと目を開けた。


祐介は「変身」していた。

さっきまで着ていたスエットはどこかに消えてしまい、祐介は裸になっていた。

もちろん何も着ていないわけではなく、水泳選手が着るような水着を身に着けてはいる。

しかし、それでも恥ずかしくて直樹は思わず目を逸らしてしまう。


祐介は単に水着姿になったわけではない。

変身した祐介には明らかにいつもと違うところがあった。

それは胸に埋め込まれたキラキラしたクリスタルだ。


青色に光るそのクリスタルは競パン戦士ことアクアマンのエネルギー源らしい。

この宝石からたくさんのエネルギーが供給されて、祐介たち競パン戦士は超人的な力を破棄できるのだ


「祐介…。やっぱりあなたは競パン戦士だったのね」


直樹は驚く。

もちろん彼の活躍はメディア越しに見ていたのだが、自分自身の目で見るまで確信が持てなかった。


「うん、そうだよ、結衣。僕が来たから心配ない。君のことは必ず守るからね」


祐介がいつものように優しく笑う。

すごく強そうな体でいつものように気弱そうに笑うからずるい。

こんな危ない状況なのに結衣はドキドキしてしまう。


「はっはっは!見つけたぞ!競パン戦士!」


直樹のドキドキをよそにカフェ(といってももう原型をとどめていないのだが)の外で声がする。


そこに立っていたのはかなり年上の男性だった。

直樹は大人すぎる男の人の顔の区別がつかない。

みんな判で押したようにスーツを着ていて高そうな時計をしていて髪をきっちり整えている。

みんな同じで全く特徴がない。


そこに現れた男の人も同じで、大人の三つの特徴を満たしていた。

ただ、スーツは体の線にぴったりとフィットしていて高級な仕立て屋でオーダーしたものだというのがよくわかった。

加えて、時計の一般的な人が身に着けているものより大きくて丈夫そうだ。

さらに、髪は整髪料をつけすぎていて雨でも崩れる気配がない。


直樹は不思議に思う。

大人の人には二種類いる。

ひとつは年を取るとともに若い頃の魅力や輝きを失ってしまう人々だ。

特に直樹の父親はその典型である。

その一方で、今日現れた年上の男の人のように魅力も輝きも一切失わない人がいる。

どちらが良いというわけでもないが、男の人がどのような心境の変化で二つの道に分かれるのか不思議でならない。


「出たな!レオン星人!これ以上のお前たちの思い通りにはさせない!」


祐介に言われて直樹は、はたと気づく。

そうだ。この目の前にいる人はすごく年上の一般男性ではなく、地球侵略を企む異星人なのだ。


「ふっふっふ。競パン戦士よ。お前たちこそ随分と私たちの邪魔をしてくれたな。今日はお前たちとの決着をつけるためにやってきたのだよ」


「俺は競パン戦士じゃない!アクアマンだ!」


そんな祐介の声を無視してレオン星人が車の鍵をポケットから取り出した。

レオン星人が鍵を操作すると結衣の死角からエンジン音が聞こえたかと思えば、彼の隣に高級そうな車が横付けされた。


直樹はスーツや腕時計と一緒で車にも興味がないので、どんな車種かはわからない。

ただ、その挙動がまるで忠実な犬のようだなと感じた。

スーツに時計、車がそろったレオン星人はまるでジェームズ・ボンドのようにも見えた。


「決着だって!それはこっちの台詞だ!今日こそお前を再起不能にして見せる」


いかにもヒーロー然として祐介は言い放つ。

その姿は勇敢でまぶしいくらいなのだが、こんな大人の人を相手にして大丈夫なのかと直樹は心配になる。


「ふん。威勢のいいな!」


レオン星人がスマートキーを操作すると車が電子音を立てて振動を始めた。

そして、トランクからはメタリックな頭が、そして四つのタイヤから足が飛び出し、車の後ろから長いしっぽが出現した。

高そうな外車は、一瞬でトカゲのような形状に変化した。

おそらく、先ほどの地面の揺れはこのトカゲ型の機会怪獣が地面を踏みしめている音だったのだろう。


「リザード一号!競パン戦士イエロー攻撃だ!」


どうやらリザード一号というらしいそのメカトカゲは、口をパカリと開き、長い舌を祐介に向かって発射した。

祐介はその舌の攻撃をもろに食らって、壁に押し付けられてしまう。

その力はかなりのもののようで後ろの壁にヒビが入っていく。

どうやらあのリザード一号はカメレオンを元にデザインされているらしい。


「くっ…」と祐介は苦し気にうめく。


祐介が思いのほかあっさりやられてしまって直樹は唖然とする。


「そこのかわいい坊や。そんな軟弱な彼氏を捨てて、僕に乗り換えないかい?男はやっぱり強くないとダメだろう」


そんな直樹の気持ちを察したかのようにレオン星人は言った。

直樹はその言葉をぽかんとしながら聞き流す。

乗り換えるといってもレオン星人はすごく年上に思えた。

付き合うなんて可能性があるということがうまく想像できなかったのだ。


直樹が無反応なのにレオン星人は少しばかりショックを受けつつ、作戦を次のフェーズへと展開させた。

リザード一号の車体のルーフが開き、衛星放送を受信するようなパラボラアンテナが飛び出した。

なんでも積んであるんだなーと関心する結衣。

次の瞬間、パラボラアンテナが薄く発光したかと思うと、それと連動するように祐介の胸のクリスタルも光を強めていった。


「さあ!お前の競パンエナジーを吸い尽くしてやる」


「違う!アクアエナジーだ!あっ!」


祐介の訂正を遮るように、クリスタルから光が漏れ出し、一直線でアンテナへと放射された。


「くっ…あっ…」


祐介の顔が苦痛にゆがむ。

どうやら、クリスタルから競パン戦士のエナジーが強制的に吸い上げられ、例のアンテナへと送られているようだった。

エネルギーをアンテナ経由で受け取ったリザード一号は、まるで美味しいごちそうをもらった時のように喜んでいる。


「はっはっは!競パンイエロー!君のおかげでリザード一号にどんどんエネルギーが充填されていくよ。君のエネルギーを原動力にこれからどんどん街を破壊させてもらおう」


「そんなことは…させない…。それに俺はアクアマンイエローだっ!あっ!」


祐介は何とか流れ出るエネルギーを止めようとしているが、どうしようもないらしい。

体を金属でできた舌で固定されつつ、されるがままになっている。


エネルギーを吸収される祐介、彼に最大のピンチが迫っていた。


(続く)

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