たぶん、ハッピーエンド 2


「……レッカ、音無。……みんな、さよなら」

「ポッキー!?」


 というわけで衣月との別れの挨拶も終わり、さっそくヒーロー部に対して今世紀最大のヒロインムーブをかましていく。



 衣月と話してから、これから先のことを少し考えてみた。


 そうして決まった行動指針は、とりあえず警察に捕まらないよう逃走を続けながら、自分自身を囮にして悪の組織の残り少ない残党を掃討していく──みたいな感じ。

 組織の奴らが俺の命を狙っているという事実を逆手にとって、残りの構成員をみんなやっつけてしまおうってワケだ。そもそもボスをぶっ倒したのは俺だし、責任もってしっかり壊滅させよう。


 その旅の途中でペンダントを修理……もとい改造していければいいかな。

 物理的な攻撃や強力な魔法をくらっても大丈夫な感じにしつつ、元の俺の姿に戻れるようにしたい。

 コクの顔が犯罪者として割れているのなら、アポロに戻ればまた普通に暮らせるかもしれないので、まずは男に戻る事が第一目標だ。

 

 ついでに親父を超えるべく、コクでもアポロでもない第三のフォーム変身を開発したい気持ちもある。

 ともかくしばらくは忙しない日々が続きそうだ。



「もうここには居られない。だから、これでお別れ」


 彼らヒーロー部が立っているビルの正面に位置する建物の屋上に立ち、俺は風に吹かれながら静かにそう告げた。

 まるでレッカにパンツを見せながら、謎の美少女ムーブ全開で出会ったあの時のように。


「ま、待ってくれ! 君はコクなのか!? それともアポロなのか!? どうして急に、さよならなんて──」


 レッカのヒロインを引き止めようとする表情が、見ててめちゃくちゃ気持ちいい。癖になりそう。

 これは最後の美少女ごっこが捗りますわ。ふへへ。


 ……い、いや、別に自暴自棄になったとかじゃねぇし。


 正直これからはめちゃくちゃ不安だけど、探知能力があるから組織の刺客とかはなんとかなる。


 れっちゃんも英雄になって、音無は円満にヒーロー部に戻れた。

 だってのに俺が残ったら、また彼女を迷わせたりだとか、組織の刺客による襲撃に巻き込んでしまう。それはダメでしょ。


 俺がこの場を去るだけで大団円を迎えられるなら、喜んで去ってやろうじゃねえか。別にさびしくなんかないぞ。なんたって男の子だからな。


「音無。衣月のこと……よろしく」

「せ、先輩……」

「本当に消えるつもりか!? ポッキー!」

「……ごめん」


 あえてアポロなのかコクなのか分からないどっちつかずの中性的な口調で語り、レッカを困惑させてゆく。れっちゃん、どっちか分からなくて俺のことポッキーと呼ぶしかないみたい。


 ふはは、お前は遂にコクを攻略することはできなかったのだ。残念だったな、好感度不足だぜハーレム主人公くん。


「アポロとコクの事は忘れて、どうかみんな──幸せに」


 未攻略ヒロインがいつまでもうろついているわけにもいくまい。そろそろ退散だ。

 風魔法を使って宙に浮き、今度は誰も追いかけてこないよう、怪我をしない程度の突風を彼らに放った。


「ぐっ!」


 別に永遠にアデューするわけじゃないし、俺が新しい姿になるか元に戻るかしたら、またこの街には帰ってくるんだ。心配せんでもまた会えるよ。

 それが何ヵ月後か、何年後になるかは知らないが。

 組織の刺客に殺されたらその限りではないけど、なんとか死なないように頑張ろう。


 謎の美少女ごっこも恐らくこれが最後になるだろうが、終ぞ誰かに止められる事は無かったな。


 まさかヒロインとして攻略されることもなく、ましてや物語のようなシチュに巻き込まれたのにヒロインと出会って結ばれるなんて事もなく、警察に追われる犯罪者兼悪に命を狙われる賞金首みたいな存在になるとは思わなかった。これが美少女ごっこをしてきた代償かぁ……。


 まぁいいや。

 やれる事は大体やっただろ。自分が陥った状況は散々だが、概ね満足のいく研究結果だった。


 紀依アポロ太陽・キィは美少女ごっこがめちゃくちゃ上手い。

 Q.E.D.証明完了。


 それではさらば──っ!


「さよなら~」


「待ってくれ……! 待って、ポッキーッ!!」

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