もしもエロゲだったら 2



 数分後。


 上空に浮かび上がってコクもろとも自爆しようとしたサイボーグを追いかけ、なんとか彼女を取り返したのだが、その瞬間にサイボーグが大爆発して。

 僕とコクはそのまま海の中へドボンし、無傷かつ命も助かったものの、完全にびしょ濡れの状態になってしまったのが、いま現在の状況だ。


 割と浅い所に落ちたので、溺れる事こそ無かった──けど。


「…………服、透けてる」

「見てない見てない! 見てないから!」


 コクを正面から抱きかかえた状態で海岸まで移動し、彼女を下したときに気が付いてしまった。

 海水でびっしょりと濡れてしまった純白のワンピースが、肌に張り付いて透けている。

 どうやら生地が薄いタイプのワンピースだったようで、ダメ押しにもう一本といった感じで、コクはパンツ以外の下着を身に着けていなかった。


 膝から下が海に浸かっている状態で、僕は彼女の正面に立っている。

 見てないなんて連呼していても、その無防備で艶めかしい姿が目に映るのは避けようのない事実だった。


「レッカ。どうして、顔を背けているの?」

「はっ、ぇっ……ど、どうしてって……!」


 たったいま『透けてる』って自分で言ったじゃないか。

 それ以外の理由がどこにあるというんだ。


「前々から気になっていたけど、レッカは女の子の体を目にすると、過敏に反応してそっぽを向く。どうして?」

「み、見ちゃダメだからに決まってるでしょ……君だって見られたくはないはずだろ……?」

「別に、いいけど」


 本当に何を言っているんだこの少女は。

 ついつい彼女が今どんな表情をしているのか気になって、チラリとコクのほうへ視線を向けてしまう。

 そこにいたのは、相も変わらず仏頂面で、あられもない姿をしている黒髪の少女だ。


「レッカはヒーロー部の少女たちから好かれている事、自分でも自覚しているはず」

「……そ、それとこれとは関係ないんじゃ」

「ううん。関係ある」

「──っ!?」

 

 コクが此方へにじり寄ってきて、顔を隠していた僕の腕を無理やり引っ張っておろしてしまった。

 つい驚いて目を開けたままにしてしまう。

 眼前にいる少女はあまりにも華奢な体躯で、本来は体型を隠してくれるワンピースが肌に張り付いているせいで、より一層彼女の身体が引締まって見えた。


「ちゃんと、見て」

「……こ、コク……っ」


 手を掴まれているせいで顔を隠せない。だから彼女の肢体をまじまじと見つめてしまう──なんて言い訳が脳内を歩き回っている。瞼を閉じればそれで済む話だろうに。

 僕は目をつぶることが出来なかった。

 コクの白皙な肌に、目を奪われてしまっている。


「ヒーロー部の娘たちは、みんな本気。その状況を良しとしているのに、身体を見たら純情ぶって目を離すなんて、ズルいことだと思う」


 果たしてそうだろうか。

 反論の余地などいくらでもありそうだが、僕はコクのきめ細やかな濡れた髪を見て息を呑む事しかできない。


「もしこういう状況であの娘たちから目を逸らしたら、傷つけてしまう可能性もある。いろいろな女の子に好かれている以上、あなた自身も知っておくべき事があると思う」

「そ、それは違くないか……?」

「あっちが勝手に好いているだけだから、自分には関係ない? あんなにアピールされておいて、フることも受け入れる事もなく一年以上なあなあで過ごしてきたけど、勝手に好かれているだけだから自分は悪くない?」

「ぅ…………」


 彼女の鋭い言葉がグサグサと心臓に突き刺さっていく。アポロと情報を共有している以上、どこまでもこの少女にはお見通しだったらしい。

 確かに思い返してみれば、確実に僕にも非はある。

 部活内の雰囲気を優先したせいで、メンバーの彼女たちにはまるで誠意を見せてこなかった。


 ふと、ポッキーに『お前いつまで共通ルート続けるつもりなんだ?』と叱られたことを思い出した。

 答えを出さないまま、彼女たちに囲まれて過ごす日常を、心のどこかで楽しんでいたのかもしれない。


「……レッカ、童貞でしょ」


 どどど童貞ちゃうわ、とポッキーなら茶化すのだろう。

 けど、僕はこの状況に鼻白むことしかできなかった。


「慣れたほうがいい。せっかくハーレムを築いたのに、童貞丸出しでヒロインたちに失望されてほしくはないと、アポロも言っていた」


 余計なお世話だよあのバカ。


「……その、慣れるって……?」

「まずは──目を逸らさないこと」


 そう言いながら、コクは自分のスカートをつまみ、水滴を垂らしながら裾を持ち上げていく。

 徐々にそれが上がっていき、ワンピースに覆われていた彼女の下半身が、遂に露になってしまった。


「……っ」


 思わず喉が鳴る。


「濡れた下着、見るのは初めて?」

「……たくし上げられたスカートの中を見るのが、そもそも初めて……かな」

「そう。初めてなら、しっかり見て、慣らさないと」


 海水を含んで重くなってしまった白い生地のパンツが、目に焼きつけられていく。

 上目遣いでスカートをたくし上げているコクの頬は、意外にもほんのりと赤みを帯びていた。

 冷静で鷹揚とした雰囲気に見えて、実は彼女も僕と同じような恥ずかしさを感じているのかもしれない。


「……これは特訓」


 それでも真っすぐに此方の眼を見つめ、耳の奥へ流れるような透き通った声音で、彼女は続ける。


「レッカの友人として、練習台になろうと思う」

「だ、ダメだろ、そんな」


 とっさに口から出たソレが、本気の言葉じゃないことは、否が応でも自覚できてしまった。

 この状況に期待をしてることは丸わかりだ。

 そのように僕の気持ちを揺さぶってしまうほど、彼女には小柄な体躯とは不釣り合いな妖艶さがあった。


 聞き心地の良い声に、油断を誘う甘い言葉に──脳が溶かされてしまいそうになっている。


「……組織との決着がついても、私は普通には生きられない。アポロはあなたの元に戻って、私は二度とレッカと話すことができなくなる」


 彼女を救い出す方法は、まだ見つけていない。

 そんなことはないんだと、否定することが出来なかった。


「これ以上、誰かの身体を奪う気にはなれない。私に残されている時間は、あと少しだけ」

「コク……」

「だからレッカ。……私、思い出がほしい」


 目の前にいる漆黒の少女が放ったその言葉の意味を、僕はとうに理解していた。

 察してしまえたからこそ──強く拒絶できなかった。


「一番仲良くなれた男の子との思い出があれば、あの薄暗い牢獄の中でも、希望を抱いて眠り続けることができると思う。友達のために、特訓に付き合って……それで、えと……」


 いつの間にか、スカートを持つ手が下がっていた。

 コク自身も、どんな言葉を僕にぶつければいいのか、分かっていないんだろう。


「レッカに覚えておいてほしい。コクっていう、変な女の子がいたってことを」

「……もう、何があっても忘れるわけないだろ。きみはいつだって僕の予想を上回ってきた凄い女の子なんだから」

「で、でも、ここですれば……もっと忘れられない記憶になる、かも……」


 互いに自分が何を言っているのか、ハッキリとは理解していない。

 きっとこの後に起こる事は二人とも察していて、それでもまだ心の準備ができていないから、回りくどく様々な言葉で時間を稼いでいるんだ。


 しかし、それも終わりの時が来たようで。



「……ごめん、レッカ。もう何も思いつかない」



 分かってる。

 コクの言いたいことは、ちゃんと伝わってるから。


「ここで、したい。一度でいいからしてみたい。私が私であった証が欲しい。……レッカ」


 もう一歩。

 僕に一歩、寄り添って。

 彼女は僕にしがみ付いて、上目遣いで懇願してきた。


「わたしを……使って」


 その願いに対して、僕の答えは──




「レッカ様ーッ! コクさぁーんッ! どちらにいらっしゃいますのぉー!? 何かすごい爆発音が聞こえて……あっ、お二人とも!」




 ──……答えは、出せなかった。





 っっっっぶねぇぇぇ!!!

 ハーッ! マジで助かった! ヒカリが来てくれて命拾いした!!


 いやぁ、思いのほか距離を縮めることができたな。重畳重畳。よくできました。


 サイボーグが爆発した後くらいから、慌ただしい様子で俺とレッカを探すヒカリの姿が遠めに見えていたので、きっと彼女によってこのイベントが中断されるだろうと踏んで行動していたのだが、予想通りうまくいって良かった。


 あのままだったら同情興奮したレッカと、危うくくんずほぐれつな大運動会をするところだったからな、マジでギリギリだった。


 夜の海でアレをするなんて、もうどうあがいてもエロゲ的な展開だったよな。レッカも流されそうになって、あと一歩でエロCGを回収しちゃう寸前だった。ほんとにスリリング。


 けど悲しいかな、これはエロゲじゃあないんだ。

 成人向けな物語だったらルート確定の青姦だったけど、そうはならないよう最初から調整していた。残念だったな童貞くん。

 

「さ、サイボーグがまだ残ってたんですの!? お二人ともご無事で本当によかった……」

「はは。心配かけてごめんね、ヒカリ」


 まあアイツ興奮はしてたけど勃起はしてなかったから、まだちょっと刺激が足りなかった気もするな。

 暫くしたらリベンジ案件かもしれない。


「……コク」


 小さい声でレッカが耳打ちしてきた。

 急にやられるとゾクッてなるからやめてほしい。


「今日のことは二人だけの秘密にしよう」

「うん」

「それと……少しだけ、時間をくれないか」


 まぁヒカリがいなくなったら即再開ずっこんばっこんってワケにもいかないよな。

 

「わかった。……待ってる」

「……う、うん」


 赤くなって、かわいいやつだな。分かりやすいわ本当に。



 とにかく、これでメインヒロインムーブは完璧だろう。俺のルートに入ったのは疑いようがないので大丈夫だ。

 ……たぶん。急に氷織とかカゼコが覚醒でもしない限りは。……えっ、大丈夫だよな……?


 これで好感度を稼いだ後はどうするかあんまり考えてなかったけど、近いうちに悪の組織との闘いも再開して忙しくなるだろうから、間違ってもこの沖縄で過ごす短い休暇期間の間に、親友と一線を越えてしまうことはあり得ないはずだ。


 まだまだ美少女ごっこは続けるけど、親友とのエロいことは回避して。


 いろんなとこに気を配りつつ、なるべく健全なまま全クリするぞー!


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