忍法・ヒロイン奪いの術 1



 なんやかんやあって、俺たちはサイボーグの撃破に成功した。


 もう少し詳しく説明すると、ヤツは門番のように支部の入り口の前に立ち塞がっていたのだが、衣月が投擲したクナイを俺と風菜の風魔法で超加速させた結果、サイボーグの頭部を粉々に打ち砕いて勝利した──という流れだ。衣月はあらかじめ音無からクナイを一本持たされていたらしい。


 しかし勝利の喜びも束の間。

 どうやらサイボーグは量産されていたらしく、この組織支部のいたるところに配置されていることが分かってしまった。

 割と苦労して倒した敵だっただけに、そいつが量産型の内の一体だということが判明したときの落胆も大きかった。


 だが風菜と衣月の励ましによって再起し、とりあえず先に仲間の解放をしようということで、風菜に衣月を任せて二手に分かれ、俺は怪しげな地下のほうへと降りて行った。

 そこで見つけたのは──



「…………コク」



 大きな廊下で、燃え盛る炎の剣をその手に握ったレッカが、脱力したように立ち尽くしている。

 その周囲には木っ端微塵に破壊され尽くした、あのサイボーグの残骸が散乱している。

 燃えた痕跡や廊下中に漂うコゲ臭い匂いから察するに、これはすべてレッカが片付けたものなのだろう。


 ……えっ、なにこれ。

 覚醒イベントか何か?


「レッカ、これは」

「見ての通りさ。皆を処刑させないために、すべて僕が倒した。どうやら在庫はまだまだ残ってるみたいだけどね」


 いやいやもうこの際、サイボーグの残存兵力だとかはどうでもいい。

 あの、れっちゃんが異様にクールな男になっちゃってる方が不思議でならないんですけど。

 てか起きてるし。あの催眠状態から自力で覚醒したのか。


「きみのおかげだよ、コク」

「私……?」

「僕はアポロとの日常という夢に囚われていたんだ。とても心地良くて……平和な日々だった」


 催眠状態のときはみんな夢を見せられてたらしい。ありがちな夢の世界ってやつだな。

 でも、何でよりにもよって俺との起伏のない日常が夢なんだろう。

 そこはヒーロー部の女の子たちとアレコレする最高のハーレム桃源郷じゃないのか?

 まったく夢がない奴だな、どんだけ俺のこと好きなんだよ。照れるからやめれ。


「でも、きみの存在が僕に違和感を与えてくれた。親友を奪ったキミがいたからこそ、僕はで目を覚ますことができたというワケだ」


 あれ、今ちょっと不穏なワードが聞こえた気がするんだけど、気のせいかな。


「夢なんかで満足したりはしないよ。僕は僕のあるべき日常を取り戻すつもりだ」

「レッカ……」


 やばい、怖くて一歩下がっちゃった。

 しかしそれを縮めるように一歩俺に近づくレッカ。持ってる武器の剣先が床を削って、嫌な金属音を立てた。


「コク」

「……ッ!」


 全身から殺意が溢れ出てるんですけど。

 これもしかしなくてもこの場で殺されちゃうヤツか?


「アポロの事も、キミのこともまとめて救う。……親友曰く僕は『主人公』ってヤツらしいからね。僕の大切な人は誰一人死なせはしない」


 あっ、言葉通り主人公っぽいセリフだ。

 よかった~。


「だから今ここで、そのペンダントを回収する」


 よくなかった~。


「渡せ、コク」

「む、むり……」

「ダメだ、渡してアポロを解放しろ。君の体の媒体が必要なら僕を使え。必ずきみをペンダントの牢獄から救いだしてみせる」


 目が据わってる。もうマジのマジだ。

 夢での体験がトリガーになってしまったのか、もはやあの優柔不断で迷いながら歩くレッカはどこにもいない。


 そこで俺はようやく理解したのだ。

 今のコイツには以前なかったものがある。


「拒否をするようなら力づくでそれを回収させてもらうよ」


 たとえそれが相手を傷つけるような選択であったとしても、今のレッカには──


「コク……そこを動くなッ!」


 ──そんな『スゴ』があるッ!!


「にっ、逃げるが勝ち……ッ!」

「なにッ!」


 足に風魔法を使用して加速し、レッカの股下を通り抜けて彼の背後へ。


 俺にはメインヒロイン面した謎の美少女ごっこを最後までやりきるという『覚悟』がある。その意思を貫き通す為にも、誰一人助けていないこんな中途半端な状態で捕まるワケにはいかないのだ。

 ついでに膝カックンもして転ばせといてやる。


「ほい」

「あぅっ!」


 ひゃっひゃっひゃ! かわいい悲鳴じゃあねぇかッ! 

 めっちゃ怖いから俺はこのまま音無を見つけて逃げさせてもらうぜェーッ!




 鬼のれっちゃんから死に物狂いで逃走して、数分。

 音無とライ先輩を除いたヒーロー部のみんなが投獄されている牢屋を見つけた俺は、管制室から持ってきた鍵を使って彼女らを救出した。

 残るは我が相棒こと後輩ニンジャと、精神力がカンストしてるあの生徒会長だけである。


 ……なのだが。


「で、レッカくんはどこにいるの? アナタまさかレッカくんを囮に使ったわけじゃないよね?」

「……」

「あんたフウナのこと連れて行ったらしいわね!? 何処にいるのか答えなさい! あと一日だけ妹のお世話してくれてありがとう!」

「…………」

「ちょ、ちょっとお二人とも! そんな質問攻めをされたら、コクさんが困ってしまいますよ!」


 四人で廊下を走りながら、横にいるコオリとカゼコにめ~ちゃめちゃ因縁をつけられてる。そろそろ鼓膜が破れそうだ。

 なぜかヒカリが味方というか、仲介をしてくれているおかげでギリギリ『残りの仲間を見つける』という方向性で場の雰囲気は纏まってくれているのだが、もし彼女が一緒じゃなければ、きっと今頃ポコポコにされていたに違いない。

 

 金髪お嬢様が彼女らと同じ牢屋にいてくれて、本当に心底助かった。

 ありがとうございます……時間が出来たら一緒にお茶しましょうね……。


「んっ」


 戦闘訓練場、という標識が張られた大広間のような場所に出た。

 広さで言えば学校の体育館程度の面積だ。

 この支部の中央に当たる場所なのか、周囲にある出入口の数がかなり多く、ほぼどこからでもこの訓練場にたどり着ける仕組みになっているらしい。


 つまり──迷ったらとりあえずこの訓練場に行きつくというワケだ。


「あっ、みなさんあちらっ、ライ部長ではなくて?」


 ヒカリが指さした場所には、電撃を纏った鉄パイプでサイボーグを数体倒したように見える、少々息切れした様子のライ会長が立っていた。

 やはり会長も施設内を歩き回って、結果的にここへ流れ着いてしまったようだ。


 ……それにしても、会長といいレッカといい、一度負けた相手には普通に勝ってしまうあたり、戦闘能力の成長スピードが早すぎないだろうか。俺なんか風魔法がちょっとうまく使えるようになっただけなのに。


「フウナとオトナシはいないみたいね。館内放送でレッカが脱獄したのは知ってたけど、まさか部長まで牢屋をぶっ壊してたなんて、マジで驚きだわ……」

「流石ライ部長だねっ!」

「わたくしたちの部長は無敵ですわ~!」


 会長の最強っぷりを見せつけられて、思わず語彙力が低くなるメンバー三人。

 それだけライ会長の姿が鮮烈に見えているのだろう。やっぱすげぇ人だわ。

 ていうかこの三人とも、こうして見るとレッカよりライ会長に対してのほうが好感度高そう。理想的な上司なんだろうなきっと。


「はぁっ、はぁ……むっ」


 俺のチームにも率先して前に立ってくれるリーダー欲しいな~、とか思いながら彼女らを眺めていると、会長が気づいてくれた。

 他の部員を差し置いて、いの一番に俺との視線が合わさっちゃったので、会長はもしかすると俺のことが好きなのかもしれない。


「よかった、みんな無事だったか。……おや、コクもいたんだね」


 全然俺のことなんか気づいてなかったから、さっきのは自意識過剰だったようだ。恥ずかし。

 もう俺から話しかけちゃおう。


「ライ会長も、無事でなにより」

「ふふ、ありがとう。……なるほど、その様子を見るにきみが彼女らを牢から出してくれたんだね。部長として礼を言わせてもらうよ」

「どういたしまして」


 ライ会長も俺たちの方へ合流し、早くも五人揃うことが出来た。ちょうど戦隊ヒーローみたいな数だ。

 肝心の赤色であるレッカが見つからないけど、アイツどこ行ったんだろう。

 てっきり俺の後ろから追いかけてくると思っていたけど──



「コク! 見つけたぞッ!」


 と、そこまで考えたところで、正面の出入り口からレッカが入場してきた。なんか衣月を肩車した状態で。

 てか後ろに残りのメンバーだった音無と風菜もおるな。合流できたようで何よりだ。


「あら、レッカ様ですわ。オトナシちゃん達もいますわね」

「フウナー! お姉ちゃんよー! 怪我とかないー!?」

「よかった……これでヒーロー部は全員集合ですね、部長」

「あぁ、そうだな。……しかし、妙だ。組織の支部という割には、敵の人員が少なすぎるような気もする……」


 会長のフラグっぽい独り言はさておき、俺が手を振ると、肩車でレッカの上に乗ってる衣月が手を振り返してくれた。あいつら親子みたいだな。


「……みんな、コクと一緒にいたんだな」

「えぇ、彼女がわたくし達を助けてくれたのですわ。レッカ様はオトナシさんを?」

「まぁ、ね。ほとんどフウナのおかげだけど」

「エッヘン!」

「さすがフウナ! お姉ちゃん鼻が高いわ!」

「あれ……? ふ、フウナちゃんもしかして、独り立ち出来るようになったの?」

「ふっふっふ、驚きましたかコオリ先輩。もう以前までのお姉ちゃんにべったりなフウナ先輩ではないんスよ!」

「えぇ~ッ!? すごい成長じゃん!」


 ……もしかして、ヒーロー部同士の会話って、あんまり知能指数が高くない感じなんです……?

 思ったよりもほんわかした空気が流れてて安心した。これが部活メンバーの雰囲気ってヤツか。


 あぁ、いや、これが当たり前なんだよな。

 実際の所、因縁がバッチバチなのは俺とレッカだけだもんな。


「……コク」

「レッカ……」


 なんだかレッカと俺の所属チームが正反対になったような状態で、俺たち以外のみんなが離れた状態で会話をしている。

 いつも主人公と一緒だったメンバーは俺の周りに。

 女に変身して逃げ出したわる~い友人キャラの仲間は、彼の方に。


 まるでメンバーの交換会でもやるような雰囲気だ。見事に逆のパーティになってしまっている。

 

「みんなを助けてくれた事には礼を言うが、きみ自身のことに関しては別の話だ」

「こっちもそう。音無を解放してくれたことは感謝してるけど、衣月に肩車してもいい許可を出した覚えはない」


 バチバチと視線がぶつかり合う。けど周囲の雰囲気が悪くなる様子はない。この子たち肝が据わりすぎてない?


「コオリ、こっちに来るんだ」

「あ、うん」

「衣月、おいで」

「わかった」


 レッカの上から飛び降りた衣月がポテポテと小走りでこっちに向かってくる。

 それとすれ違うようにして、コオリがレッカの元へ行った。

 まずは一人だな。


「他のみんなも戻ってきてくれ」

「えっ、ズルい」

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