忍法・ヒロイン奪いの術 2


 一気にメンバーをゴッソリ持ってかれてしまった。これが主人公力の違いか……。

 俺の元に残ったのは衣月だけだ。構図的には『ヒーロー部 vs 白黒姉妹』みたいになってるけど、こんなん勝ち目がない。

 けど、諦めないからな。

 俺はまだ美少女ごっこをやめるつもりはない。雰囲気なんかにゃ負けねぇぞ。


「コク、僕たちは一年間街や国を守ってきたヒーロー部だ。警察に組織のスパイがいたとしても、僕たちなら君を守れる。その少女だって例外じゃないんだ。二人も来てくれ」

「……どうするの、紀依」


 ふっふ、愚問だな。この程度じゃ狼狽えたりしないぜ。


「行かない。レッカ、あなたは私のペンダントを奪おうとした。だから絶対に仲間にはならない」

「……アポロを解放するためだ。自由に行動がしたいなら、僕の体を使ってくれればいいじゃないか。これ以上僕の親友を巻き込むな」

「これはアポロの意思で、ペンダントは私と彼を繋ぐ絆。あなたにこれを渡す理由は無い。……コレを奪うということは、アポロの覚悟を踏みにじる事でもあることに、気づいているの?」

「だとしても、だ。彼の気持ちは尊重してやりたいが、キミと一緒に死なれたらたまったもんじゃない」


 どうしても拒否するなら実力行使も辞さない──といった雰囲気を感じる。


 いいじゃないか、面白くなってきやがった。

 ようやくレッカも本気モードになったという事で、こっちも隠しヒロインムーブに熱が入るってもんだ。


 意地でも衣月は俺が送り届ける。ヒーロー部の力を借りた場合のリスクとリターンを考えても、それが美少女ムーブしつつ安全に衣月を旅させる最善の選択だ。なにより両親との約束がある。

 ここで仲間になったらハーレム入りだから、絶対に仲間にもならない。絶対に、だ。


「あなたには従わない。前にも言ったでしょ、アポロを取り返したいのなら、私を殺せって」

「……っ」

「友人を自分の手元に戻すための選択肢は、このペンダントを破壊する事だけ。誰もかれもがあなたの輪の中に入るわけじゃない。私はヒーロー部にはならない」


 まだ攻略なんかさせないぜ、親友。

 漆黒は攻略難易度も攻略手順も一番面倒くさいヒロインなんだ。根気を見せてもらわないと困る。

 それに俺がここで仲間になったら、決死の想いでヒーロー部を裏切った後輩の意思を無駄にすることになるからな。

 もうレッカと一緒に戦えば万事解決、だなんて単純な話じゃないんだ。


「だったら力づくで──ぁっ。……お、オトナシ?」

「ごめんなさい、レッカ先輩」


 レッカが実力行使に出ようとしたその時、音無が前に出た。

 彼女はそのままスタスタと前へ進んでいき、ついに俺の隣に来てから彼の方へ振り向いた。


「私は……こっちに付きます」

「な、なにを言ってるんだ、オトナシ。コクの正体が判明したいま、状況は変わった。すぐにでも保護して、アポロの安全を確保するべきじゃないか」

「レッカ先輩がいなくても、あの人は大丈夫です」

「……ッ! バカな事を言ってないで戻ってくるんだ!」


 音無は不動を貫く。衣月の手を握り、真っ向からレッカと対峙する。


「戻りません! 先輩も衣月ちゃんも──私が守ります!」

「オトナシ……」

「あの、あたしもあっちに行きますね……」

「ちょ、フウナ!?」


 ついでに百合女もこっちに来やがった。

 なんでやねん。


「レッカさん、今までありがとうございました。……えへへっ♡」


 おい引っ付くなバカ。

 何これ、共闘はしたけど仲間に誘った覚えはないんだが。

 てかなんでそんなホイホイ主人公を裏切れるの? 裏切りのバーゲンセールかよ。

 悪いこと言わないからお前は戻れって……。


「な、何だ、そのフウナの態度は。明らかにキミに惚れているぞ。一緒に過ごしたのはたった一夜のはずだろ」

「そのはずなんだけどね……」

「まっ、ま……まさかえっちな事をしたのか!?」

「あの主人公スゴイこと言い出した」


 するわけねーだろ!!!!

 何だよアイツ、クールになったかと思ったら全然そんな事なかったぞ!?


「きみは魔性の女だ……ッ!」

「あなたも女の子を侍らせてるけどね」

「黙れ! 実際に手を出したきみの方が罪深いぞ! もしやオトナシにも──あギャッ!?」


 突然レッカの額にクナイがぶっ刺さった。

 もしやと思って隣を見てみると、顔を赤くした状態で、若干怒った表情の音無さんがいらっしゃった。こわい。


「男子って本当、ばか……ていうか先輩、変な設定増えてませんか」

「ウッ……で、でも、レッカのあれはやりすぎじゃない?」

「うるさいです。言っておきますけど、あれセクハラですからね」

「ぉ、オトナシ……? いたい……」

「今のは確実にレッカくんが悪いと思うよ?」


 コオリさんの冷たい一言がグサリと刺さったのか、落ち込む親友。なんだか哀れに見えてきた。

 同じ男として庇ってやりたいところだが、今は敵対してるから無理だ。ごめんよれっちゃん……。


「こらフウナ! お姉ちゃんのとこに戻ってきなさい!」

「あっ、あたしは恋を知りましたッ!!!」

「えっ……。そ、それだと、無理強いはできないわね……」


 あの姉妹いろいろ感覚がおかしくない? これ俺が変なの?


「それなら三日に一度は電話をすること! いいわね!?」

「わかった! ありがとうお姉ちゃん!!」

「いいのよ……わたしは妹の恋路を邪魔するほど、野暮な女じゃないわ……」


 野暮な女であってほしかった。


「コク、きみはやっぱりオトナシとフウナを……!」

「忍法・ヒロイン奪いの術でござる。にんにん」

「キサマぁ゛ッ!!!」


 俺すらも思考放棄をしてレッカを煽り始める始末だ。

 もう、今すぐこの場から逃げ出したい。



 ──と、そう思った矢先のことだった。




『施設爆破までのカウントダウンが三分を切りました。館内に残された職員並びに戦闘員は、早急に地下室の脱出用ポッドまでお急ぎください』




 そんな館内放送が、辺り一帯に響き渡った。


 ……そういえばだけど、ライ会長が何かフラグっぽいことを言ってた気がする。


「……なるほど、やはりな」

「ど、どういうことですの、ライ部長?」

「この組織の支部の中にいた敵が、サイボーグしかいなかった理由だよ。ここ自体を爆発させて、わたし達を一斉に亡き者にしようとしていた──という事さ」


 ドヤ顔でいう事だろうか。

 てか悪の組織めっちゃバカなことするじゃん。何で捕まえたいはずの俺と衣月がいるのに、建物ごと爆破させようとしてたの? もしかして俺たちが戦ってる間に、外で何かあった?

 ……冷静にこの状況、めちゃめちゃヤバくないか。

 

「敵だ味方だ、という話は一旦保留だ。まずは部員一同、地下に向かって……」


 スゥっ、と息を思い切り吸って、一言。



「──走れぇぇぇぇッ!!!!」



 そんな部長の叫びによって、バラバラだったこの場の全員の気持ちが、一瞬にして同じになったのだった。


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