私は先輩の 3



 さすがにこれ以上俺の美少女ごっこに付き合わせるのは悪いと思ったので、それとな~くヒーロー部へ戻れるよう音無を説得したつもりだったのだが。


 いつの間にか、その後輩に抱きしめられてました。

 あと『責任とれ』とかいう、そこはかとなくえっちな香りが漂うセリフも言われちゃって、もう頭ん中どったんバッタン大騒ぎです。

 なにこれ……。


「あの、音無。……その、当たってるって」

「鈍いですね、当ててるんですよ」

「ウソでしょ」


 何だこの小悪魔!?(驚愕)

 ふえぇ……こんな子に育てた覚えはないよぅ。


「ほ、本当にいいのか? ここまで来たら……もう戻れないぞ?」

「いいんですってば。私の居場所は、先輩と衣月ちゃんのいるところですから」


 今すれ違いが発生したわ。俺はちょっと良からぬ事がおっ始まると考えてたんだが、後輩はシリアスに居場所の話をしていらした。思春期の脳みそで本当にごめんなさい。


「と、とりあえず離れない? 隣の部屋で衣月も寝てるし……」

「……せんぱい、から」

「えっ?」


 なんつった? 全然聞こえなかった。

 いや難聴キャラとかじゃなくて、こんな密着してても聞こえない声量ってよっぽど小さいぞ。俺は悪くねぇ。


「……~っ! で、ですからっ、先輩から抱き返してくれたら、離れてあげてもいいです」

「密着したら離れらんねぇだろ……」

「そういう屁理屈っぽいのいいですから!」


 まっとうな反論では……?


「私への誠意があるなら……ぎゅってしてください」

「音無……」

 

 ぎゅっ、て言い方がかわいいと思った(小並感)

 てかマジでこれどういう状況なんだよ。

 音無の好感度が上がるイベントなんてやった覚えないぞ。バグが発生している。


「…………ひとりに、ならないでください」

「……あぁもう、分かったよ」


 信じがたいがどうやらこの状況は、音無の中ではシリアスな雰囲気になっているらしい。こっちは生まれて初めて女子に抱擁されて、絶賛心臓バクバク中なんだが。

 ここはもう腹を括って……そうだな。

 ヒロインにモテモテなあの方を参考にさせて頂いて、レッカがやりそうな対応で乗り切っていこう。


「ありがとな、音無」

「……あの。抱き返すのはともかく、頭を撫でていいとは言ってませんよ」


 あれぇ? おかしいぞ……!? レッカみてぇな主人公ムーブが正解なのではないのか!?

 ……あ、離した。

 一応何とか離れてもらえてよかった。助かった。


「まぁいいです。今日はこんなところで勘弁してあげます」

「できれば明日以降も遠慮させてくれ」


 俺の心臓が持たないため。


「……嬉しくなかったッスか? ウチとのぎゅー」

「うれしかったです正直興奮しました」

「キモ……」


 あっ!? てめっ、このメスガキ……ッ!

 今のは嘘だが。先輩は後輩に抱き着かれても、別に興奮などしないが。


「どうでもいいっすけど、夜遅いですし……寝ましょっか」

「まて、それはどういう意味だ」

「先輩ちょっと脳が思春期すぎません? 今の言葉を就寝以外の意味で捉えないでしょ、ふつう」

「思わせぶりな発言をするお前の方が悪いと思うのは俺だけか?」


 あーだこーだ言いつつも、なぜか俺の手を引いて衣月が眠っている布団まで移動する音無。

 オイ、そんな簡単に男子の手を握るんじゃねぇ。好きになるぞ。


「ほら、衣月ちゃんを挟んで、三人で川の字になって寝ましょう」

「なかよし兄妹じゃないんだぞ」

「もう衣月ちゃんの家族みたいなモンでしょ」

「……お前が嫁で、衣月が娘か……なるほどな……」

「何でですか。それこそ普通に兄妹でしょうが」


 布団にイン。本当に衣月を挟んだ状態で、三人で寝ることになってしまった。


「ていうか音無さん? もう手は放してくれていいですよ」

「ダメっす。コレは『早朝、俺は眠っているオトナシの前から姿を消した』──とかカッコつけた逃げ方をさせない為ッスから」

「信用なさすぎない?」


 ぶっちゃけた話、いざとなったらそういう逃げ方で別れようとしていたのだが、お見通しだったようだ。流石は忍者、読心術も心得ているらしい。


「負けたよ、音無」

「ふふっ。先輩はまだまだ甘いッスね」

「じゃあもう寝よう。おやすみニンジャ、にんにん」

「定期的に忍者をネタにして煽るのやめた方がいいッスよ。ちゃんと怒りますからね、ウチ」


 こわい。


「……ほら衣月ちゃんも先輩を逃がさないよう、しっかり服を掴んどいて」

「分かった。わたしたち三人は死ぬまで一緒」

「ちょっ、いつから起きてたんだお前!? 離せェ!!」


 

 衣月も音無も、俺が思っていたよりも強かな女の子で。

 気づいた頃には、シリアスな嘘から始まったこのチームも、いつの間にか愉快な仲間の集まりになってしまっていたようだった。

 それはそれとして、この状態は寝苦しい。



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