『お憑かれさまでした。』
やましん(テンパー)
『散歩』
『これは、フィクションです。』
ある日、ぼくは、割りに近くの古墳を尋ねにゆきました。
古墳と言っても、大小様々で、特に名高いわけではないものが、各地に沢山あります。
奥さんのびーちゃんは、一緒のお墓には入りたくないと言っていますし、まあ、どうなるかわかりませんが、ぼくのお墓は、きっと古墳にはならないでしょう。
つまり、古墳というものは、様々なタイミングに恵まれて、残ったわけなのです。
おかげがあれば、ありがたいくらいです。
ところで、古墳は、必ずしも便利な場所に有るわけではありません。
むしろ、今は山の中で、しかし、むかしは、海岸だったあたりに、わりに良くあるようです。
今日尋ねました場所も、そうです。
車で行けば、街中から一時間もかからないのですが、車を止めて、そこから、ちょっと歩かなければなりません。
街から、近くにあるわりに、山の中なのです。
他に、尋ねてきている人もなく、なんとなく、うすら寒く、気味悪い感じです。
しかも、秋の夕暮れは、急速にやって来るのです。
でも、雰囲気が、あると言えば、それもまあ、そうですね。
小さな古墳さんは、ひとり寂しく、空しい穴を覗かせたまま、佇んでいました。
むかしは、ちゃんと蓋がしてあったらしく、もしかしたら、その名残らしき岩が口の前に転がっています。
おそらく、かなり以前に市が建てた、短い解説文がありましたが、それもかなり壊れて、文字も読みにくく、すでに足がおれてしまい、崖に寄りかかり、瀕死の重症です。
いったい、どんな、誰が葬られたのかは、もはや、永遠にわからないでしょう。
ひとしきり見学させていただきまして、写真も撮り、なんだか寒くなってきたので、山道を自動車を止めた場所に帰ろうといたしました。
すると、丁度、山道から里に降りる分かれ目に、商店街ではときどき見かけるような、占い師のお姉さんが、小さな木のテーブルを出して、座っていたのです。
それは、いくらか、怪しい雰囲気がありました。
なんだか、大変に、古風な衣装なのです。
それも、ほとんど、誰も来ないだろう、こうした場所に座っているのですから。
ぼくは、多少、落ち着かない面持ちで、小さな会釈をしながら、その前を通りすぎようとしたのです。
すると、案の定、声を掛けられました。
『あなた、あの、失礼ながら、お身体、重たくないですか?』
『そりゃ、もう、歳ですからね。』
『いえいえ、そうではなくて、そんなに、沢山の方を引き連れていては、大変かと。』
『は?』
反射的に後ろを見ましたが、誰もいるはずもありません。
『やはり、見えてはいないですか。あなたの周囲には、あなたを守ろうとして、たくさんの、たぶん、ぬいぐるみさんや、お人形さんが取り巻いています。そうして、あなたを頼ろうとしている、様々な元ひとや、生き物が付き従い、さらに、あなたを潰したい、恨みを懐くものたちがすきを窺って付いてきております。大概、みな、多少はあるものですが、あなたは、それらが付き従うのを許しておられるらしい。まあ、いくらか、語弊がありますが。ああ、見料は求めませんよ。ちょっとした、珍しいケースでしたから、興味がありまして。失礼いたしました。あ、これ、お守りです。今日は、お墓参りをしていただいて、ありがとうございました。ほんの、お礼です。どうも、お憑かれさまでした。』
『はあ。あの、お疲れ様です。』
なんだか、良くわからないのですが、ぼくは、『お守り』という、小さな木の実のようなものを頂き、里に向かいました。
そして、無事に自宅に帰り着きました。
お守りは、神棚におきました。
もう一度、行ってみるべきかどうか、ちょっと、迷っております。
🍂
『お憑かれさまです。』にしていましたが、同じ題名の作品がありましたので、変更いたしました。
『お憑かれさまでした。』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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