青いキノコと赤いキノコ

「やったか!」


 アッシュさんがありがちな台詞を投げかけるけど、ゴブリンキングはちゃんと息絶えているように見えた。


 一方襲われていたセッタちゃんに真っ先に駆け寄って猿ぐつわを外したのはセレナさん。


「大丈夫? セッタちゃん、怪我はない?」

「は、はい。皆さんのおかげで私は無事です」

「良かった~!」


 セッタちゃんの無事を確認したセレナさんは、大きな胸をほっと撫で下ろす。


「それにしても大きな獣ですね」

「もしかしてはなちゃんのこと?」


 僕が確認するとセッタちゃんはこくりとうなづいた。

「はい。そんな大きい獣を従えるなんてすごいです」

「え。そうかなあ?」


 はなちゃんは僕の相棒なんだから当然だと思うけど。


「それじゃあここから撤収するルン!」


 ラルンの号令でみんなが洞窟の入り口を向いたその時だった、はなちゃんが後ろを振り向いた。


「え、どうしたのはなちゃん?」

「パオン!」


 向き直ったはなちゃんの目の前で、死んだはずのゴブリンキングの手が微かに動いたかと思ったら急に立ち上がったんだ。


「ヌジャジャアアアア!!」


「なにっ!? まだ生きてやがったのか!」


「ズオオオ!!」


 だけどいち早く気づいてくれたはなちゃんが、ゴブリンキングを洞窟の壁に思い切り打ち付ける。


「ヌジャアアアアア……!」


 丁寧に牙も突き刺してトドメを刺したところで、ようやくゴブリンキングは本当に息絶えて崩れ落ちた。


「ったくしぶとい奴だぜ」

「もしはなちゃんが気づいてなかったら、自分たち不意を突かれてたっすね」

「危ないところだったルン」


 セレナさんの仲間たちが口々に安堵したところで、僕たちはセッタちゃんを連れてヒアデス村に戻ることに。


 洞窟を出たところで、セレナさんはセッタちゃんに赤いポシェットを差し出す。


「これ、セッタちゃんのでしょ?」

「はい……! 拾ってくださったんですね、ありがとうございます! 良かった……、これでキノコを持って帰れます!」


 受け取ったポシェットを大事そうに抱き締めるセッタちゃんに、僕はなんか微笑ましくなってしまった。


 僕もはなちゃんがぬいぐるみだった頃は、ああしてぎゅーっと抱き締めてたなあ。


 そんなことを考えながらはなちゃんに目を向けると、彼女は不思議そうに顔を向ける。


「パオ?」

「ん、なんでもないよはなちゃん」


 たとえ大きくなってもはなちゃんははなちゃんだから、これからもずっと大切にしていきたいな。


 ふとはなちゃんがセッタちゃんのポシェットに鼻を伸ばす。


「きゃっ! なんですか!?」

「はなちゃん!」


 思わずセッタちゃんが落としてしまったポシェットからこぼれたのは、青くて白いまだら模様のキノコと同じ模様で赤いキノコだった。


「はわわわ、ブルーマッシュとレッドマッシュが~!」


 慌てて赤いキノコを拾ったセッタちゃんだけど、はなちゃんが青い方のキノコを鼻で探ってから、パクリと口に放り込んでしまった。


「ちょっとはなちゃん! 人のものを勝手に食べちゃダメっていつも言ってるでしょ!!」

「ブロロロロ……パオ!?」


 その時だった、はなちゃんの身体がまばゆく光りだしたんだ。


「わわっ、眩しい!」

「何なの一体!?」


 僕たちが目を覆ってから再び視界が開けた時、予想外の変化がはなちゃんに起きていた。


「本当にはなちゃんなの……!?」


 なんと目の前で巨体を誇ってたはずのはなちゃんの身体が、僕の腰くらいの高さにまで小さくなってたんだ。


「ウソでしょ……!?」

「あんなに巨大だったはなちゃんが……!」

「信じられないルン!」


 突然小さくなっちゃったはなちゃんを前に、セレナさんたちが口々に驚きを口にする。


 だけど一番驚いてたのは、やっぱり当のはなちゃん本人だった。


「ピュオ……ピャオ!?」


 ちんちくりんになった鼻を振り回しながら興奮して走り回るはなちゃん。


 一体どうして……!?


 そうだ、あの青いキノコを食べてからこんなことになったんだ。


「ねえセッタちゃん、さっきの青いキノコって身体が小さくなる効能でもあるの?」

「いえ、……ブルーマッシュは鎮静効果があるキノコではありますが、身体が小さくなるなんて聞いたことありません……」


 たどたどしく否定するセッタちゃんに、僕は腕を組んで唸る。


「じゃあなんで……?」


 するとフンと鼻を鳴らしながら口を開いたのはアッシュさんだった。

「あいつデカいだけじゃなく魔法も使ったり常識外れな奴だったからな、予想外なことが起きても不思議じゃないぜ」

「あれ、意外と落ち着いてるんだねアッシュ」

「馬鹿言えセレナ、俺はもう得体の知れないあいつにいちいち驚くをのやめただけだ」


 セレナさんの反応に素っ気なく返事するアッシュさん。


「だけどどうしよう、これじゃあ明日から困っちゃうよね……?」


 まだ興奮覚めやらない小さなはなちゃんに、僕は頭を悩ませてしまう。


 こんなに小さいと僕とルナちゃんを乗せて歩くなんて無理だよね……。


 するとここで手をポンと叩いて提案したのはセッタちゃんだった。


「あの……、このレッドマッシュを食べれば元の姿に戻るんじゃないでしょうか?」

「レッドマッシュって赤い方のキノコだよね。そっちは身体が大きくなる効能でもあるの?」

「いえ、レッドマッシュは気分が高まる効能があるだけです。……ですがブルーマッシュとは反対の効果なので、もしかしたら……」


 そう説明したセッタちゃんがレッドマッシュを取り出すと、はなちゃんがすぐさま駆けつけてそれを口に放り込む。


 するとまたはなちゃんの身体がまばゆく光りだした。


「ううっ!」

「ええまたぁ!?」


 そして光が収まると、今度はいつもの大きさに戻ったはなちゃんの姿が。


「……プオ?」

「良かった、元に戻ったんだね!」


 僕がその鼻に抱きつくと、はなちゃんは安心したように喉を鳴らす。


「ブロロロロ」

「良かったねゆー君、はなちゃんが元に戻って」

「うん、これで明日からも大丈夫だよね」


 はなちゃんが元に戻ったところで、僕たちはアイン山を出てヒアデス村に戻った。

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