ワイツ君の夢

 翌日、僕とはなちゃんそれからルナちゃんを加えた三人で領主様たちと同行する形で出発することになった。


 ちなみにワイツ君もベイルガードさんと一緒の馬に乗っていくみたい。


「王都アル・デ・バランかあ、今からすげ~楽しみだぜ!」

「ははは、連れていくと約束したからな」


 父親のベイルガードさんと一緒で楽しそうなワイツ君。


「ねえねえルナちゃん、王都アル・デ・バランってどんなところなの?」

「ルナも行ったことないので詳しくは分からないですけど、お姉ちゃんの話だとすごく賑やかな都会なんですって」

「そうなんだ~」


 日本でいう東京みたいなものかなあ?


 そういえば一緒に行くって言ってたセレナさんだけど、突然仕事が入って先に王都へ出発したって言ってたっけ。


 今朝もあの人、僕たちのことが心配だって最後まで仕事行くの渋ってたな~。


 まあでも、ベイルガードさんや騎士団の皆さんがいるから大丈夫だよね。


「気をつけて行くんだぞ~」

「騎士団の人たちに迷惑かけるんじゃないよ?」

「は~い。お父さん、お母さん、行ってきま~す!」

「行ってきます!」


 ユノさんとゲイツさんをはじめとした村のみんなに見送られて、僕たちも領主様の馬車に続いて村を出発した。


 もちろんレインボーフェニックスの羽根が入った木箱もはなちゃんの身体にくくりつけている。


 馬車と騎士団の馬に混じって巨大なゾウのはなちゃんが歩く様子はやっぱり目立つみたいで、すれ違う人たちみんながビックリしてしまう。


 これもいつものことだよね。


 しばらくして僕たちはまずアトラスシティーに立ち寄ることに。


 なんでもここで必要な物資の補給をするんだって。


 僕はその間暇だから、ルナちゃんと一緒に久々の観光がてらの散歩をすることにした。

 ちなみにはなちゃんは騎士団の皆さんが見てくれることになったよ。


「やっぱりアトラスシティーは賑やかですね~」

「うん。だけどアル・デ・バランはもっとなんでしょ?」

「はい。お姉ちゃんから聞いた限りでは、ですけどね」


 ルナちゃんと並んで歩いていると、裏通りの方で何かの噂話を小耳に挟む。


「最近魔物の討伐依頼多すぎねえか?」


「噂によると国王の誕生祭が近づくほどに増してるって話だ」


「こりゃ今年の誕生祭は荒れそうだな」


 うーん、なんだか穏やかじゃない噂だな……。


「どうしたんですか、ユウキくん? そんなにうんうんうなって」

「え? ううん、なんでもないよ」


 そうだ、僕がルナちゃんを守らなくちゃなんだ。


 そんなことを考えてたら、ふとあるお店の前で立ち止まっているワイツ君とベイルガードさんの二人を見かける。


「あ、ワイツ君~、ベイルガードさ~ん!」


 僕が手を振って声をかけると、二人とも獣耳をピクンと動かしてからこっちを向いた。


「なんだお前らか。二人で散歩してたんじゃねえのか?」

「そうなんだけどさワイツ君、このお店は?」

「武器屋だよ。父ちゃんに連れてきてもらったんだ!」


 ワイツ君の言う通り、目の前のお店は交差した剣と盾を模した看板がいかにも武器屋さんって感じ。


 武器屋さんか~、異世界だからこんなお店もあるんだね。

 ここで口を開いたのはルナちゃんだ。


「ってことはワイツくん、武器を買ってもらうんですか?」

「ああ! オレももう十二だからな、前々から剣を買ってもらう約束をしてたんだよ!」

「剣か~! 僕も欲しいなあ」


 僕の一言にルナちゃんが疑問を投げかける。


「ユウキくんにははなちゃんがいるんですから、剣なんていらないのでは?」

「確かにはなちゃんがいるときはいいんだけどね、僕自身も身を守る力をつけないとって思って」


 実際はなちゃんがいないと今の僕は無力だからね……。


 それを聞いたベイルガードさんが豪快に笑ってこう応えた。


「ハハハ。それならユウキ君の剣も一緒に買ってやろう」

「父ちゃん! 別にこいつにまで剣を買ってやることねえだろ!?」


 歯を剥き出して異を唱えるワイツ君に、ベイルガードさんはこう諭す。


「正しく強くなりたい者がいたら力を貸す、それも騎士の務めなのだよ」

「ちぇっ、そんなものかよ……」

「ありがとうございます、ベイルガードさん!」

「それじゃあみんなで入ろうか」


 ベイルガードさんに先導されて武器屋さんに入ると、そこは黒光りするいろんな武器が陳列する、今までに見たことのない空間だった。


「わ~、すごーい!」

「すげー! 武器がこんなにいっぱい!!」


 ワイツ君もたくさんの武器を前にワクワクが隠せないみたいで。


 奥にいる店主さんがそんな僕たちに気づいて声をかける。


「へいらっしゃい! おや、あなたはベイルガードさんではないか。今回は子連れか?」


 快活に訊ねる店主さんは小柄なんだけど髭もじゃのおじさんだった。


 ああいうのをドワーフっていうんだよね、ファンタジーものでそんな種族がいた気がするよ。


 そんなことを回想してる間に、ベイルガードさんが店主にお願いする。


「これはこれはスミス殿。今回は連れのこいつらに護身用の剣を選んでくれないか?」

「ほう、騎士のお前が子供に剣をか。よし、少し待ってろ」


 ドワーフのスミスさんが奥に引っ込んだところで、僕はベイルガードさんに話しかけた。


「あの人と知り合いなんですね」

「ああ。あのドワーフ爺さんにはたまに武器の手入れを頼んでいるからな」


 やっぱりドワーフだった!


 少し待つとスミスさんがちょっと小振りな剣を二本持ってくる。


「子供が使う分にはこれくらいがちょうどいいだろう」

「ああ、助かるよ。ワイツ、こいつを持ってみるか?」

「いいのか!?」

「ああ。その剣が手に馴染むようならそいつはお前のものだ」


 ニッと微笑むベイルガードさんの前で、まずワイツ君がスミスさんの剣を受け取った。


「うげっ、思ったよりも重いな……!」

「それが剣というものの重さだ。そいつで命を奪うことも守ることもできる、分かるな?」

「父ちゃん。オレ、この剣を正しく使うよ!」

「それでこそ我が息子だ」


 自分の剣をもらって嬉しそうに尻尾をピンと立てるワイツ君の頭を、ベイルガードさんがワシャワシャとなでる。


「こいつはユウキ君のだ」

「はい! ――重たっ!?」


 ワイツ君も言ってた通り、剣は思っていたよりもずっしりと重くて腰が引けてしまった。


「君も本物の剣は初めてのようだったな。息子にも常々言っているが、剣は使いようによっては大切なものを守る武器にもなればいたずらに人を殺める凶器ともなる。正しく使ってこその剣だ、分かるな?」

「はい! ありがとうございます、ベイルガードさん!」

「王都から帰ったら二人には剣の使い方を教えよう。それまでは二人の剣は預かっておくが、良いな?」

「ええ~っ! そんなあ!」


 剣を預けるときいて嫌そうな顔をするワイツ君に、ベイルガードさんは優しくさとす。


「いいかワイツ、剣は正しく使わなければかえって危険を招くことになるのだ」

「オレにはまだ持つ資格がねえってのかよ……」

「そうだ。お前にはまだ早い。剣を持ちたくば正しく使えるだけの技量を身に付けることだ」

「お、おう! オレ頑張るよ!」

「それでこそ我が息子だ!」


 頭をワシャワシャなでてもらって機嫌を直すワイツ君。


 そんなこんなで散歩から帰ってきた僕たちは、宿で一夜を過ごすことに。


 この世界の宿は初めてだなあ、どんな感じなんだろう?


 領主様たちが町の宿屋に入ると、宿屋の人たちがビックリ仰天していた。


 そりゃあいきなり領主様が泊まりに来たら驚いちゃうよね。


「本当にこんな町の宿屋でいいんですか?」

「こんな宿屋だからいいんだ。領主だからといって豪勢にする必要はなかろう」

「そういえばそのようなお方でしたね、貴方は」


 ベイルガードさんと領主様の会話を小耳に挟みつつ、僕はワイツ君と相部屋に入った。


「へ~、こんななんだね」


 部屋の中は簡易的ななベッドがあるだけの簡素なもので。


 ベッドで軽く横になると、少し疲れが取れるような気がした。


 これから王都への旅が始まる、そう考えたら楽しみと不安の両方がわいてくる。

 王都、どんなところなんだろう。


「そういえばワイツ君も王都に行きたがってた素振りだったよね。どうして?」

「オレか? そりゃあお前みたいに行ったことのない王都を見てみたいってのもあるさ。だけどそれだけじゃない、オレには夢があるんだ」

「夢?」


 首をかしげる僕に、ワイツ君は説明を続けた。


「オレはな、父ちゃんみたいな立派な騎士になるのが夢なんだ。王都に行けばその夢に近づける気がするんだよ」


 そう語るワイツ君の眼差しはとってもまっすぐで、未来のことなんてこれっぽっちも考えてなかった僕には羨ましく思えた。


「その夢叶うといいね。僕も応援するよ!」

「お、おう。ありがとな、ユウキ」


 そうして僕はワイツ君と拳をコツンと突き合わせたんだ。


 この後宿の簡単な食事をみんなと一緒に取った僕は、そのまま眠りにつくことにした。

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